4 / 38
第1章:全てを司りし時計の行く末
1章3話 ミミとの出会い
しおりを挟む
「ここはどこだ。女の子の部屋のような。しかし、いい匂いがする」
湊は現在、女の子の部屋と思われる空間、その中のベッドで寝かされていた。
「あれ、目が覚めましたか?」
「君は……」
「私はミミだよ。街路で倒れてて、周りに人が慌ててお兄さんを起こそうとしてて、心配だった私が連れ帰って休ませてたの」
湊は自分がこのミミの部屋にいる経緯を確かめる。街路で左目の痛みが激しくなり、そこで倒れてしまった。
周りの人間が湊に駆け寄る中、慈愛深いミミが自分の部屋まで連れ帰って休ませてくれたようである。
「いや、すまない。ミミといったかな。突然左目が痛くなって、それで」
「やはり、そうでしたか」
「やはり?」
感じた違和感の正体、それはミミがやはりと言ったことであった。まるで、湊の倒れた原因、その左目の激痛を理解しているかのうように。
「やはりとはどういう意味で……」
「その左目、魔眼、ですよね」
「魔眼?何のことだか」
「貴方の左目の時計盤、それを見て、魔眼保有者に時折見られる発作の類だと理解しました」
さっきからこのミミという少女の会話に現れる魔眼というワード。湊はその意味が分からずしばらく呆けていたが、しかしその違和感の正体を確かめるように要求する。
「ごめん、鏡を見せてくれないか、ミミさん」
「ミミでいいよ。呼び捨てで。はい、鏡だよ」
湊は急いで鏡を受け取り自身の顔を確認する。いたって平凡な顔付き。黒髪に黒い瞳、何の変哲もない顔である。
そう何の変哲もない顔である。左目以外は。
「おま、おま、これは一体……なんで俺の左目に時計みたいな紋様が表れてんだよ。ちゃんと動いてるし」
「お兄さん、現在時刻は丁度12時です。その時計はズレています。時刻合わせしますか?」
「そうだな、時間にタイトな現代の社会人は、時計をきっちり合わせないと、、、ってそんなことどうでもいい!なんで俺の目の中に時計があんだよ!」
湊は自身の異様な左目を軽く触る。左目に現れた時計の紋様は、きちんと1から12までのローマ数字が並び、しかし短針が欠け、長針のみが存在している。ちなみにミミが言った通り現在時刻は12時、しかし長針は別時刻を指しており、時刻がずれてしまっている。というのは湊にとってどうでもよかった。
「ミミさん、今、魔眼といったか」
「ミミでいいよ、お兄さん。そう、それは魔眼の類だと」
「ちなみに、魔眼ってのはこの世界では一般的で?」
「いや、非常に稀な存在です。お兄さんは魔眼保有者であるのに、魔眼について詳しくないのですか?」
「ああ、魔眼なんてなんのことやら」
湊は現在の状況を整理する。左目に現れた時計の紋様、そしてその時計は短針が存在せず、長針のみが存在している始末。さらに、このような目は魔眼と表現されるらしく、恐らくライトノベル等の良くあるコンテンツであると理解はできた。
「理解できた、とまでは言わないが。異世界転移して、魔眼持ちになった、そんな流れでいいのか」
「異世界転移?何のことですお兄さん?」
目の前のミミという少女は、湊から発せられる異世界転移という言葉の意味が分からず戸惑う。
そして湊も戸惑う中、ミミはある疑問を呈する。
「お兄さん、自分のそれが魔眼って知らなかったの?」
「ああ、初耳だよそんなの。変な左目だよ本当に」
「そうなんだ。だけど、自身のことちゃんと知っておかないと危ないよ」
「危ない?どうして」
「魔眼持ちは通常、そのことを隠してるから。はい、お兄さんこれどうぞ。魔法女学院の友達からちょっとだけ貰ったの」
そう言ってミミは湊にあるものを手渡す。カラコンである。
「これは、カラコンだよな」
「うん。これを左目に付けて、魔眼持ちであることを隠したほうが良いかも」
湊はそれを受け取り、早速左目に付けてみせる。察しの良い頭は生まれつきで、今の置かれた自身の状況を理解しつつあった。
「魔眼持ち、もしかしてこの目を狙われたり、保有者が迫害されてたりするのか?」
「迫害はされてないかな、お兄さん。だけど、街は善良な人間だけとは限らないから、魔眼の希少性から保有者を狙って殺害を企てる人等もいるんだよ。だから、安易に魔眼を人目に晒すのは避けた方がいいかも」
自分を連れ帰ってくれたのがミミで良かったと本気で感じた。なぜなら、もしも湊が卒倒した後に魔眼保有者であると分かり、知らぬ間に怖い連中に連れ去られたらたまったものではないからだ。
「いいこと聞いたぜ、ミミ。ありがとう」
「うん、大丈夫だよ、お兄さん。それより、魔眼だったりの知識に疎いなんて、お兄いさんはどこ出身なの?」
「俺は……」
湊は一瞬悩んだ。異世界転移したことを打ち明けるべきか。湊が読んだライトノベルには、異世界転移したことを打ち明けないものも多かった。何かしらデメリットがあったり、打ち明けるようとしてもできなかったり、世界がそれを許さないパターンが多かった。しかし、湊は敢えてそんな固定観念を捨て、ミミに打ち明ける。
「ああ俺なあ。実は異世界転移して、地球って所から来たんだよ」
言った、言ってやったと湊はにんまりと笑う。敢えて物語の序盤でミミに対して異世界転移したことを打ち明けることで、彼女を含めて何か得られる情報はないかと確かめる方向に動いた。
「地球って、お兄さんは……帝都マグナ生まれなの!?」
その瞬間、ミミは凄まじい速度で何かを呟く。いや、それは魔法という代物か。
「ちょっと、何する、ミミ!」
「ごめん、お兄さん、確かめさせて」
ミミは水魔法だろうか、短い詠唱と共に縄のような水の束が解け、湊を拘束した。その後、ミミは急に湊の上着を千切り、背中に視線を移す。
「管理番号がない!まさか、帝都からの侵入者!?」
「待て、ミミ、痛いよ。どうしたんだよ」
ミミはすぐさま次の行動に出る。湊の首、手、お腹を順次圧迫して行き、最後には股をぎゅっと握る。
「おあ!どこ触ってるミミ!」
「首、手、腹に動脈の脈動あり。金属的ボディーは有してないねお兄さん。さらには生殖器も付いてる」
「やめ、やめろミミ!」
ミミは湊の悲痛な叫びと共に、水魔法の拘束を解いてやった。
「お兄さん、ミミに嘘ついたの?」
「どういうことだミミ。状況を説明してくれ」
「お兄さんの言った地球、その地球にはもうお兄さんのような生物的な人間は存在しないから」
湊は状況を自身の頭で整理する。ミミはどうやら地球と呼ばれる星の名を知っているようであった。しかし、生物的な人間は存在しないと説明している。
「ミミ、一応聞くが、その、地球って言葉は知ってるのか」
「もちろんだよお兄さん。だけど、もう生物としての人間は存在していない。いるのはAIオートマトンだけ」
「AIオートマトン?なんでその言葉が今ここで出てくんだよ」
湊は異世界転移してこの水の都にやってきた。AIオートマトンなど、前いた地球にいた頃に存在した概念である。それなのに、この魔法の世界にその言葉が存在することが不思議でたまらなかった。
「お兄さん、本当に何もしらないの?」
「ああ、何も知らない。今の俺は一体なんなんだ」
「お兄さん、もし本当に何も知らないなら、今から言うことを……」
ミミは何かを湊に話し始める、否、しようとしたのだ。だがそれは叶わず、この可愛らしい少女の部屋の窓が、瞬間的に爆ぜる。
「なんだ!どうなってるんだミミ!」
「お兄さん伏せて、こっちに早く、手をのば……」
ミミは何かを湊に伝えようと手を伸ばす。それに応じるように湊もまたミミに手を伸ばしたが、、、
「ごぽ」
何か音がした。ミミの声、いや、彼女から発せられる音と言っても良い。
「ごぽ、ごぽ、ごぽ」
ミミの首、いや、その断面と表現すべきそれを見ると、首より上が完全に吹き飛んでいる。食堂と思われるその管からは血が溢れだしており、それが「ごぽ」というミミから発せられる音の正体であった。
「は、なんだよこれ」
湊は絶叫、はしなかった。元の世界ではAIオートマトンとの戦闘経験もあり、仲間が殺される光景を何度も見ている。慣れている訳ではないが、思いの外冷静でいたことは事実であろう。
「お前は一体」
湊は瞬間的にミミの横に佇む1人の人間に視線を向ける。恐らく窓をぶち破って侵入してきたその人物は、手に短剣が握られ、凄まじい量の返り血が付着している。
「そうか、お前が殺したのか」
「なんだい、なんだい、意外と冷静じゃないか君。魔眼持ち君」
ミミの首を切断した彼女は湊を魔眼持ち君と表現した。
「なんで俺の左目について知ってんだよ」
「さあね。言う義理はないでしょうに。そうだろう、湊君」
湊は瞬間的に思考を巡らせる。彼女は自身の名と、魔眼持ちであることを知っている。
いつどのように知ったのか検討もつかなかった。左目の魔眼を隠さない状態でこの街を探索したために、もしかしたらその最中に見られた可能性はあった。しかし、自身の名前はミミとの会話の中でしか登場しない。
「どこで俺の名前を知った」
「さあね」
「教えてくれないか」
「ああ、教える義理はないでしょうに。口の多い坊やだこと。黙りなさいな」
次の瞬間、彼女は湊の右腕の肘より先を切断した。
「う、う、はあ、はあ。乱暴はやめてくれよ」
「あれ、意外とタフじゃないか君。右腕切断されてもそんなに叫ばないのかい」
「ああクソ。そうだ、そうだよな。俺は元々、あの爆発で死ぬ運命だった。それが、ちょっと先送りになって、今死ぬ運命に変わっただけかよ」
湊は失われた右腕を天に掲げ叫ぶ。
「ああ、クソ。異世界に来て、魔眼狙いの変態女に殺されるなんて、世知辛いぜちくしょう」
「なんだい、今頃になって泣いてるのか」
「別に腕の痛みのせいじゃない。もう既に亡くなった家族のもとに行ける嬉し泣きだよちくしょう」
「そうか、それは良かったねえ。家族と一緒に、幸せになんなよ湊君」
瞬間、ミミを殺した女が湊の首元に刃を振りかざす。
「待ってろ、俺の家族」
「早く行ってやれよ、家族の元にさあ」
湊の首が綺麗に切断され、ごぽっと音を立てて頸動脈から鮮血が散る。頭が回転しながらベッドの上で跳ねる。
「さて、さっさと回収回収」
女は湊の頭を掴み取り、魔眼を奪おうと左目に手を突っ込もうとする。
しかしその瞬間、左目の時計紋様からカチカチ音がすることに女が気づいた。
「なんだこれは!」
女が急いで湊の左目を抜き取ろうと抉る。しかし、抜き取るより前に魔眼の長針が凄まじい勢いで回転し始めた。女が掴んだはずの魔眼であったが、その腕が左目より遠ざかる。かと思えば、湊の首が時間を遡るように引っ付き、切られた腕が再び再生され、ミミの頭が切断前の状態に戻る。
さらに状態は過去のそれへと遡り、カチ、と完了の音がして世界は再び再生し始める。
「ここはどこだ。女の子の部屋のような。しかし、いい匂いがする」
湊は以前にも口にしたような文章を読み上げる。しかし、前回とはちがう歴史を辿るように呟く。
「それもそうか。可愛いミミさんのお部屋だもんだ。おはようミミ、いい朝だね」
「おはようお兄さん。体調は大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「そっか、それは良かった。それと、1つ質問してもいい?」
ミミと湊は何の変哲もない会話をする。そして1点、不可解なことがあるとすれば、、、
「お兄さん、なんでミミの名前知ってるの?初対面なのに」
「ああ、俺も普通なら君の名前を知っているのは変な話だと思うよだって、、、」
そう、湊がミミの名前を聞いたのは、死ぬ前の出来事であるのだから。
「はあ。この魔眼……はあ、ちくしょう。なんで異世界に来て魔法が使えないと思ったら、初めて発動するのがタイムリープなんだよ」
湊はただただ深いため息をついて、ベッドから起き上がるのであった。
湊は現在、女の子の部屋と思われる空間、その中のベッドで寝かされていた。
「あれ、目が覚めましたか?」
「君は……」
「私はミミだよ。街路で倒れてて、周りに人が慌ててお兄さんを起こそうとしてて、心配だった私が連れ帰って休ませてたの」
湊は自分がこのミミの部屋にいる経緯を確かめる。街路で左目の痛みが激しくなり、そこで倒れてしまった。
周りの人間が湊に駆け寄る中、慈愛深いミミが自分の部屋まで連れ帰って休ませてくれたようである。
「いや、すまない。ミミといったかな。突然左目が痛くなって、それで」
「やはり、そうでしたか」
「やはり?」
感じた違和感の正体、それはミミがやはりと言ったことであった。まるで、湊の倒れた原因、その左目の激痛を理解しているかのうように。
「やはりとはどういう意味で……」
「その左目、魔眼、ですよね」
「魔眼?何のことだか」
「貴方の左目の時計盤、それを見て、魔眼保有者に時折見られる発作の類だと理解しました」
さっきからこのミミという少女の会話に現れる魔眼というワード。湊はその意味が分からずしばらく呆けていたが、しかしその違和感の正体を確かめるように要求する。
「ごめん、鏡を見せてくれないか、ミミさん」
「ミミでいいよ。呼び捨てで。はい、鏡だよ」
湊は急いで鏡を受け取り自身の顔を確認する。いたって平凡な顔付き。黒髪に黒い瞳、何の変哲もない顔である。
そう何の変哲もない顔である。左目以外は。
「おま、おま、これは一体……なんで俺の左目に時計みたいな紋様が表れてんだよ。ちゃんと動いてるし」
「お兄さん、現在時刻は丁度12時です。その時計はズレています。時刻合わせしますか?」
「そうだな、時間にタイトな現代の社会人は、時計をきっちり合わせないと、、、ってそんなことどうでもいい!なんで俺の目の中に時計があんだよ!」
湊は自身の異様な左目を軽く触る。左目に現れた時計の紋様は、きちんと1から12までのローマ数字が並び、しかし短針が欠け、長針のみが存在している。ちなみにミミが言った通り現在時刻は12時、しかし長針は別時刻を指しており、時刻がずれてしまっている。というのは湊にとってどうでもよかった。
「ミミさん、今、魔眼といったか」
「ミミでいいよ、お兄さん。そう、それは魔眼の類だと」
「ちなみに、魔眼ってのはこの世界では一般的で?」
「いや、非常に稀な存在です。お兄さんは魔眼保有者であるのに、魔眼について詳しくないのですか?」
「ああ、魔眼なんてなんのことやら」
湊は現在の状況を整理する。左目に現れた時計の紋様、そしてその時計は短針が存在せず、長針のみが存在している始末。さらに、このような目は魔眼と表現されるらしく、恐らくライトノベル等の良くあるコンテンツであると理解はできた。
「理解できた、とまでは言わないが。異世界転移して、魔眼持ちになった、そんな流れでいいのか」
「異世界転移?何のことですお兄さん?」
目の前のミミという少女は、湊から発せられる異世界転移という言葉の意味が分からず戸惑う。
そして湊も戸惑う中、ミミはある疑問を呈する。
「お兄さん、自分のそれが魔眼って知らなかったの?」
「ああ、初耳だよそんなの。変な左目だよ本当に」
「そうなんだ。だけど、自身のことちゃんと知っておかないと危ないよ」
「危ない?どうして」
「魔眼持ちは通常、そのことを隠してるから。はい、お兄さんこれどうぞ。魔法女学院の友達からちょっとだけ貰ったの」
そう言ってミミは湊にあるものを手渡す。カラコンである。
「これは、カラコンだよな」
「うん。これを左目に付けて、魔眼持ちであることを隠したほうが良いかも」
湊はそれを受け取り、早速左目に付けてみせる。察しの良い頭は生まれつきで、今の置かれた自身の状況を理解しつつあった。
「魔眼持ち、もしかしてこの目を狙われたり、保有者が迫害されてたりするのか?」
「迫害はされてないかな、お兄さん。だけど、街は善良な人間だけとは限らないから、魔眼の希少性から保有者を狙って殺害を企てる人等もいるんだよ。だから、安易に魔眼を人目に晒すのは避けた方がいいかも」
自分を連れ帰ってくれたのがミミで良かったと本気で感じた。なぜなら、もしも湊が卒倒した後に魔眼保有者であると分かり、知らぬ間に怖い連中に連れ去られたらたまったものではないからだ。
「いいこと聞いたぜ、ミミ。ありがとう」
「うん、大丈夫だよ、お兄さん。それより、魔眼だったりの知識に疎いなんて、お兄いさんはどこ出身なの?」
「俺は……」
湊は一瞬悩んだ。異世界転移したことを打ち明けるべきか。湊が読んだライトノベルには、異世界転移したことを打ち明けないものも多かった。何かしらデメリットがあったり、打ち明けるようとしてもできなかったり、世界がそれを許さないパターンが多かった。しかし、湊は敢えてそんな固定観念を捨て、ミミに打ち明ける。
「ああ俺なあ。実は異世界転移して、地球って所から来たんだよ」
言った、言ってやったと湊はにんまりと笑う。敢えて物語の序盤でミミに対して異世界転移したことを打ち明けることで、彼女を含めて何か得られる情報はないかと確かめる方向に動いた。
「地球って、お兄さんは……帝都マグナ生まれなの!?」
その瞬間、ミミは凄まじい速度で何かを呟く。いや、それは魔法という代物か。
「ちょっと、何する、ミミ!」
「ごめん、お兄さん、確かめさせて」
ミミは水魔法だろうか、短い詠唱と共に縄のような水の束が解け、湊を拘束した。その後、ミミは急に湊の上着を千切り、背中に視線を移す。
「管理番号がない!まさか、帝都からの侵入者!?」
「待て、ミミ、痛いよ。どうしたんだよ」
ミミはすぐさま次の行動に出る。湊の首、手、お腹を順次圧迫して行き、最後には股をぎゅっと握る。
「おあ!どこ触ってるミミ!」
「首、手、腹に動脈の脈動あり。金属的ボディーは有してないねお兄さん。さらには生殖器も付いてる」
「やめ、やめろミミ!」
ミミは湊の悲痛な叫びと共に、水魔法の拘束を解いてやった。
「お兄さん、ミミに嘘ついたの?」
「どういうことだミミ。状況を説明してくれ」
「お兄さんの言った地球、その地球にはもうお兄さんのような生物的な人間は存在しないから」
湊は状況を自身の頭で整理する。ミミはどうやら地球と呼ばれる星の名を知っているようであった。しかし、生物的な人間は存在しないと説明している。
「ミミ、一応聞くが、その、地球って言葉は知ってるのか」
「もちろんだよお兄さん。だけど、もう生物としての人間は存在していない。いるのはAIオートマトンだけ」
「AIオートマトン?なんでその言葉が今ここで出てくんだよ」
湊は異世界転移してこの水の都にやってきた。AIオートマトンなど、前いた地球にいた頃に存在した概念である。それなのに、この魔法の世界にその言葉が存在することが不思議でたまらなかった。
「お兄さん、本当に何もしらないの?」
「ああ、何も知らない。今の俺は一体なんなんだ」
「お兄さん、もし本当に何も知らないなら、今から言うことを……」
ミミは何かを湊に話し始める、否、しようとしたのだ。だがそれは叶わず、この可愛らしい少女の部屋の窓が、瞬間的に爆ぜる。
「なんだ!どうなってるんだミミ!」
「お兄さん伏せて、こっちに早く、手をのば……」
ミミは何かを湊に伝えようと手を伸ばす。それに応じるように湊もまたミミに手を伸ばしたが、、、
「ごぽ」
何か音がした。ミミの声、いや、彼女から発せられる音と言っても良い。
「ごぽ、ごぽ、ごぽ」
ミミの首、いや、その断面と表現すべきそれを見ると、首より上が完全に吹き飛んでいる。食堂と思われるその管からは血が溢れだしており、それが「ごぽ」というミミから発せられる音の正体であった。
「は、なんだよこれ」
湊は絶叫、はしなかった。元の世界ではAIオートマトンとの戦闘経験もあり、仲間が殺される光景を何度も見ている。慣れている訳ではないが、思いの外冷静でいたことは事実であろう。
「お前は一体」
湊は瞬間的にミミの横に佇む1人の人間に視線を向ける。恐らく窓をぶち破って侵入してきたその人物は、手に短剣が握られ、凄まじい量の返り血が付着している。
「そうか、お前が殺したのか」
「なんだい、なんだい、意外と冷静じゃないか君。魔眼持ち君」
ミミの首を切断した彼女は湊を魔眼持ち君と表現した。
「なんで俺の左目について知ってんだよ」
「さあね。言う義理はないでしょうに。そうだろう、湊君」
湊は瞬間的に思考を巡らせる。彼女は自身の名と、魔眼持ちであることを知っている。
いつどのように知ったのか検討もつかなかった。左目の魔眼を隠さない状態でこの街を探索したために、もしかしたらその最中に見られた可能性はあった。しかし、自身の名前はミミとの会話の中でしか登場しない。
「どこで俺の名前を知った」
「さあね」
「教えてくれないか」
「ああ、教える義理はないでしょうに。口の多い坊やだこと。黙りなさいな」
次の瞬間、彼女は湊の右腕の肘より先を切断した。
「う、う、はあ、はあ。乱暴はやめてくれよ」
「あれ、意外とタフじゃないか君。右腕切断されてもそんなに叫ばないのかい」
「ああクソ。そうだ、そうだよな。俺は元々、あの爆発で死ぬ運命だった。それが、ちょっと先送りになって、今死ぬ運命に変わっただけかよ」
湊は失われた右腕を天に掲げ叫ぶ。
「ああ、クソ。異世界に来て、魔眼狙いの変態女に殺されるなんて、世知辛いぜちくしょう」
「なんだい、今頃になって泣いてるのか」
「別に腕の痛みのせいじゃない。もう既に亡くなった家族のもとに行ける嬉し泣きだよちくしょう」
「そうか、それは良かったねえ。家族と一緒に、幸せになんなよ湊君」
瞬間、ミミを殺した女が湊の首元に刃を振りかざす。
「待ってろ、俺の家族」
「早く行ってやれよ、家族の元にさあ」
湊の首が綺麗に切断され、ごぽっと音を立てて頸動脈から鮮血が散る。頭が回転しながらベッドの上で跳ねる。
「さて、さっさと回収回収」
女は湊の頭を掴み取り、魔眼を奪おうと左目に手を突っ込もうとする。
しかしその瞬間、左目の時計紋様からカチカチ音がすることに女が気づいた。
「なんだこれは!」
女が急いで湊の左目を抜き取ろうと抉る。しかし、抜き取るより前に魔眼の長針が凄まじい勢いで回転し始めた。女が掴んだはずの魔眼であったが、その腕が左目より遠ざかる。かと思えば、湊の首が時間を遡るように引っ付き、切られた腕が再び再生され、ミミの頭が切断前の状態に戻る。
さらに状態は過去のそれへと遡り、カチ、と完了の音がして世界は再び再生し始める。
「ここはどこだ。女の子の部屋のような。しかし、いい匂いがする」
湊は以前にも口にしたような文章を読み上げる。しかし、前回とはちがう歴史を辿るように呟く。
「それもそうか。可愛いミミさんのお部屋だもんだ。おはようミミ、いい朝だね」
「おはようお兄さん。体調は大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「そっか、それは良かった。それと、1つ質問してもいい?」
ミミと湊は何の変哲もない会話をする。そして1点、不可解なことがあるとすれば、、、
「お兄さん、なんでミミの名前知ってるの?初対面なのに」
「ああ、俺も普通なら君の名前を知っているのは変な話だと思うよだって、、、」
そう、湊がミミの名前を聞いたのは、死ぬ前の出来事であるのだから。
「はあ。この魔眼……はあ、ちくしょう。なんで異世界に来て魔法が使えないと思ったら、初めて発動するのがタイムリープなんだよ」
湊はただただ深いため息をついて、ベッドから起き上がるのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる