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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

192 故郷の村までの帰路

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 ◇◆◇◆◇


 翌日四人は、朝早くに宿を出た。
 夜が明けたばかりのために、街道に人や馬車などは少なく、馬車渋滞を起こす前に、カズ達が乗った馬車は王都を出ることができた。
 宿を出てすぐに出発したため、四人のお腹は今にも催促してきそうだ。

「カズ、今日の朝ごはん無いの?」

「昨日お腹いっぱい食べたけど、そろそろお腹すいてきたなの」

「お店で食事してから出発しても、良かったじゃにゃいのか?」

「昨日何度か馬車渋滞にあったから、道が混む前に王都を出たかったんだ。せっかく馬車に乗っていても、歩く程度の速度でしか進まなかったら、疲れちゃうでしょ」

「それもそうだけどにゃ、皆の朝食はどうするにゃ?」

「今出すから、三人はゆっくり食べれば良いよ」

 カズは【アイテムボックス】から、昨夜寝る前に作っておいたサンドイッチを出して、三人に渡した。

「そういえばカズにゃんは、アイテムボックスが使えたにゃ」

「そうだよ」

「だったらにゃちきの荷物も、入れてくれればいいのににゃ」

「馬車に四人も乗ってるのに、荷物が一つも無いのはおかしいかと思ってね。それにその中には、キウイの着替え(下着)とかが入ってるんでしょ。だから俺が持ってるのはどうかとね」

「別ににゃちきは、気にしないにゃ」

「俺が気になるから(キウイだって一応若い女性なんだから、それは気にしてほしいよ)」

「カズにゃんが持ってきた手提げ袋を、にゃちきが持ってこれたら、凄く楽だったんだけどにゃ」

「ああ、あれね」

 カズは以前に、空間収納魔法を付与した手提げ袋を、オリーブ・モチヅキ家のメイド達に、お土産で持っていったのを思いだしていた。

「にゃちき専用に1個くれないかにゃ? もう無いのかにゃ?」

「残念だけど」

「そうかにゃ……」

「ルータさんが言うには、かなり価値のある物らしいから、キウイが一人で常に持ち歩くのは危ないよ。誰か実力があって、信頼できる冒険者と一緒に行動してるなら、安心だから作ってあげても良いけど(確か等級は、一級だったっけかな)」

「なら王都に居るときは、カズにゃんが一緒に居てくれれば良いにゃ。あ、それだとカズにゃんはアイテムボックスが使えるから、意味なかったにゃ」

「なんで俺が常に、キウイと行動してることになってるんだよ」

「にゃはは。どっちみちあれは無い……作る? ねぇカズにゃん」

「何?」

「あの手提げ袋を、作るって言ったかにゃ?」

「言ったけど。あれ? お屋敷で話したとき、キウイは聞いてなかったっけか?」

「初耳にゃ! あの一杯入る袋を作れるのかにゃ!?」

「まぁね。お屋敷の人達以外には言わないでよ。ナツメとグレープも、今の話は秘密だよ」

「うん」

「よく分からないけど、分かったなの」

「カズにゃんカズにゃん、にゃちき……」

 キウイはカズの横顔を、じっと見つめる。

「そ、そんなにキラキラした目をしても駄目だよ」

「にゃ~……」

「言ったでしょ。使ってる所を見られたら、キウイが危険になるかも知れないんだから。王都だと貴族に使えてるメイドって後ろ楯があるから、使ってるところを見られても平気なんだから」

「分かったにゃ『今は』諦めるにゃ」

「今はって……」

 王都を出たカズ達が乗る馬車は、街道を進む。
 街道を同じ方向に歩く子供やお年寄りを見つけると、キウイが声を掛け、街道を外れるまでならと言い、馬車に同乗させるなんて事が何度かあった。
 子供が乗ってきたときは、ナツメとグレープも楽しそうに話していたので、カズは何も言わずに、キウイの好きにさせていた。
 そして王都の第2ギルドを出発してから三日目の昼過ぎに、キウイの道案内で街道から外れ、草原が広がる道へと馬車は進んで行く。
 その道にうっすらと足跡はみられたが、馬車が通ったような車輪の跡は無かった。
 冷たい風が吹きすさぶ草原の道を、四人が乗る馬車は進んで行く。
 寒さがこたえるのか、キウイはおとなしくなっていた。
 カズは【アイテムボックス】から出した毛布を三人に渡した。
 キウイ、ナツメ、グレープの三人は、毛布を受け取りくるまるが、それでも寒いようで体を寄せあい、あったまろうとする。

「ねぇカズ、今日はとても寒いなの。風がびゅーびゅーして、お馬も寒そうなの」

「ぼくも少し寒い」

「こんなに冷たい風が吹くなら、三人の防寒着を買ってくるべきだったな。ここを通るのに、キウイはこんなに冷たい風が吹くの知らなかったの?」

「にゃちきが通ってきたときは、あったかい時期だったにゃ。それにこの場所は、数えるほどしか通ったことないのにゃ」

「そうなの」

「カズにゃんは寒くないのかにゃ? にゃちきは寒いの苦手だにゃ」

「俺は耐性があるから、このくらいなら大丈夫なんだよ」

「カ、カズにゃんだけズルいにゃ! にゃちきも寒いのが平気になりたいにゃ!」

「ズルいって言われても……あ! それなら少しだけ、寒さが平気になるようにしてあげるよ」

「にゃ?」

「〈プロテクション〉(対象はキウイで、耐性は寒冷)」

「にゃ、にゃんだ!? ……あれ? さっきまで寒くてたまらなかったのに、今は平気だにゃ」

「次はグレープとナツメにもね(全く寒くなくなると、効果が切れたとき大変だから、使用魔力をおさえて効果を弱めに)」

「あれ?」

「あんまり寒くないなの?」

「カズにゃんカズにゃん、にゃちき達に何をしただにゃ?」

「魔法で寒冷の耐性を与えたんだよ。ハッキリとは分からないけど、数時間は効いてると思うよ。あと薄着にはならないで、効果が切れたとき、寒くなっちゃうから」

「はーい」

「ねぇカズ、お馬さんにもやってあげてなの」

「分かったよ」

 グレープの頼みで馬にも寒冷耐性を与え、更には身体強化を使った。
 馬はさっきまでとは違い、元気になり馬車の速度が少し上がった。

「こんなに便利な魔法があるなら、最初から使ってほしかったにゃ」

「ごめんごめん。それで道の先に森が見えるけど、このまま道なりに行っていいの?」

「良いにゃ。あの森を抜けた先の山を越えた所に、にゃちき達の村があるにゃ」

「じゃあ風が強いから、今夜は森の中で野宿だな。あの森に危険なモンスターとかは出る?」

「出でもイノボアくらいだと、聞いてるにゃ」

「そう。なら大丈夫そうだね」

 カズ達を乗せた馬車は草原を抜け、その先にある森の中に続く道へと入いる。
 森を少し入った所で、今日は野宿をすることにした。
 森に入ったことで、強い風が木々で防がれて、野宿するのに支障はでなさそうだった。
 カズは馬車から降りて、夕食の用意をする。

「カズにゃん、にゃちきも手伝うにゃ」

「いいから。ナツメとグレープの二人と、馬車に乗っててよ」

「いいのかにゃ?」

「良いよ。森の中でも少し風があって冷えるから」

「それじゃあ、お願いするにゃ」

 カズは辺りに落ちている枯枝を集め、すぐに焚き火を起こして【アイテムボックス】からスープが入った鍋を出す。
 鍋を焚き火にかけて、スープを温めてから夕食にする。
 カズは木で出来たコップにスープを注ぎ、それを馬車で待つ三人に渡しに行く。

「お待たせ。スープがあったまったから、これ飲んで温まると良いよ。三人にかけていた寒冷耐性の効果が、切れて切れてきたようだから」

「あったかくて、おいしい」

「体の中から、ぽかぽかになるなの」

「フゥーフゥー……にゃちきには少し熱いにゃ」

「ゆっくり飲めば良いよ(キウイはまさに猫舌だな)」

「ぼくパンにお肉挟んだの食べたい」

「あたしは、チーズとお野菜を挟んだのが良いなの」

「ハイハイ。パンと具材を出すから、好きなの挟んで食べな。その前に手をキレイにしておこうか」

 カズは全員に〈クリーン〉の魔法を使い清潔にして【アイテムボックス】から、焼きたてのパンと具材を出した。

「キウイも自分で、好きな具材を挟んで食べて」

「こんな森の中で、焼きたてのパンを食べれるなんて、初めてだにゃ」

「こうやって食べるんだよ。分かったお姉ちゃん」

「分かったにゃ。ならにゃちきは、これとそれと、あれもいいにゃ」

「キウイお姉ちゃん、たくさん入れ過ぎて、パンで挟めなくなってるなの」

「にゃはは。ちょっと欲張り過ぎたにゃ」

「それでキウイ、村まであとどのくらいで着きそう?」

「この馬車がもう少し早く走れば、明日の昼すぎには森を抜けると思うにゃ。そうすると道の先に、小さい山が見えるにゃ。その山を越えれば村があるにゃ」

「急いで着くとしても、明日の夜中になりそうだから、山に入る前にもう一晩野宿して、明後日の昼前に到着でいいかな?」

「良いと思うにゃ。無理して夜に山に入っても危ないにゃ。それに雪が積もってたら、馬車にはキツい道にゃ」

「その山道は、雪がよく積もる急な坂なの?」

「雪はたまに積もるにゃ。坂は急ではにゃいけど、狭い道にゃ」

「この馬車は通れそう?」

「大丈夫にゃ」
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