チョコくん。

しらす

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チョコくん

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「うう……辛いよぉ」

 鼻をつまみ、人参に似た野菜を食べる。
俺、日本出身のあかね。異世界で冒険者やってます。

「我慢して。私には甘すぎるくらいなんだけどな…」

 そして、俺に野菜を食べるよう注意しているのは、チョコくんだ。チョコレート色の肌と、髪、チョコケーキの上にのった苺みたいな瞳はとってもおいしそう。

「チョコくんにはわからないよ、このからさ……」

 甘いものが大大大好きなのに、辛いものが普通の世界に来てしまった。辛いものは苦手で食べたくない。調理をしてない生の野菜すらピリピリするんだよ!信じられないよね……。ごはんだいじ……ここにきてから1ヶ月はいつもお腹が空いてたし、家畜の餌って言われている味がしないゴムみたいな木の実を泣きながら食べてた。辛かったなぁ。

 でも、5日前から俺の食事は少し、改善されたのだ。

「むむむ……チョコくん、食べさせてください」

 チョコくんのにおい、のおかげで。

「私の名前はチョコじゃないって……いいよ、ほら、あーん」

 ぐっとチョコくんが近づいてほわん、とチョコレートのにおいが伝わる。うふふ、いいにおい。これなら食べれる。

 俺は甘いもので言ったら1番チョコレートが大好き。ご飯にだってかけて食べたい。

 チョコくんからはチョコレートのにおいがする。ちなみにこの世界、砂糖とかチョコレートとかはないんだよ……ぐすん。

 おかげでなんとか野菜が食べられる。お肉はたぶんムリ。

「んむっ……食べ終わったよ。ぎゅーってして」

 偉いね、とぎゅっとしてくれた。いいにおい……おいし……はなぢでそう。



 格好いいおいしいチョコくんと俺の出会いは5日前の冒険者ギルド。

 俺は回復魔法が得意だから、ギルドにある救護室のお手伝いの依頼をこなしていたんだ。(攻撃魔法はからっきしだし、体力ないし、モンスターなんて倒せないしで冒険なんかムリ!!)

 のんびりと魔法を使って治していたら、ローブを着たチョコくんがギルド内で突然倒れた。

 慌てて周りの人が救護室に運んでくれたんだけど、原因を探るために着ていたローブを脱がせた瞬間、俺以外の人が目と鼻を押さえた、中には吐いてた人もいた。

 俺は、食べたくてしかたなくて涎を垂らしてた。

 辛いものが普通なこの世界、チョコくんのチョコレートなにおい……体臭は俺以外にとって悪臭だったのだ。

 におい消しのローブを着ていたらしい。

 どうやらお腹をモンスターにやられたようで、そこからどくどくと血を流していた。周りの人は逃げ出す、倒れ出すの騒ぎで、苦しんでいるチョコくんがかわいそうで、みていられなくて、もってる魔力全部つかって治してあげたんだ。

 救護室は、血臭はしなくてチョコレートのプールにいるみたいなにおいに満たされていた。流石に舐めてはいないよ。

 S級冒険者という凄い人だったチョコくんは、俺にとっても感謝してくれた。怪我はポーションでなんとかしようとしてたらしい……そんなんじゃ治らないよ……。

 魔力切れでよわよわしてる俺を彼の家に連れて行ってくれて、お世話してくれた。魔力を使い切ると復活まで時間がかかるのだ。

 ロクな食べ物を食べていない俺はガリガリで、金に困ってるのだと思ったチョコくんはご馳走を作ってくれた。しかし、俺は食べれない。

 自身のにおいを気にしてるのか、ローブを着たチョコくんに、魔力切れで精神が不安定&お腹が空いてた俺は泣きながらお願いした。

 「ローブを脱いでにおいを嗅がせて」ってね。
あの時のチョコくんの驚いた顔は忘れられない。

 チョコくんは人嫌い、と噂されているが、実際は世話焼き。
体質を気にしてあまり人に近づかないようにしている。

 甘やかされたくて、チョコレート好きな俺との相性はバッチリなはず。

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