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1章 20年目の憂い
迷いはしがらみ故に
「シャリア?聞いているかい?」
心配そうに見つめる父セネルの声に私の意識は一気に引き戻された。
現実ともまごうことなき記憶の波は脈を速め、手先を冷えさせている。
膝の上で重ねていた手を握り父へ微笑む。
「大丈夫ですわ。」
「今度イリージアで行われる独立祭に私も出席するのだが。」
そうでした。
朝食の席で伝えられた独立祭の話にセシリアの記憶が流れ込んできたのでした。
このように鮮明に記憶の波にのまれたのは久しくなかったので頭もなぜだか靄がかかっているようです。
「華の独立時代から20年の節目でもあり王女殿下も出席されることになり、、、。」
珍しく言い淀むセネルをシャリアは急かすことなく洗練された動きでスープを掬う。
「陛下からの打診でフィオネ王女と一緒に式典へ出席してほしいと。お断りしようと思っているが一応伝えただけだ。」
スプーンを皿にあてた音が響く。
僅かなはずの音はシャリアの動揺を表すには十分で、この後に続く彼女の言葉をセネルや執事らも一様に同じ予想をしていた。
一息置いてスプーンをテーブルへ置くと彼女は公爵家当主に顔を向ける。
「フィオネ王女はまだ14歳ということもありご心配なのでしょう。陛下のご期待を裏切るなどフォンゼル家の名に恥はかけられません。」
その場にいる者らの予想とは正反対の言葉に沈黙が訪れた。
セネルはどこか遠い意識のなかで何かを思い出しかけたがそれもすぐに消える。
「、、、だが社交界デビューもしていないのに外交の場へ出ては。」
セネルの杞憂は最もである。
社交界はいわば貴族の戦場ともいわれる場所であり、そこで相手の思惑や権力の行く末を伺うのだ。
シャリアはそれを経験していない。
成人したといっても籠の中の鳥にしか過ぎないのだ。
「私の境遇をご存知の陛下があえて私を推薦されたというのにも特別な理由がありますのでしょう。それにお父様の心配はごもっともですが、フィオネ王女の手助けであれば私でも可能であると自負しております。」
いつも儚く浮世離れしたシャリアはそこにいなかった。
凛とした姿は己の成すべきことを理解している公爵令嬢しいてはそれ以上の風格さえある。
「分かった。陛下に承諾の返事をする。」
「はい。」
シャリアは考えていた。
イリージアへ行けば彼と会うかもしれない。
もしかすると彼やお兄様方に復讐したいと思ってしまうかもしれない。
でも―――。
瞼の裏に見えたのは城壁からの星空。
あの特別な空間。
もう20年ですから、私も前に進まなければなりません。
あそこに行けばずっと抱え込んだこの複雑な想いも、二度目の生を与えられたのも分かるかもしれない。
あの場所へ行くまでです。
これで最後にします。貴方を想うことは。
いろんな考えを並べ、結局私は死んだ日と同じようにあの場所へ行こうとしている。
スープに反射した己の顔はもうセシリアではないのに。
スプーンで掬うとその顔も歪んでしまった。
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