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141話 ミドリムシは到着する

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 ノームは追っ手を振り切った後、さらに速度を上げて目標地点に向かっていた。

 獣人の王都で見た地図より目的地までの距離を予測し、ノームは到着するまでの時間が最短になるようにペースを配分をしていた。

 ノームが目的地にしている場所は王都にまで病の連絡を届けた1番遠い村であり、その王都に最短で向かうために通る町や村は病が広がっていた。

 念のためにノームとサラマンダーはその最短の道のりの周りにある町や村にも扉を置いていく。

 2人の行動は、病が広がっていない町の住人にすれば突然空から魔物が降ってきて、すぐさま何処かに消えていき、しかも魔物が着地した場所には謎の扉が残ると不安しかもたらさないものであった。



「おい! ものすごい音がしたが何があった!?」

「空から魔物が降ってきたんだ!」

「魔物だと!? その魔物はどこに行った!?」

「いや…… 降ってきた後すぐさまどこかに飛び去って行った…… その扉を残して……」

 そう言って2人を見たものが扉を指さす。

 ノームとサラマンダーが扉を置いて去ってから時間が経っていたために町の人々が扉の周りに集まっていた。

「「なんだこれは?」」

 町の人々はダンジョンの扉を不思議そうにみるのであった。



 1番遠くの町の者達を助けれるかは時間との勝負のために、ノームとサラマンダーは扉を置いた町の人々達に何も言わずに扉を置いては先を急ぐ。

「そろそろ目的地に着くころか?」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 サラマンダーの言葉に返事もできないくらいに息が切れているノーム。

「ほれ、実を口にほりこむぞ」

 ノームから返事が返ってこないためにそう言って、緑より貰った体力回復の実をノームの口に投げ入れるサラマンダー。

「ふぅ、緑の実が無ければこんなペースで走り続けるなど無理な話だ」

「確かに我ら龍種は、他の種族と比べて圧倒的な体力があるとはいえ、体力の限界はある」

 獣人の基礎体力は他の種族と比べても高い、その獣人が王都に向かって数十日かかる距離、それは緑の家族で最速の龍種のノームであってもわずかな時間で進むには限界に近いペースで走り続けなければならなかった。

「そろそろ目的の町だ、ここが今回の病の連絡をしてきた町で王都から1番遠くに位置する町らしい」

「町の中に入る前に姿を変えるか?」

「いや、時間が惜しいこのまま町の真ん中に着地する」

 走り続けるノームが目的の町に入るため速度を維持したまま大きく跳躍する。

 ドーン!

「なんだ!?」 「なんの音だ!」 「きゃー!」

「魔物だ!」 「逃げろー!」

 町の中に降りたノームの姿を見て街の人々がパニックを起こすがノームの背に乗っていたサラマンダーに気づく。

「見て! 小さな子が魔物の背中に!?」

「おい坊主! 危ないぞ逃げろ!」 「あんたこっちに来な!」 

「誰か衛兵さん達を呼んで来い!」

 町の人々はサラマンダーを気遣い魔物と思われるているノームから必死にはなれるように叫ぶ。その注目されている状況を丁度いいとサラマンダーがノームの背中から降り、ダンジョンの扉を置く。

 サラマンダーがダンジョンの扉を開くとそこに緑と騎士達が待っていた。

「サラマンダー! お疲れ様! 無事目的地の町に付けたみたいだね」

 緑の言葉を聞きサラマンダーは少し不機嫌になり、緑に返事をする。

「我らが2人で行動して傷を負うなどそうそうあるものではない」

「確かにその通りだね」

 腕を組み不機嫌そうに返事をするサラマンダーに苦笑いをしながら緑が答える。

「それで、そちらの準備はできているのか?」

「うん、皆さんも準備してくれているよ」

 そう言って振り向くと騎士達は力強く頷く。

「では行こうか」

 そう言った緑を先頭に騎士サラマンダーと騎士達がそろってダンジョンの扉から町に出る。

「皆さん! 安心してください! 僕達は連絡があった病にかかった人を治すために王都から来ました! 病にかかった人を集めて連れて来てください!」

 扉から緑の後を追って出た騎士達も扉の周りに集まった人々に自分達の事を説明する。そんな中1人の村人が緑達に驚きの事実を伝える。

「あの~ 王都の方たちがせっかく駆けつけてくださったのですが病は、旅のお医者様が直してくれたんです」

「「そうなんです」」

「なのでその事を連絡するため今、今1人使いの者が王都に向かっているはず・・・・」

「「えっ!?」」

 緑達が村人たちに詳しく話を聞くと町に病が広がりその事を伝えるために王都に使いをだした後、病は少しづつ広がっていたらしい。だが使いの者が町をたった数日後に、医者と名乗る者が現れたという。

 その医者は次々に村の人々を治療していきわずか数日で病にかかった村人全てを治療したそうだ。

 医者は村人全員の治療が終わるとその事を王都に連絡する様に言ったとの事であった。

 緑達が村人から話を聞いていると町の衛兵たちが現れた。

「おい、連絡があった魔物はどこだ!」

「ああそれが……」

 衛兵達は、ノームを見た町の人が衛兵を呼びに行って来たために緑達の事を知らずにいた、そのため緑と一緒に町に来た騎士達が説明する。

「信じられない話だがあなた達が着ている鎧の事は知っている…… 王都の配属されている騎士の鎧だ…… しかも並みの騎士のものではない……」

 そう言った衛兵が1番位の高いものだったようで他の衛兵を集める。

「皆、集まれ!」

 その言葉に街や緑達に話を聞いていた衛兵たちが規則正しく整列し敬礼をする。

「わざわざ町まで来ていただきありがとうございます!」

 代表者を筆頭に町の衛兵はもちろん緑達の周りに集まった人々全員が緑達に感謝を伝えはじめる。そんな人々が感謝を伝える中1人の女が緑達の前に姿を現し声をあげる。

「あ、もしかして僕かな?」

 緑はその声に驚き振り返る。その声のした方向には全身がエメラルドグリーンの色をした女性が立っていた。その女性に気づいた町の人々が口々に声を上げる。

「お医者様!」「あ! お医者様だ!」「お医者のお姉ちゃん!」

 町の人々に人気があるためかあっという間に人の囲まれた女は人々に道を開けるように言うと緑の前に立ちニコリと笑い口を開く。

「はじめましてもおかしいし…… なんて挨拶をすればいいんだろう? とりあえず自己紹介かな私は、水野 緑よろしく」

 そう自己紹介をすると一息つき言葉を続ける。

「この世界に来て女になっちゃったよ」

 そういった女には確かに自己主張する胸のふくらみがあった。

「たしかに干支ちゃん達は女子もいたが君は完全に女性だね…… 僕も水野 緑よろしく」

 そう言って握手をするのであった。

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