背神のミルローズ

たみえ

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|破《ほうかい》

かも知れない

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「――絶滅したかも知れない、花なのです」

 庭に咲く花々を、飽きずにひたすらじっと眺め続ける神をなんとなく見ていると、前触れなく現れた少女が笑みと共に唐突にそう告げてきた。
 言われて思わず反射的に神の見つめる花々を直接が、どれもがこの現世にタネが存在していた。

「違いますよ」
「……何がだ」

 閉じた視界のくせして、こちらが確認した事をすぐさま気付いてそんなことを言われた。

「実際の種は多く存在しているのに、どうして絶滅したかも知れないのか……あなたには分かりますか」

 時々こちらを試すような、面倒な謎掛けに心底うんざりする。
 が、無視すると後がもっと面倒なので渋々と答えてやる。

「……分布域か?」
「ふふ、いいえ。もっと単純です。自生種かどうか、なのですよ」
「自生種?」
「ええ、そうです。自然に存在する種という意味であり、自ら生きる種、という意味の『自生種』でもあります」

 力を利用している為、あらゆる言葉の意味を理解出来ているはずだが……この言語は、短い語にやたらと無駄に意味を込めていて、しかもあらゆる組み合わせで意味を頻繁に変えてくるのが実に面倒だ。

「――誰かに助けてもらわないと到底生きていられないような種を、果たして自信をもって生きている種だと区分しても良いものかどうか……」

 ……人の子を揶揄してんのか?

「だから滅びろってか」
「それもまた一興でしょう」

 一興かよ。

「花は美しく咲きましょう。――ですがそれは、果たして全てが自らの意思からであるのか」
「――――」
「間引くのは、花を美しく保つ為でしょう。しかしそれは、花自らが望んだ結果であるのか」
「――――」

 その言葉には、容易に計り知れないほどのとてつもない感情が籠っている気がした。

「――仮にそうだとして、花がそのことに気付き、知り、そしてそれをもたらしたものへと感謝をするのか」
「しないだろうな」
「……ふふ。ええ、断言してもいいでしょう。

 ――何故なら、生命とはだから。

「神が神となる過程には、名はとても重要なものなのです」
「……だろうな」
「この世に存在する意味が与えられます。それはたとえ開発された新種であろうと未発見だっただけの旧種であろうと全く変わりません。執拗なまでに、です」

 、な。

「ミルローズ。とても良い名前を、与えられたものです」
「――――」
「その意味を、あなたはしかと理解していますか」
「……『千の薔薇』だ」
「純粋に直訳とは、羨ましい感性ですね。己の受け止め方が実に可愛らしいことです」

 ……なんだコイツ、含んだ言い方してクソうぜぇなオイ。

「薔薇の花を見たことは?」
「……あァ」
「では、ことは?」

 ――――。

「……魔女の名は、花に依ります。なので魔女の力も、花に依ります。何故、花であるのか知っていますか」
「んなもん、知るかよ。どうでもいいぜ」
「数ある生命の中でも――からです」

 ――――。

「あ、あそこで転寝してる現役の神話ではありませんよ」
「……神に引退とかあんのかよ」
「もちろん、ありますよ。むしろ、一大イベントです。――あたながそれを、最もよく知っているでしょうに」
「ハッ……そうかよ」

 ごろごろと地を転がり遊び始めた神を鼻で笑いながら見やって、知らないフリして適当に誤魔化した。

「限りある時を生きる生命にとっては実に不思議なもので。名と意味は、生まれる前から与えられています」
「…………」
「あ、産む親の名付けがどうこうなどという小さな話ではありませんよ」
「……分かるぜ、そんくらい」
「――そうですか。やはりいますか。……説明の手間が省けて何よりです」

 何で嫉妬してんのか全く理解出来ないが、いちいちそのせいで言葉に厭味を込められるのはクソ面倒だった。

「なんだ。言いてェことがあんならハッキリ言いやがれや」
「いいえー。別にー」

 クソが……もっとクソうぜぇ感じになりやがった……!

「――では花言葉、調べてみるといいですよ」
「はァ? なんで……」
「神の名は――絶滅したかも知れない、花なのです」

 ――――。

「その意味を知れば、おのずと神意に辿り着ける
「――――」
「ただただ花の美しさを眺めているだけよりも、そこに宿された意味を詳らくほうがよほど建設的だと思いますよ」
「……そうかよ」

 実にありがた面倒な言葉をなんとはなしに聞き流し――ふと、唐突に魔女らの隠すことの無い激しい敵意や少女の隠しきれてない嫉妬の原因に気付いて理解が及んだ。
 あァなるほど……、ではなく――なのか、と。

「どうしましたか」
「……クソ面倒なやつら」
「どういたしまして」
「…………」

 こちらが呟いた言葉に対して当然のように意味を正確に理解して、にこりと少女が意味深な笑みを浮かべた。
 ……いちいち上からちょっかい出して、クソ面倒でうぜぇやつ。

「あ、ちなみにの名前は紫苑シオンですよ。あなたの瞳と同じ色の花です。お間違いなく」
「……そうかよ」

 そうして……なんてことのない、何の変哲もなく酷くありふれたような日常の光景の最中で、あまりに穏やかに庭に降り注ぐ陽光に照らされながら、さらりと事も無げにもたらされたのは――神が名であった。
 はずの名を何故か今になって唐突に、しかしすればと知るところになったのであった。
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