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|序《はじまり》
ミルローズ
しおりを挟む結局、辺り一帯に散らばった亡骸は、ぐずる神に縋りつかれてうるさいので全て代わりに埋葬処理してやった。
埋めても埋めなくても、燃やしても燃やさなくとも至る理に違いは無いというのに、理解出来ない。
『ふぅ。間に合わせのお墓でごめんなさい。でも頑張って埋葬したから、そこは大目に見て安らかに眠って成仏してください! ぜーったいっ、祟らないでくださいね?!』
……理解出来ない。神が祈願してどうする。神なのに。
『あぁ~もおお~っ! ふと夜中に起きてみたら枕元に立ってたり、トイレでばったり会ったらどうしよう!?』
……排便や睡眠など全く必要ないのに寝るのか。出すのか。神なのに。
更に訳の分からないことでジタバタうるさく喚く神にどうしたものか、と空を見上げる。
あれからとっくに何度も夜は過ぎ、朝が明け、今はすでに何度目かの昼日中という時間帯であった。
本来であれば、実体を得た時点で役目はすぐに終えられていたはずだった。誤算だ。
『うぅ~、ごめんねぇ~、こんなつもりじゃなかったんだよぉ~、うぅ~』
放置していたらどういう帰結か、ぐずぐずと泣き出して何故か這い蹲って拙い懺悔を初めていた。神なのに。
まだ暫く放置していても全く問題は無いが、役目は速くに果たすほうがいい。何故か詰まったように気が疼く。
気付くようにと、わざと大げさにザッ、ザッ、と地に音を立てて近付いた。
真後ろにつくまで気付かれない。いくらなんでも鈍過ぎる。神なのに。
『うっ、うっ、うぅ~……? う。ぁ……』
やっと気付いた。
『ご、ごべんねぇ!』
鼻水、のようなものをずずずと啜りながら慌てたように取り繕った神を見下ろす。半透明の幽霊というやつだ。
その実体は視た限り近くには存在していない。むしろ真逆――いや、真下だ。実体では辿り着くのに少々遠い位置にあるようだった。
『……じゃあ、そろそろ行こっか! 埋葬手伝ってくれてありがとうね! えーっと……名前は、』
名前。子を識別する印。そんな高尚なものなど与えられたことは一度として無い。
『うーん。無い、よね? そっかぁ。じゃあ――』
当たり前のことを再確認し、またしても何故かうんうんと唸った神は暫くあちらこちらに首を傾げたかと思えば、唐突に嬉しそうにぱあああっと綻ぶように笑みを浮かべると容易く与えた。
『――ミルローズ! それが貴方の名だよ!』
「み、る、ろ、ぉ、ず……」
名を与えられたことで、今まで当たり前のように不安定に揺らいでいた存在が確かに固定されるのを感じ取った。
与えられた名に相応しい格が実体に反映される。
――明確な姿形に。
『わぁ! かぁ~わぁ~い~ぃ~!!!!』
がばり、と抱き着かれた。いや、触れられないことに変わりはない。相変わらず神はそこに無い。投影された残像のようなものだから、抱き着いたフリだ。
器用に抱き着いたフリのままぴょんぴょんと跳ねたかと思えば、器用にぐるぐると周囲を回る。何の意味もない舞だった。神なのに。
『――よしよし。それじゃあ気を取り直してれっつごー!』
「…………」
『おー!』
触れられない手に引かれるまま、鬱蒼と茂る森林地帯の中で比較的広い平原のあった山から降る。
憐れな生み腹の地、そしてミルローズの名を神から頂いた地を。
――生きとし生ける山の生命、その尽くを地の底に埋め残し。
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