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笑う猫
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「おまえってさ、最低な男だよな」
学校帰りに制服姿で寄った大手ハンバーガーチェーン店。
雄也はズズズ、とチョコレート味のシェイクを吸い込みながら言った。
「自覚はしてる」
「本当にしてるのかよ。傍から見ると、女の子を弄ぶような相当なたらしだぜ?」
頬杖をついて俺を非難するかのような目線を向ける雄也。
「弄んでるつもりはないし、一人だけだ」
「ふうん」
大きな猫目が細められる。
「今泉の相談受けてるとさ、可哀相になってくるんだよ。お前の挙動にいちいち一喜一憂してて」
可哀相、というよりむしろ面白がっているような顔。
「だったらどうにかしてくれよ」
「やなこった。他人の、ましてや克久のキューピットなんて」
ああ、コイツは昔からこうだ。場を引っ掻き回して面白がる迷惑な奴。
「てかさ、何で両想いだって知ってるのに付き合わないわけ?」
「知ってるだろ」
「あー、前にも聞いたなそういえば。この臆病者」
そうだ。俺は臆病者で、強欲で、利己主義で、最低だ。
自分のしていることがどれだけ今泉を傷つけているか、申し訳なく思うのは束の間で、すぐに、自分にはそれ程の価値なんてないのだから、と開き直る。
「もしも付き合うことになったとして、俺がどれだけ嫉妬深くて独占欲が強いかも知ってるくせに」
「知ってる知ってる。伊達に中学からの付き合いじゃないし」
「俺は、どうすればいい?」
「知るか」
そっけない返事。
まあ、確かに自分でなんとかしなきゃならないのは分かっている。
「それにさ、俺、恋に狂って壊れてく克久を見てるの、だぁいすき、なんだよね」
この性悪猫が。
ニマ、と大きな猫目を歪めて笑うコイツこそ、いろいろと最低じゃないかとふと思った。
俺と雄也、それと今泉は同じ部活だ。文化系で、比較的緩く、そのために校内の地位も弱いような、そんなひっそりとした部活。
それはそれで楽しくやっているけれども。
そんな中、俺は今泉に対して、世間一般で言うところの恋愛感情というものに当たるかもしれないような感情を抱いていた。
しかも、奇跡とも呼べるであろうことに、今泉も俺を好いてくれているらしい。
今泉はあろうことか、雄也に恋愛相談をしやがった。おかげで俺は今泉が俺のことをどう思っているか、気まぐれに情報を漏らされ、心を引っ掻き回される日々だ。
だがしかし俺はチキンな上に、性根がねじ曲がっている。
素直になんかなれるはずもなく。また、素直になって過去に痛い目を見ている。
要は、フラれるのが怖いのだ。
だから俺は「これ」を止められない。
「今泉、ちょっと後で、一人で会議室に来てくれないか。俺、待ってるから」
「え、ああ、吉田くん?……わかった」
雄也がニヤニヤしているのを横目で感じながら部室を出る。
放課後の、空いた会議室にいると、しばらくして今泉がやってきた。
「吉田くん」
「いるよ。入って」
わざわざ、放課後、一人で来るように、と空き教室に呼び出す。
これはいったい何を意味するのだろうか。
「用って何?」
俺は今泉の目をじっと見つめる。
「今泉」
「吉田くん……?」
俺は、微かな罪悪感を打ち消すように言葉を放った。
「この書類に記入するのを手伝ってくれないかな?」
一瞬思考が止まったようだ。
「え?……ああ、うん、いいよ」
その顔には、少しばかりの自惚れを差し引いてもありありと分かるほどの落胆が浮き出ていた。
「今泉、字きれいだしさ」
「……そんなことないよ」
なんとなく重たい空気。
「あー、なんか、ごめん」
「何が?」
「いや……ないとは思うけど、もしかすると何か変な勘違いをさせちゃったかもしれ、いや、ないな。俺相手にそんなことは断じてないとは思うけど。ははっ」
変な勘違い、が図星だったのだろうか。
今泉は、羞恥と落胆と諦めをごっちゃ混ぜにしたような表情を浮かべていた。
ああ、その表情。
優しくして優しくして期待させて、
堕とす。
その度に君はこの捨てられた子犬のような、哀れな目で俺を見てくる。
その顔を見るたびに俺は自分の価値を再確認する。
この俺に、君をそんな表情にさせる価値があるなんて。
束の間のカタルシスを感じるためだけに、とても臆病者で、強欲で、利己主義で、最低な俺は、君をおもちゃにする。
君にまだ好かれていると思いこみたくて堪らないから。
「おまえってさ、最低に歪んでるよな」
性悪猫がクク、と嗤った。
学校帰りに制服姿で寄った大手ハンバーガーチェーン店。
雄也はズズズ、とチョコレート味のシェイクを吸い込みながら言った。
「自覚はしてる」
「本当にしてるのかよ。傍から見ると、女の子を弄ぶような相当なたらしだぜ?」
頬杖をついて俺を非難するかのような目線を向ける雄也。
「弄んでるつもりはないし、一人だけだ」
「ふうん」
大きな猫目が細められる。
「今泉の相談受けてるとさ、可哀相になってくるんだよ。お前の挙動にいちいち一喜一憂してて」
可哀相、というよりむしろ面白がっているような顔。
「だったらどうにかしてくれよ」
「やなこった。他人の、ましてや克久のキューピットなんて」
ああ、コイツは昔からこうだ。場を引っ掻き回して面白がる迷惑な奴。
「てかさ、何で両想いだって知ってるのに付き合わないわけ?」
「知ってるだろ」
「あー、前にも聞いたなそういえば。この臆病者」
そうだ。俺は臆病者で、強欲で、利己主義で、最低だ。
自分のしていることがどれだけ今泉を傷つけているか、申し訳なく思うのは束の間で、すぐに、自分にはそれ程の価値なんてないのだから、と開き直る。
「もしも付き合うことになったとして、俺がどれだけ嫉妬深くて独占欲が強いかも知ってるくせに」
「知ってる知ってる。伊達に中学からの付き合いじゃないし」
「俺は、どうすればいい?」
「知るか」
そっけない返事。
まあ、確かに自分でなんとかしなきゃならないのは分かっている。
「それにさ、俺、恋に狂って壊れてく克久を見てるの、だぁいすき、なんだよね」
この性悪猫が。
ニマ、と大きな猫目を歪めて笑うコイツこそ、いろいろと最低じゃないかとふと思った。
俺と雄也、それと今泉は同じ部活だ。文化系で、比較的緩く、そのために校内の地位も弱いような、そんなひっそりとした部活。
それはそれで楽しくやっているけれども。
そんな中、俺は今泉に対して、世間一般で言うところの恋愛感情というものに当たるかもしれないような感情を抱いていた。
しかも、奇跡とも呼べるであろうことに、今泉も俺を好いてくれているらしい。
今泉はあろうことか、雄也に恋愛相談をしやがった。おかげで俺は今泉が俺のことをどう思っているか、気まぐれに情報を漏らされ、心を引っ掻き回される日々だ。
だがしかし俺はチキンな上に、性根がねじ曲がっている。
素直になんかなれるはずもなく。また、素直になって過去に痛い目を見ている。
要は、フラれるのが怖いのだ。
だから俺は「これ」を止められない。
「今泉、ちょっと後で、一人で会議室に来てくれないか。俺、待ってるから」
「え、ああ、吉田くん?……わかった」
雄也がニヤニヤしているのを横目で感じながら部室を出る。
放課後の、空いた会議室にいると、しばらくして今泉がやってきた。
「吉田くん」
「いるよ。入って」
わざわざ、放課後、一人で来るように、と空き教室に呼び出す。
これはいったい何を意味するのだろうか。
「用って何?」
俺は今泉の目をじっと見つめる。
「今泉」
「吉田くん……?」
俺は、微かな罪悪感を打ち消すように言葉を放った。
「この書類に記入するのを手伝ってくれないかな?」
一瞬思考が止まったようだ。
「え?……ああ、うん、いいよ」
その顔には、少しばかりの自惚れを差し引いてもありありと分かるほどの落胆が浮き出ていた。
「今泉、字きれいだしさ」
「……そんなことないよ」
なんとなく重たい空気。
「あー、なんか、ごめん」
「何が?」
「いや……ないとは思うけど、もしかすると何か変な勘違いをさせちゃったかもしれ、いや、ないな。俺相手にそんなことは断じてないとは思うけど。ははっ」
変な勘違い、が図星だったのだろうか。
今泉は、羞恥と落胆と諦めをごっちゃ混ぜにしたような表情を浮かべていた。
ああ、その表情。
優しくして優しくして期待させて、
堕とす。
その度に君はこの捨てられた子犬のような、哀れな目で俺を見てくる。
その顔を見るたびに俺は自分の価値を再確認する。
この俺に、君をそんな表情にさせる価値があるなんて。
束の間のカタルシスを感じるためだけに、とても臆病者で、強欲で、利己主義で、最低な俺は、君をおもちゃにする。
君にまだ好かれていると思いこみたくて堪らないから。
「おまえってさ、最低に歪んでるよな」
性悪猫がクク、と嗤った。
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