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第4章

60.雲の国に来る少し前その3(新章6話)

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ママが北の城へと向かう馬車が目視できなくなった所で、僕は自分の家に戻り、さっそく家事に取り掛かった。

「水の精霊よ。風の精霊よ。力を貸し賜え。その力によって得られる清潔な空間は旅から帰ってきたママをいつものように感動させるだろう。僕はそんなママとラブラブな時間を過ごすことを誓おう!夫婦円満魔法ウォッシュ。夫婦円満魔法クリーン!」

魔法練度の高くなったウォッシュで洗った洋服は、生乾きでも匂わない事はもちろん、夫婦円満魔法アイロンをかけなくてもシワが伸びており、何より部屋干しでも太陽の香りがする程の力を手に入れていた。

クリーンも同様で、最近では花瓶を風の力で持ち上げ、瓶の底の誇りを掃うなど、細かい所にまで手を届かせることができる。集中力次第では日焼けした本の紙を削り、新品同様にすることも可能である。

ウォッシュで洗った洗濯物に風の夫婦円満魔法ドライをかけると、あっという間に家事が終わる。所要時間はわずか10分。専業主夫なのにベテランのハウスキーパーを頼んでいる感覚だ。

魔法練度の重要性を再認識しつつ、僕は次の準備に取り掛かる。


そう、ダンジョンの探索だ。


目的地はもちろんセイザン。数週間前に魔人を討伐したあの場所だ。

ダンジョンのボスである魔人を討伐したとはいえ、あのセイザン内にはまだ魔獣が蔓延っている。生態系が変化する中で、このカザハ村に被害が及ばないとは限らない。

実際にこの数週間、光る飛行魔獣がマナによって数回目撃されている。もしそれがDクラス以上の魔獣で、僕が騎士学校に入学した後でこの村を襲撃したとしたら、ママに被害が及ぶ可能性は高いだろう。

ちなみに、王国騎士学校推挙の知らせは意外なほど早く、魔人討伐から1週間程で僕の元に推薦入学試験のご案内と、その推薦状が届いた。素早い対応はもちろん魔獣被害が多くなり、国と騎士団がひっ迫している事の表れだろう。推薦入学試験までの期間は約6か月。

ただ、ママに推薦状をドヤ顔で見せたところ、

「うーん、あと15年早いぞ♡」

とマジな目で言われた。15年経ったら僕もう22歳だよ。この国では15歳成人なので7年ニートをしなければならない。それは避けたい。

まあダンジョンから帰り、幸せ草の禁断症状でほぼ1か月、呻き、泣き、吐き続け、その後は寝たきり。回復魔法を自分に掛けながら、苦しむ7歳の息子を見せつけてしまって、

今より危険に飛び込もうとして見える息子に「いいよ。行ってきな」という親はいないのはわかるんだけどね。

ママが思わず「うん」と頷く方法があればいいのだが。

「レンくんが勝手にどこかに行ったら、ママもの凄い泣くからね?もう引くくらい泣くからね?」

ママは泣けば僕が言う事を聞くと思ってるのだろうか…うん間違いなく聞いちゃうな。ママを泣かせるなんて僕に人生にとって一国を敵に回すより論外だ。とりあえず今の所妙案はないので、ゆっくり説得を続けていくしかない。

準備が出来た。薬草にサンドからもらったステータスの石を道具袋に入れ、マナの胸に突き刺さっていた魔剣を腰元に差す。なかなか冒険者の様で様になっている。

僕は家を飛び、北の森、そしてレイザンへと向かった。

今日は、というより最近はマナが遊びに来ない。というより来れない。理由は簡単でマナの騎士学校試験対策の為だ。

もちろんマナの元にも推薦状は届いており、最初は僕と同じように騎士学校入りを村長中心に反対されたのだが、

「じいじなんて大嫌い!!!」

この一言で状況が一変したらしく、今は筆記試験に向けて、読み書きの練習をしている最中だ。あの村長、孫に甘すぎる・・・。

北の森の中に入る。前より魔獣が落ち着いている気がする。魔人の影響下に無いからだろうか、エンカウントする事なく、ぐんぐん森の中を進んでいける。

それにしても、マナの読み書きを笑ってる場合でもない気がする。僕自身、入学試験、そして騎士学校入学までにやらなければならない事は多い。

① 母に入学の許可をもらい。資料に記入してもらう
② 入学試験の対策(学科は大丈夫・実技に剣技があると心配)
③ 王国騎士道全書の読破と技の習得(読破は出来たが技は1割程度かつ未習熟)
④ 金の獲得(騎士学校は無償。でも武器防具いいものを揃えたい+魔力石欲しい)
⑤ 魔法の強化(上級魔法を簡単に出来るようになりたい)
⑥ この村の安全の確保

・・・前途多難です。とりあえず出来る所からやるしかない。森を突っ切ってセイザンの麓へ。さすがにここから先で考え事はマズイだろう。

「…夫婦円満魔法ハイド&シーク」

身を隠しながら、鳥系の魔獣を倒して回る。魔人討伐後魔獣の量が減っていることは間違いないようだ。群れから離れた鳥獣を発見して、呼吸を整える。

「ステータスの石を使ってみるか。えっと…確か対象者に石の先を向けて・・・うん?どっちだ?こっちか?ほれ」

【 名 前 】ファイアバード
【ラ ン ク】C--
【 性 別 】メス
【 状 態 】一人ぼっち
【 H P 】150
【 M P 】70
【物      攻】50
【物      防】130
【魔      攻】103
【魔      防】85
【 俊  敏 】40
【 知 力 】35
【魔法 特技】炎玉、嘴一槍、炎の風
【固有スキル】なし
【 備 考 】群れで行動する事が多い危険生物。魔法攻撃(炎玉)の威力は高く遠距離攻撃の為注意が必要。また、捨身での嘴一槍は攻撃を受けると、騎士の盾をも突き破る。集団で炎の風を使い、辺りの温度を急激に上げ、息も絶え絶えになる獲物をしとめる等、狡猾な魔獣である。弱点はHPの低さと耐久性の無さくらいだろう。

ステータスの石ってマジ凄い!なにこれ、ランクも書かれているし備考欄も豊富!石の種類やらによって調べられることが違うって聞いてたけど、さすがサンド君ご用達。この情報量。かなり使える。これなら…

『…夫婦円満魔法クリーン!』

飛んでいるファイアバードの翼を風の刃で攻撃しバランスを崩させる。敵の見えない攻撃と、群れ行動を出来ていない状態のファイアバードが驚きながら真っすぐに急降下していく。

「…夫婦円満魔法アイスピロー!!」

で棺に入れて体力を一気に奪う。技を使う暇を与えない。

ハイド&シークからの魔法3連コラボは、見事にはまり、HP低め、魔法防御低め、Cクラス下位魔獣をあっさりと倒す事に成功した。

快挙だ。身が震える。これは快挙と言っていい。

魔人指揮による連動性を失った魔獣、実質タイマン。群れ行動を行っていないなど、好条件だらけではあるが、その辺は置いておいて悦に浸りたい。弱点を付けばCクラスでもあっさり倒せると言う事実は、今の僕にとって朗報と言えるだろう。

実際魔人はスキルで封殺しただけであるが、倒せなかったものの、アサシンウルフを倒してかなりレベルも上がり、死線をくぐる中で使い続けた魔法の練度もかなり高くなっている。

事実、魔人戦で夫婦円満魔法上級を乱発したこともあり、あの日以来、80%程度のMPで魔法を使用できている感覚がある。
興奮する僕の上空でファイアバードの群れが異変に気付き警戒音を鳴らしている。

僕はその場を後にして逃げるように山を登り続けた。

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