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第2章:AIオートマトンの退廃――人間を求めし末路の体現

2章6話 レミーの居場所

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「もう夕方か、早いな……」

先程のマーニャのR18動画騒動も落ち着き、その後は皆で会話をして気を紛らわせたり、簡単な備え付けのボードゲームを行いながら時間を潰した。
そんなことをしている内に、もう夕方になってしまった。

「湊君、ちょっとこっちに来てよ」

「ブラックピース、どうかしたか」

突然ブラックピースに呼ばれた湊。彼女はイヤリング型携帯端末を操作し始めた。

「この端末、写真も撮れるんだとさ。ちょっと湊君の写真撮らせてよ。ふんふんふん」

「お、おう。いいけど」

唐突にブラックピースから写真を撮ろうよと誘われた。特に問題はないのだが、唐突であったために少々驚いた。

「いやあね、魔法女学院にいると男性と交流機会も少なくてさあ。ちょっと僕も男性に飢えている訳よ」

「う、なんかその表現の仕方怖いなおい」

「まあまあ。ちょっとした思い出作りにはいいだろ?ふんふんふん」

案外ブラックピースは肉食系の女子なのかとやや引き気味の湊であったが、彼女の頼みに応じて写真を撮ることにした。

「じゃあいくよ、ハイ、ブラックピース!」

「ピ、ピース!?」

ブラックピースがイヤリング型携帯端末を操作して、湊との2ショット写真を撮影した。

「へへ、ありがとう湊君」

ブラックピースは無邪気に笑いながら、湊との2ショット写真を嬉しそうに撮影した。彼女はマーニャをおちょくったり、日々能天気で何を考えているのか分からない少女である。しかし、このような友達とのコミュニケーションはきっちりと取る印象が湊にはあった。

「結構僕は湊君のことかっこいいと思ってたりしてるんだよね」

「え、それはどういう……まあ嬉しいっちゃ嬉しいけども……」

「学院の試験で戦った時もそうだけど、結構判断が早くて、僕はそんな湊君が結構好みだったりするかも。ふんふんふん」

ブラックピースは意外にも湊に好印象を抱いているようで、そのことを彼に伝えた。

「ちょっと僕の隣に座ってよ、ふんふん」

「ああ、いいけども」

「ホワイトも反対側にちょっと来てよね」

「え、ブ、ブラックどうしたの?い、いいけど」

ブラックピースは湊を隣に座らせ、反対側にホワイトピースを呼び出して配置させた。現在湊は、ブラックピースが右、ホワイトピースが左を陣取る形で挟まれている。

「ねえねえ、僕とホワイトだったらどっちが好みとかある、湊君?」

「な、なんてこと湊っちに聞くの、ブラック!」

彼女は直接的にどちらが湊の好みだと尋ねた。ホワイトピースはなんてことを聞くのかと声をあげた。

「ど、どっちって言われても、まだ出会って1ヶ月程度だしなあ。2人の内面がまだ理解できていない部分もあるし」

「ふんふんふん。そうか、湊君は結構慎重派なのか。メモメモ」

「何してるの、ブラックピース……」

彼女はメモ帳を取り出して、湊君メモと書かれた題の下に、彼は意外と慎重派と記述した。

「いや、やっぱり男子が入学してきたら気になっちゃうよね。男がどんな生態をしているのかってさ。ふんふんふん」

「生態って、随分変な表現だなブラックピース……」

「まあ気にしないでよ。そう言えばさ、湊君って結構ミミちゃんとレミーちゃんと仲良いじゃん」

「ああ確かに仲良いし、なんならミミとは一緒の寮室だしなあ」

湊はミミとは一緒の寮室であり、日常的に会話の多い少女である。リービル大森林の一件もあり、両性の呪いが掛けられた彼女を認め、2人の間にはある一定の絆が存在している状態だ。
対してレミーとは旧友の仲と表現可能だ。西暦2222年には敵軍のAIオートマトンに対抗するため共闘した仲でもあり、彼女との間にも深い絆が存在している。

「湊君はやっぱり、ミミちゃんとかレミーちゃんがタイプなのかな」

「タ、タイプって……まあ、確かに2人とは仲は良いけども」

「じゃあさ、湊君はその2人のどっちかと結婚するなら、どっちを選ぶんだい?」

ブラックピースは、湊がミミとレミーの2人ならどっちが好みなのかを問いたいようであった。しかしそれは湊にとっては残酷な質問であり、正直な所優劣を付けたいとは思わなかった。

「け、結婚なんて、話が早すぎるだろブラックピース!そんな気、俺にはねえし……」

「そうか、どっちか選べと言われても、即答はできないのか湊君は……」

彼女はややがっかりしたように肩を落とした。そして、彼女はその口を湊の耳元とにそっと近づけて呟いた。

「いやね、実は僕、レミーのことがあまり好きではないんだよ」

「へ?そ、そうだったのか、ブラックピース」

「うん。だってさ、彼女は機械なんだよ?もしもミミとレミーをどっちか選べと言われたら、てっきりミミを選択すると思ってた」

湊は彼女の言葉を聞いて、それは初耳だと一瞬驚くも、無理はないかと一定の理解を示していた。

「確かにな。AIオートマトンである彼女を人間同格に扱うのは、ブラックピースには違和感があるんだろ?」

「あれ、意外に僕の考えを理解してくれるのかな、湊君は」

「まあ、好き嫌いは人によって様々だし、別に自由だと思うけどな。機械を人間同列で扱うのに違和感を感じる人間がいるのも不思議じゃないし、その考え方も理解できるよ」

ブラックピースは機械のAIオートマトンであるレミーを人間同格には見ていないようであり、彼女のことをあまり好きではないことを湊に話した。そのことに一定の理解を示した湊に対してやや意外だといった風に反応する彼女であるが、彼が案外物分かりが良い人間なのだと解釈した。

「まあ、嫌いではないんだよ。だけど、一緒に喋ってばかりいると、やっぱり違和感を感じるんだよね。ミミの湊君への好意が、機械であるレミーに分散されている感じがして、なんか彼女が可哀想だなってさ」

「周りからはそう見えているのかな、俺は」

「いや、どうなんだろうね。ホワイトは湊君、ミミ、レミーの関係をどう見てる?」

「え、ええ、私いい!?」

急に話を振られたホワイトはびっくりして声をあげた。

「わ、私は湊っちがレミーちゃんもミミちゃんも全員を大事にしていることは良い事だと思うけど……」

「ホワイトはそう考えるのか。双子だけど、考え方は結構違うんだよね、僕達は」

ホワイトピースはブラックピースと1つの魂を共有した双子の1人であるが、考え方は2人で異なっているようであった。

「そう言えば、お前らダブルピースってなんか1つの魂を共有した存在なんだよな」

「そうだよ、湊君」

湊はレミーの話題から逸らすように、自然な成り行きで彼女らダブルピースの話題へと移行させた。

「2人って、思考とかも共有してるのか?」

「いや、思考は共有してないよ。ふんふん」

「じゃあ、共有してるのはあくまで身体の感覚だけってことか?」

「まあ、そういうことだね。この身体のダメージや感覚だけが互いに共有される形なんだよ」

ブラックピースの話曰く、ダブルピース間で共有するのは身体のダメージや感覚のみであり、精神的な思考等は共有していないようであった。

「だから今、そにいるホワイトが何を考えているとかは分からない」

「そ、そうだね、ブラック。わ、私にもブラックが何を考えているか分からないかな」

ホワイトピースとブラックピースは互いに何を考えているのか分からないと湊に示してみせた。

「でも、湊君。身体の感覚は共有するから、こんなことをするとホワイトも感じちゃうんだよね」

「ひ、な、何してるのブラック!!う、う……」

ブラックピースは自身のやや膨らんだ胸を艶かしく揉んでその膨らみを強調し始めた。その感覚がホワイトピースにも伝播しているのか、やや頬を赤めながら苦しそうにしていた。

「どうだい湊君。君も触ってみる?」

「いや、やらねえよ!?」

「ちょっとブラック!湊っちには触らせちゃだめだからね!絶対にだめ!変態!湊っちのバカ!」

「いや、なんで俺まで怒られんの!?」

ブラックピースは湊に自身の胸を触ってみるかと提案した途端、ホワイトピースがプンプンと起こり始めた。彼女にもその感覚が伝わる訳であるから、怒るのも当然である。
しかし、何故か提案したのはブラックピースであるのに、とばっちりで湊まで怒られる始末であった。

そんなこんなで彼女らと会話をしていると、遠くから夕食の支度をしていたミミの声が聞こえてきた。

「お兄さん、ブラックピースちゃん、ホワイトピースちゃん!ご飯ができたよ!」

「お、ご飯ができたってさ。行こうかダブルピース!」

「ふんふん、そうだね湊君」

「わ、私もお腹空いちゃった!」

湊達はミミの夕食完成の声を聞いて、夕ご飯の場所へと向かった。
ミミは意外と料理が上手なようで、かなり理想的な女性の特徴を備えている。作られたご飯も非常に美味しく、皆が美味しそうにそれを食べていた。

一方で湊はその様子を遠目からそっと眺めるレミーに目線を移した。

「レミー、どうしたそんな遠くにいて」

「み、湊様……みんなの夕食の邪魔をしないようにと……。私は夕食を摂取する必要がありませんので」

「な、なんだよ、一緒に皆んなで喋りながら夕食取った方が楽しいだろ。俺の隣に来なよ」

「は、はい!」

湊は遠くでそっと夕食の様子を見ていたレミーを近くに呼び出して、隣の椅子に座らせた。

「レミーもこの夕食の用意を手伝ってくれたんだよな」

「は、はい」

「ありがとなレミー」

湊は夕食の用意を手伝ってくれたレミーに感謝の意を伝えた。しかし、彼が彼女の指に絆創膏が貼られているのに気がついた。

「あれ、どうしたんだレミー、その指……」

「い、いや……ちょっと指を切ってしまって」

レミーはどうやら料理の準備中に指を切ってしまったらしい。そのため、指に絆創膏を貼っていた。しかし、それに違和感を感じたマーニャが口を開いた。

「ん、レミーは別に怪我しても血が出ないのではないにゃるか?」

「え、いや、確かにそうです、マーニャ様」

「それなのに絆創膏なんて貼っているのかにゃ?」

「は、はい……」

マーニャが指摘した通り、レミーが怪我をしても、その身体は機械。そのため血が出る訳もなく、絆創膏を貼る必要はないような気がした。しかしレミーはその指に絆創膏を貼って、その傷跡を隠すようにしていた。

この場にいる一同が一瞬そのことを疑問に思ったようであったが、すぐに皆の意識は目の前の夕食に移り、その絆創膏に関する疑問はゆっくりと霞に消えていった。

「ふう、ご馳走様!ミミ、レミー、夕食の用意ありがとな!」

「はいお兄さん!」

「は、はい!湊様!」

夕食の幸せな時間も終え、皆は備え付きのお風呂に入り始めた。一日に疲れをそのお風呂で洗い流し、就寝の時間となった。

「明日は頑張ろうな、みんな」

ついに明日、朝方に目的の退廃都市レッドメイルへと到着する。困難にも遭遇するかもしれない危険な都市であるが、皆でなら乗り越えられると一同にエールを贈った湊。
そして湊達はそれぞれが一定の間隔を置きながら、ゆっくりと睡魔に襲われ、備え付けのベッドでゆっくりと眠り始めたのであった。


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