背神のミルローズ

たみえ

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|破《ほうかい》

やがて『』になる

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『――この星は誘引食星なの』

 ある晩、縁側で膝を抱えながら神が独り言を零していた。

『本来は地球の持つエネルギーに釣られてやって来て、あまりの住み心地の良さにまんまと居付いて、そのまま寿命を終えた生命の死を細々と捕食してたんだけど……ある時、原生生命だけで星の許容を超える規模にまで数が増えすぎちゃって――』
「…………」

 そこで一旦言葉を止めてから、実体があればバタン、という音が鳴りそうな勢いで、神が膝を抱えたまま縁側で横に倒れ寝転んだ。
 ……寝転んだ神の頭部が胡坐をかいていた膝に乗せられたが、実体が無いため重さは無い。変に反応して構うと面倒なので、好きにさせておく。

『今では原生生命の一種となっている現代の地球の人々はね、もともとは数多の宇宙からやってきた数多の生命達の、身代わりの労働力として新たに造られた奴隷用生命が種の起源なの』

 この星を地球として、地球外生命体。今もなお誘引されているが、大っぴらな交流はなされていない。
 ――それが為される前に、神が保つかどうか。

『この星に居付くにあたって終生、便利な奴隷の労働力を管理しやすいようにって身勝手な理由で短命設計で造って、さらに反逆されるのは面倒だからって最盛期も短く、知能も低く改良してね――そうした理由で、今の地球人の原種が誕生したの。この原種は、星の誘引性に気付いた後でも星への生贄《エサ》としても役立っていたから残された、のだけど……ひとつだけ――生命を造れるほどに高度な文明、高度な知能知性を持っていた傲慢が故に――あまりに致命的な宇宙の真理を誤解して、誤算が生じていた事を知覚も認識も出来なかった』

 淡々と語る神は、何も期待していない様子だった。

『――なんでこの星は、満たされているはずなのに未だに外からも誘引し続けるのか。その理由を安易に星の特性なのだとして、身代わりの生贄《エサ》を与え続けることでどうにかなっていると勘違いしたのね。奴隷たちが生贄《エサ》としてあまりに高速で世代交代を繰り返しているうちにね、いつの間にか星の原生生命として星に同化してるのにも気付けなくて――逃げられた幸運な少数を除き、適応し切れなかった生命尽くが呑み込まれてころされちゃった』
「…………」
『――ころしたのはね、奴隷から産まれ出でただった。この星は、活動存続の為に生命を外から誘引捕食し続けていたわけじゃなかった。そもそもが、新たな神を生み続ける為だけにこの星は存在していたのだから』

 宇宙はいつまでも広がり続ける。
 それは、延々と続く真理だ。
 神の誕生は、ちっぽけな人で例えれば新築住宅の建造となんら変わらない

『でもね。長命種になればなるほど神の概念は薄くなるから、突如起こった事象を正確に理解出来なくて本能的に怖くなってしまったみたい。身勝手に造った奴隷たちをそのまま星に残して、一目散に遠くへ逃げちゃった』

 数多の次元を克服し、超越した存在――神は、生命に対し絶対的な上位にしかなれない。
 永遠に等しい長命種であれ、それがである限りは。

『宇宙はね、小さな点々なの。神によって墨みたいなものの一滴が落ち零れて滲んで広がってしまっただけの、ただただ小さな黒点。そんな点の外側には、。本当になーんにもない、真っ白で唯一存在し得る神ですらも厭うほどにとんでもなく退屈な場所』

 はぁ、と神がため息を吐いた。

『長命種はね、ただ長生きなだけで決して死なないわけじゃない。長命故に数々の欲望や感情がかなり希薄ではあるけれど、全くそれらが存在し無いわけではないの。――でもね、神は根本からして違うの。死なないし、死ねない、死ぬ理から外れた存在。感情や欲望は生命に必須ではあっても、死の理の内に存在しない神にとっては全くもって必要のない能力だった』

 …………。

『ひどいよ。神だって生命から喜びや悲しみ、様々な感情と共に生まれてきた存在なのに、その感情を神だけが失ってしまうなんて。あまりに不公平で不平等。……そんな不等も、神は受け入れる。自然と受け入れてしまう。そういう存在だから。喜びも悲しみも、怒りも憎しみも――神を生んだ生命根源の愛さえも。すべて神にとって。でもね、人として在った頃のから……だから、人の祈りを聞くの。聞いて、人々を理解する。理解出来る。……でも、たったそれだけ』

 言いたいことだけを始終吐露し続ける。それはある種の愚痴に等しかった。
 途中途中、話が逸れているように聞こえるが、神にとって話は全てがのだろう。
 だが、――。

『――生命である限りは神を理解出来ないだろうし、本能的に畏怖を感じるだけなの。ただそこに神が居るだけで』

 神を理解出来ない。それは生命である限りのどうしようもない道理であり真理。
 ……確かに己の実体を持つ生命ヒトになる前であれば、もっと神の言葉を理解出来ていたことだろう。

『――神様、神様、どうか我らをお救い下さい――って、ずっと聞こえてる。ちゃんと理解出来てる。人々が求める救いの全てを。でも……それでは救えない。決して。

 人の道理は、生命の倫理によって形成されている。だが、神には死が無いから。だから、神の倫理は存在しないといっていい。
 あるのは、かつてその倫理に依って人として過ごし従っていた短い期間の記憶だけ。神になって、生命の祈りを聞くだけで人の理解は出来ても共感はしない。そのまま受け止め、受け入れるだけ。
 ――だからこそ神からもたらされる救いを、意図を、生命である限り理解することは決して出来ない。

『神はね、生命の感情エネルギーによって誕生してるの。死を迎えた生命だけを捕食していたこの星は、居付く生命に緩やかな寄生を促して惹きつけて、その生命が死んで残った満ち足りた感情エネルギーを貰って――そうやって神を緩やかに、穏やかに、少しづつと生み出し続けてた』

 ……神には、数多の人々の記憶が宿っている。
 実体を得るより遥かな、時間の関係がない次元でそういう存在をチラと
 そのせいなのか、今考えるとやたらめったらぶっ飛んだ変なやつらばかりだった、ような、曖昧な記憶。

『星が狂っちゃったのは、さっきの経緯通り。――生命はね、世代交代を繰り返すことでよりの。かつてこの星にやってきた長命種たちが気付かなかったわけね。神に近しくなる鍵は、にあるんだもの』

 そこまで語ってよいしょ、と横に寝転がっていたのを一旦起き上がらせてから、神がうつ伏せに肘をつくように寝転がる態勢を変え、膝から先をぷらぷら曲げ伸ばしして遊び始めた。
 ……実体も感触も無いのに、わざわざよくやる。

『矛盾してるように聞こえるだろうけど……生命の一生が短ければ短いほど、より短期間で神は生まれてくる。だからが生まれたのも――それこそが、神に最も近付いた生命としての終着、限界に近付いていた証明』

 、な。

『――言葉、たったそれだけで簡単に発現してしまう魔法みたいな神の力、永久とこしえなる神のほんの一部の力だったけど、それでも――やがて、この星に残されてしまったたちによる神代文明の始まりにはなった』

 人より短い神代文明とは、皮肉が効きすぎてるな。
 ……神にそうした意図は無いのだろうが。

『神と違って、神様には生命としての感情が深く残っていたから――あっという間だった』

 それより先を語らず、何やら物思いに更けるように沈黙してしまったが――まるで直接見てきたように語る。
 ……まあ、神に時間なんぞ野暮な話だろうが。

『――救えないの。。決して』

 それ以上の詳細を神はとんと語ろうとしないが、なんとなく――なんとなく、神の語る神様とやらは失敗したんだろうなと、直感で分かった。
 ――神に近い聖霊ヒトの直感だ、当たらずとも遠からずだろう。

『やがて神様も、一部は神になれたけど……殆どの神様は消えてしまった。――ううん。? が分かりやすい表現なのかな。うん、そう。みんな、の』

 ――――。

『そんなに嫌そうな顔しないでよ』
「……してねェ」
『そっか。そうなんだね』
「――――」

 否定に、――拙い否定にあっさり納得した神が、何故かうまく見られなくて――気付けば明後日の方向へ無意識に目を逸らしていた。

『どうしようも救いようがない』
「――――」
『だから《タネ》だけを救うしかない。またいつか、芽吹かせるために』
「そんで、オレ様かよ」

 クソ、くだらねェ……。

『うん。――ごめんね、で合ってる?』
「……オレ様が知るかよ」
『そっか。そうなんだね』

 そこから先はずっと『明日の朝ご飯は何食べよう』だとか、『最近肌寒くなってきた気がする』だとか――そんな取り留めのない、……本当に笑えるくらいくだらなくてどうでもいいような些細な日常の、どうでもいいようなそんな話だけがずっと続いて、それで――神が飽きて、唐突に終わってしまった。
 いや……飽きた、とは違うか。神には興味関心が無い。それも感情が由縁のものだから。ただ、――。

 ――『――ころせないよ、』。

 まるでたった数秒前の出来事だったかのように鮮明に思い出されるのは、――神の声色、神の言葉、神の表情、神の――あの日あの時から色づいた景色の全て。
 ……人から神が生まれるのなら、神が生んだ人はやがて人になるのが道理なのだろうか。それなら、一体いつから 『人』になってしまった、のだろうか――。

「クソ、が……――ッ」

 こちらが内心で葛藤する原因が己にあると理解して、そのちんけな葛藤からわざわざ救うためだけに余計な気遣いに話を止めて去ってしまうのだから、神とは非常に性質が悪い存在なのだと思い知る。
 人が救いを求め、それに応えて救うのが神なのではなく――神が神の理の中で、人の祈りに応えて表面上は救っているにように見えているに過ぎないのだ、と――やはり人は神を、本質的に理解出来ていない。
 ……最初から、分かっていた。理解、していた……。

 ――終わりの予感は、この時ついに……確信へと、変わらざるを得なかった。
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