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第Ⅰ章 傲慢なる聖騎士
思惑誘惑
しおりを挟む先日の王子との初対面を終え、リオンは心を落ち着かせて日を改めることにした。そうして気を取り直して再度挨拶に赴いたリオンを待ち受けていたのは、静かに待っている王子であった。
リオンが現れれば何かしら反応をするかもしれないと身構えていたリオンは早速肩透かしを食らった。リオンが来ても何ら変わることなく、静かに座っている王子は先日との態度と似ても似つかない。まるで別人であった。
王子はかなり痛い目に遭ったのに、リオンを睨むか怯えるかといった反応もなく、情熱的に迫ってきたのが夢か幻だったのかと錯覚するくらいに平静な目でリオンを見ていた。
リオンは腑に落ちないものを感じつつも、普通に話が出来るのであれば王子の変わり様はいいことのはずと、己を納得させる。……何故だか、チクリと胸の奥が痛んだ気がしたが、リオンは気にせず先日のことも忘れることにした。
そうして部屋に二人きりとなった。途端、気を取り直して改めて話をしようと口を開いたリオンを遮るように初っ端から色々とすっ飛ばした王子が口を開いた。
「リオン、愛シテる!」
「は……?」
もう大丈夫かと切り替えて油断していたところに、再びの愛の告白を王子から真正面から受けることとなり、リオンは再び固まってしまった。
――ど、どういうこと!?
リオンの頭の中は混乱の極致であった。先程まで冷静な目でリオンを見ていたはずの王子が、今やとろりととろけそうなほどの笑みを浮かべてリオンを見ていた。
両極端過ぎる相手の反応に再び翻弄され、乱されていると気付いたリオンではあったが、先程までの王子ならともかく、どうにも情熱的な王子が苦手なのか、勝手に顔が火照り、呂律も上手く回らなくなり、頭の中もごちゃごちゃになっていた。
「愛してる」
偶に流暢に言うものだから、耐性の無いリオンは顔が熱くなるのを止めることが出来なかった。
よく訓練場を覗きに来る令嬢から同じような言葉を投げ掛けられても冷静であったのに、何故かこの王子から言われるとリオンは初心な少女のような反応をしてしまっていた。
理由が分からないため、言われると身構えていてもリオンは非常に戸惑って乱されていた。
「な、なぜ」
「愛シテる」
「っ……」
初回ほどの衝撃は無かったことと、元々心を落ち着かせ、身構えてから来ていたために顔の赤みはありつつも、リオンもある程度持ち直した。今度こそ丁重にお断りの言葉を告げなければ! とリオンは相手のペースに呑まれないよう気迫充分であった。
大きく深呼吸し、キッ! と強く睨み据えてからリオンは口を開いた。
『私には婚約者である王太子のレイブン様がいらっしゃいます。御提案はお断りいたします。そのような言葉は周囲に誤解を生みますので早急にやめて頂きたい』
相手の母国語で返事をしたのだ。これで伝わってないことは無いだろう、とリオンは相手の反応を伺う。二人だけになってからの変貌もあり、何か思惑があるにしても普通はここまで言えば思惑よりも命を握られている己の人質という立場を考慮して不敬な口を慎むだろうとリオンは考えていた。
リオンのお断りの言葉を聞いた王子がきょとん、と不思議そうな顔をしていてリオンは若干不安に感じたが、それも最終的にコクリと素直に頷いたために、これで心臓に悪いやり取りは終わりだとほっとすることとなった。やはり命は惜しいのだ。
の、だが――
「スキ!」
「断る!」
「リオン!」
「断る!」
「けって!」
「断る!」
一体何を了解したのか、多少言葉は変わったものの、結局、王子は何も了解していなかった。言い方が変わっただけで、最後に関しては完全にただの変態であった。
最初は丁寧に一つ一つお断りの文言を並びたてていたリオンであったが、途中から全く話にならない王子にこれはもしや馬鹿にされているのではと怒りが沸々とこみ上げ、返事が適当一辺倒と化していた。
――適当な事を言って尋問を煙に巻くつもりなのだろうか。
そんな可能性が高い気がしてきたリオンであった。しかし、手荒な事をしても意味がない。むしろ何回か手が出そうになったリオンに、きらきらと期待の目を向けてきた王子にはリオンも思わず反射で手足を引っ込めてしまっていた。
リオンがドン引きしているのを分っているのかいないのか、王子は時間いっぱいまで付きまとって終始嬉しそうにリオンが好きだとか、結婚してくれだとうるさく騒ぐ。
婚約者がいることを何度丁寧に説明しても、「それがどうかした?」とでも言わんばかりに言い寄る王子の態度に、リオンが丁寧な言動をかなぐり捨ててしまっても誰も文句は無いだろう。
一週間ほど耐えた後、リオンはレイブンに人生初めての失敗を報告し、泣きつくことになってしまった。
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