背神のミルローズ

たみえ

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|序《はじまり》

|道程《みちのり》 拾

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「つんつんつん、つんつんつん」
「ばっちいでござるよ」

 ざざあ、ざざあ、と波の寄せ返る砂浜へとやってきた二つの気配。

「見て下さい、ぼうたん。狐の水死体ですよ。世にも珍しいですね」
「……うむ。狐のどざえもんとは、如何にも珍妙でござる故に」

 ――なんだ、こいつら。

『りんかちゃーん! ただいまー!』
「おかえりなさい。お姉ちゃん」

 わんわん騒ぐ神に微笑むの少女と
 ――

「狐を捌くのは少々気が乗らぬでござるが……」
『だめだよ、ぼうたんくん!? この子、シャナラちゃんだよ!?』
「む……シャナラでござったか。かたじけなし」

 少女の傍らに控える魔女が、アホが入っている実体を処理しようとして神に怒られた。
 その気配は魔女でありながら魔女からはほど遠い――古の作法に従う

「んにゃにゃあ……うにゃ!? ここは!?」
『あ。やっと起きたんだね、シャナラちゃん!』
「狐がにゃーにゃー言ってます」
「それがシャナラくおりてぃー、でござる故に……」

 自身の実体の危機にも拘わらず、流れ着いた海辺で気絶していたアホがついに起きた。

「――主よ、あの島は危険です……ひどい目に合いました……」

 濡れそぼった実体を小刻みに震えさせてアホが今さらなことを言い出した。
 今までの旅路で何度も実体の危機に瀕していたはずだが、今回のはそれらと比べても相当堪えたらしい。

『ね! 狐ヘイトが凄かったよね。まさか沖まで追いかけられる程とは思わなくてびっくりだよ』

 楽し気な思い出話を話すように、神が嬉々とした表情でアホの災難を笑った。
 ……神へ近付いているのか、否か。

「バンクシアが先だって教えてくれていれば……」
『あ。そういえば入国審査の時に《繁殖出来ない体なら問題ありません》とは言ってたよ?』
「確かに、それなら表面上の生態系には影響が全くありませんね。住まう人々の心証は別としてですが」

 薄く微笑えみ、神に掛けた穏やかな言葉とは相反する実に淡々とした温度の感じられない声音で少女が言い放つ。
 ……人の域にはとうに未練が無いようであった。

「魔女らしい迂遠ないたずら、罠でござる故に」
『そっかあ。じゃあ仕方ないね』
「おお、主よ……御心のままに」

 と、アホな会話が一段落したところで。

「――やめておいたほうがいいですよ、ぼうたん」
「……今ならば、」
「無駄ですよ、ほら」
『めっ』
「――――」
『めっ』

 神の守り人が少女に愚行を諭され、神にも遮られ、相当な苦渋の籠った顔をした。、鬱陶しくも神が彼女らからの盾になる位置でミルローズにからだ。
 を隠せない未熟な守り人もそうだが、この程度のことで珍しく己の存在を自己主張するなどと、神もよくやる。その様子に呆れて、思わずされるがままになってしまった。
 ……やはり神とは理解出来ないものなのだ。

「強弱ではなく、優劣でもない」
「――――」
「それが神の定めというものですから」

 少女の言葉に嫌そうな顔をして後、神の守り人は呑み込み切れぬだろう敵意をなんとか無理矢理に内へ内へと収めようとした――が、どうにも隠し切れずにチクチクと気が刺さるように向かってくるのは結局、珍しくあのアホが間に入ってもどうしようにもまるで変わらなかった。
 ……今まで遭遇してきた魔女らの中でも一等未熟なやつだな。

「――分かりました。ではこうしましょう」

 困ったように微笑んで、少女が提案する。

「ぼうたんの、そのなかでもだろう組討くみうちで決めましょう」
「……卑怯は好まぬ故に」
「体格差のことですか」

 言われてぴく、と眉が自然と動く。そのまま無意識に神を退けるようにして前へ進み出た。
 ――体格差程度で油断してんのかよ、コイツ。警戒して損したぜ、格下風情が。

「あちらは全く気にしてないようですよ?」
「しかし……」
ですよ、ぼうたん」
「む……手加減せぬ故に」

 お互いの腕を掴み合うようにして向かい合わせに位置取る。
 こちらの実体はあちらの半分以下だが、全く問題ない。
 と、確認している間に上から若干侮るような視線を感じたが無視。

「ではお姉ちゃんが始めの合図を」
『ええっ、私!? ――よし分かった!』

 はらはらとした顔でこちらを心配そうに見ていた神が、突然役割を振られてびっくりしていた。
 が、すぐに気を取り直したのか。わくわくしような顔ですぐさま手を差し出し、即座に上げた。

『よーい、どん!』

 と。気が抜ける変な合図の後、神の守り人が力んだのが掴んでいた腕から伝わって来た。
 ……侮りが抜けていないのか、その力は弱々しいにもほどがあった。

「やはりこうなったでござるか」
「――――」
「痛い目に合わぬ内に引くべき故に」

 ――このミルローズの実体は神の手製だ。
 それなのに――格下風情がナメやがって、クソが。

「――ふ、やはりこの程度の相手なぬおおおおおおおおおおおおおぉぅぐっっっ!?!?」
「はい、一本背負いで勝負あり」

 投げ飛ばしたのは砂の上。
 舞い上がった砂埃に埋もれるようにして信じられない、と唖然とした表情をする神の守り人と目が合った。
 ふ、と上から鼻で嘲笑ってやる。

「ぐぬぬぬ……!」

 唸るように悔しがってはいたが、肝心の敵意はしっかりと収まっていた。
 ……未熟だが、律儀なやつだな。

『わわっ、あれってもしやビーチバレー!?』
「主よ、あちらではスイカ割りが……」
『ほんと!? どこどこ……』

 決着が着き、神の守り人から敵意が消えた途端、神らが二人への警戒を失くしたようだった。

「次はビーチバレーとスイカ割り。どちらで遊びましょう」

 少女も追従するよう、ころっと雰囲気を変えて勝手にのたまう。

「水瓜割りならば拙者が勝つ故に……!」

 持ち直した神の守り人が、こちらをチラチラ見ながら再戦を示唆してきた。
 何故か次も付き合わされることが勝手に決められた、らしい。
 ……前に出ず、適当に言わせて無視しときゃ良かったぜ――。

『じゃあその後、みんなでビーチバレーもいいよね?』

 神がノリノリでさらに時間潰しを決めていく。クソ面倒臭ェ予感。

「主よ、一人余りますが……」
「審判は任せてください。正確無比にジャッジしますので」
『運動音痴だもんね、りんかちゃん……でもおかげで人数はちょうどいいね!』

 一抜けした少女を見ながら納得、とでも言わんばかりに神が頷く。
 いや……勝手に人数に入れてんなよ。クソ面倒な――。

『じゃあじゃあ、私たちで組もーねっ?』

 手を繋ぐで引っ張るような仕草をされ、当然のように参戦前提で決められた。
 その言葉に対しこれ以上付き合いきれるか、と神らから離れようとして――。

『うちの子、最強可愛いから! 全種全戦、全勝してやるぜ! てねっ?』
「――――」

 ……アホらし。生き生きとした顔で、ついでに勝手な勝利宣言までされた。
 その場を離れようとしていた動きが直前で止まった。

『びっくりするよー! この子、すっごいんだから!』
「では、お手並み拝見ですね」

 ここまで言われてる中で去れば、まるで負けたみたいに感じるのは気のせいか。
 ……まあ、やらなくても当然勝ちは決まってるが。変にケチを付けられるのもつまんねェしな。

『――ね、ね、行こ! 楽しいね!』

 ……神に付き合うのはクソ面倒だが、従ってさっさと終わらすのが近道か。
 などと検討していると、延々かゆくなるくらい褒めそやし続ける神越しに二つの邪念を察知した。

「――シャナラ、完膚無きまでにアレを叩き潰す故に」
「奇遇ですね。主を惑わす不届き者に制裁を与えましょう」

 クソ面倒なやつら……。

「ルールは守って下さいね。反則には重罰を与えます。わたしのジャッジは絶対ですよ、お忘れなく」
「「はい……」」

 真面目にルールに従っていた神の守り人は普通に全戦負けただけだったが、アホはそれ以前の問題だった。
 何故なら早々に反則行為がバレ、罰として次の移動がアホだけ早々に海泳と決まってしまい、その決定に対して出発寸前までショックで気絶していたからだ。実にアホらしい。
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