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132話 ミドリムシは歓迎される?

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 緑達が王都に行く途中で商人と出会ってから数日後、王都の城壁が見えてくると女商人は緑の方を向く。

 しかし、今緑の顔は何時もの笑顔ではなく何か悩んでいるようであった。そんな緑を隣の馬車から女商人は元気づけるかのように明るく声をかける。

「緑さん見えてきましたよ! あれが私達、獣人の国の王都です!」

 そんな商人の言葉に緑は反応しない。そればかり緑の顔は険しくなる一方であった。その時を、御者をしている緑の横に座る者がいた。

「どうした緑?」

「ああ、まーちゃんか。いや、王都の周りがね……」

「ああ、王都の中もだが城壁の周りも結構な獣人がいるんだろうな……」

「うううう……ぐす…ぐす……」

「緑さんどうしたんですか!?」

 2人の小さな会話がきこえなかった女商人は緑が涙ぐんだ事に慌て始める。すると隣の魔緑が女商人に手をあげて答える。

「気にするな! 持病な様なものだ!」

 魔緑は自分達の声が聞こえてなかったのだろうと考え大きな声で返事をする。

「持病! どこか悪いのですか!」

 それを聞いた魔緑が大きな声で笑う。

「ぷっ! わはははは! そうだな頭が悪いな!」

「ぼう! まーぢゃん!」

 2人の会話を聞き緑が怒り声を上げる。そんな緑をみて魔緑が真面目な顔をして話はじめる。

「今、俺達が居るのは獣人の国だ。もちろん王都の周りで中に入れず貧しい暮らしをしている者達もいるかもしれんが純粋に狩りで生活をしている者達もいるんじゃないか? 緑も気づいていると思うが王都を中心として結構離れた場所にも人の集まりがあったりするだろう?」

「確かに……」

 そんな2人の会話を聞き女商人が口を開く。

「もしかして。緑さんは王都の周りにいる貧しい者達の事を考え泣くのですか?」

 女商人は緑の優しさ、もしくは甘さに驚く。そんな話をしていると緑がある事に気づき声を上げる。

「ん? 人が集まってきた…… あ! みんなストップ!」

 緑の言葉に進んでいた馬車が全て止まる。

「冒険者の皆さん、商隊の皆さんすいません、ちょっと待ってください!」



「みんな、ダンジョンに入っててくれるかな?」

 チキチキチキチキ ザッ!

 大量の子供達は一糸乱れず緑に向かって敬礼すると緑が出したダンジョンの扉に入っていく。

「じゃあ、旗を出すね!」

 緑がそう言うと緑の乗る馬車の上空に大きな緑色の旗が出現する。

「あれ?」「なぜだ?」

 緑と魔緑が気配を伺うと、旗を出したことで城壁に集まっていた人は散っていくと思っていたのだがさらに人の集まりが加速する。緑達が旗をだして馬車を進めるとさらに王都の中心から大量の人の気配が集まって来る。

「どうしたのですか? お2人共……」

 緑と魔緑が上げた疑問の声に女商人が尋ねる。

「いや、どうも王都で人が集まって来ているみたいで……」

「それなら仕方がない事でしょう。緑さん達は今、獣人の国では英雄ですし、力と誠実さを崇拝する獣人なら冒険者や騎士だけではなく一般の市民達も見たいと思うのは確実ですね」

「一般の人達もですか?」

「ええ、なんせ王自らが緑さん達のした偉業を全ての街に伝えたのですから。吟遊詩人達も今はほとんどが緑さん達の詩を歌っている事でしょう」

「吟遊詩人の人達もですか?」

 そんな話をしながら馬車は進んで行くが、女商人の目にも王都の城壁の周りの様子が見えるようになってくると不思議そうにこぼす。

「あれ? いつもより城壁の周りの人が多いような…… たしかに王都の城壁の周りには貧民街の様な物が広がっていましたが…… 普段より多い気がします」

 そんな話をしていると城門から大量の兵士が出てくる。その兵士の人数は遠目でも見ても多いのが分かるほどであった。

 その兵士達は城門の前に道を作り始める。緑達がその様子を見ていると緑達の方向に凄まじい速さで向って来る冒険者の姿が見えた。

 その冒険者は緑達の前までくると跪き叫ぶ。

「チーム【軍団レギオン】の緑様はおられますでしょうか!」

 その丁寧に跪く冒険者の態度とは裏腹に慌て叫ぶ姿に緑はその人の元に急いで向かう。

「僕が水野 緑です。お急ぎの様ですがどうされました?」

「恐れ入りますがすぐに王城に来て頂けますでしょうか?」

「わかりました!」

 冒険者が顔を上げるとその、あまりに悲痛な表情を見て緑はすぐに返事をする。

「ありがとうございます! 軍団レギオン】以外の方々も急いで一緒に王都にお入りください」

 冒険者の声に緑とここまで一緒に来た冒険者達と商隊のメンバーは頷き、馬車を走らせるのであった。」



 緑達が急ぎ馬車を進め城門付近まで来ると、その光景に唖然とする。

「どうか! どうか! うちの子を助けてください!」

「お兄ちゃん! おばあちゃんを助けて!」

「妹が! 妹が!」

「おかあさ~ん! おかあさ~ん!」

「こら! お前達王都に入るんじゃない!」

「だめだ、今王都でも対応を始めている! 慌てるんじゃない!」

「うわ~! おとうさんが~!」

 城門から出てきた兵士達も悲痛な顔をしながら王都の中に入ろうとする貧民街の者達を押しかえしていた。

「ぐううううう~ ぐすぐす、うううう~ 」

 そんな、光景を見てしまって緑が泣かずにいられるはずが無かった。

「緑! 今は、我慢しろ!」

 そんな様子を見て声を上げたのは魔緑であったが緑が魔緑を見ると、魔緑も涙を流しながら歯を食いしばっていた。

 緑達一団は馬車を走らせ王都に入るとそのままの速度を維持しつつ王城の前に付くと兵士が現れる。

「皆さまの馬をお預かりします! 軍団レギオン】の皆さまは……」

 緑達の馬車を引いているのは体長が4mほどあるホレストアントでありその子供達を見た兵士は悩む。

「大丈夫です子供達はダンジョンに入ってもらいます!」

 そう言って魔緑がダンジョンの扉を開けると子供達はダンジョンに入る。

 それを見届けると緑は振り返り兵士に尋ねる。

「さぁ、どこに行けばいいのでしょうか?」

 緑の言葉に兵士達は丁寧に頭を下げる。

「ご案内します! こちらへ!」

 そう言って緑達は街を素通りし城内に入り、案内されたのは円卓のある会議室の様な部屋であった。

「久しぶりだな、挨拶もろくにせず急ぎ来てもらって申し訳がない」

 獣人の国の王はここ数日寝ていたいのか目の下に隈を作り青白い顔をして緑に今の謝罪する。

「詳しい話は、これを食べてからにしてください」

「今はのんきに果物を食べている場合ではないんだ…… 早くしなければ我が国民が!」

 そう言って緑は2つの実を王に渡すが王は声を荒げる。

「ダメです! まずはこれを!」

 緑から返ってきた緑の剣幕に王は驚きしぶしぶと2つの実を食べる。

「これでいいか? すまん、緑どうかどうか私の願いを聞いてくれ」

 そういって王は涙を流す。その様子を見た緑は口を開く。

「病気が広がっているんですね」

 その言葉を聞き涙を流しながら円卓に両肘をつき頭を抱えた王は声を上げる。

「そうなんだ…… このままでは獣人はこの世界からいなくなってしまうかもしれない……」

 そう緑に伝えるのであった。
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