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07 - 実力テスト

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 キーラの案内が終わったあとは2人に質問タイムを設けている…のを流石に僕達のそばのベンチに腰掛けてやっている。というか僕達が移動したんだけれど。

「私は今まで他の騎士団でやっていたので流れとかは大丈夫」
「私は初めてなので分からなくなったら都度聞きます、シャロンさんに」
「ああ…メロは僕が教えてあげなくもないけれど」
「あれ、知り合いだったの?」
「同じエ族だからね、知らない仲ではないけれど」
「じゃあ困ったら私かシャロンに聞くといいわ、ピピさん」
「はーい!」

 リア家を挟んだ更に隣の家の子だ。そんなに仲が良くはないし3こくらい下だったしそんなに接点はなかった。

「ひとつ質問いいかしら?」
「はい」

 ピンクの髪に華やかなメイク…ガルの中でもたまにいる男受け狙っているような女子だ。可愛ければ選ばれるっていうのは最初だけなんだよ、そこからリピートしてもらえるかは実力なんだけれどね。

「ここではAランクのガルが2人いるって聞いたのですがぁ」
「ああ、私がAでした、少し前まで」
「少し前?」
「今はルブルを組んだのでランク外ですね」

 そう、ルブルを組むとランク外となる。他のシャルフとは組まなくなるが、一応ランク認定はやらなくてはいけない。わざわざ公開する必要もないけれどね。
 
「もう1人はシャロンがそうよ」
「シャロンさんはすごいのよ!ガル試験受かってそのままAランク認定されたんだから!」
「え!?」
「メロ、よく知ってるね…」
「村ではシャロンさん有名よ!」

 ここでも言った事無かった為キーラ達も驚いているじゃないか。隠すことでもなかったけれど自慢することでもないし言わなかったんだが。

「シャロン初耳よ…しかし、貴方流石としか言えないわね」
「んー…まあ自分から言う事でもないし」
「…それでね、村の誇りだって族長が喜んでいたのよ」

 あ、まだ喋ってたんだ。僕ってそんなに村で褒められているんだ。
 レイアが立ち上がるとナージャとは逆の僕の隣に腰掛け腕に絡みついてきた。

「シャロン先輩、是非ぃ私の魔法を見てもらいたいんです~」
「うん、僕早速君が嫌いだ」
「え」
「名前呼ばないでもらえる…気持ち悪いや」
「こら、シャロン!爽やかな笑顔でそんな毒を吐かない」
「え、ダメ、こういうぶりっ子…ほら、鳥肌!見て、ナージャ」
「おお、マジだ…」
「~~~~」

 ああ、やっと離れてくれた彼女は口をパクパクさせている。鯉みたいで面白い。

「ああ、ジベルトさん、ごめんなさいね…こういう人なのシャロンって…」
「うーん…どういう人だい?」
「無神経、人嫌い、人を小馬鹿にする、毒舌」
「わあ、僕って凄い酷い人だな」
「シャロンだから許されるけれどね」
「そうねぇシャロンだからね…」

 え?僕そんなに酷いの?気付かなかった。言われてみないとわからないものだなぁ。

「それじゃあ僕って酷く嫌われ者なんじゃないの?」
「シャロンを嫌っている人っているのか?」
「ジャベリンシャルフくらいじゃない?シャロンを嫌いなのって」
「オズはあれから何も言わないけれど毎回僕にバディ申し込んでくるけれど?」
「ああ、オズは何かシャロンを気に入っているよ」

 あんなにして、なんで好かれているのか分からないけれど何か食事にも誘われた。殺そうとしているのか?僕を…。

「とりあえず、レイナだっけ?」
「レイアよ、シャロン」
「ああ、そうそう…僕には色仕掛けとか通じないから程々に距離を保って頂けると助かる、そうすれば嫌いじゃなくなる、多分」
「まあ近い内に実力テストくるから嫌でも見てもらえるわよ」
「そんな時期か…」

 ガルもシャルフもランク再認定の時期がくる。ここにはガル協会からもシャルフ協会からも認定員がくるからしっかりとしたランクが定められるんだよ。

「シャロン、いい加減Sランクに上がりなさいよ」
「え、いやぁ…Aでいいよ」
「シャロンさんSランク蹴ってるんですか!?ってかSランクの実力あるんですか!?」
「そうよ、シャロンったらSランクになるとどこ飛ばされるか分からないから嫌だって拒否したのよ、去年」

 すんごい頼み込んだ。いや、ランクアップ拒否出来はするんだけれど…向こうは複雑なんだと思うよ。

「さてと、キーラはまだ仕事あるの?」
「大まかに説明はしたから以上かしらね」
「あ、じゃあシャロンさん!私と一緒に仕事しましょうよー」
「メロはまず部屋の片付けした方がいいんじゃない?終わってるの?」
「う…まだ…」
「あと、あまりしつこくされるの好きじゃないから程々にね。同郷だからって特別扱いはしないよ、僕」
「はーい」
「時間のある時に一緒に薬作りでもしてあげなくもないよ」
「うん!片付けしにいくね!」

 牽制しておかないと懐かれすぎても困るんからね。まあメロはまだ嫌いじゃないからいいけれど。
 ふと視線を感じて辺りを見回すとウィゼルドと目が合う。

「あれ、ウィゼルド、どうしたの?いつからいたの?」
「あ、いや…少し、前からだな」
「なんで近寄ってこないんだよ…」
「いや、うん…今日はよしておく!またな!」
「えええ?」

 何々?なんで急に立ち去っていった?あいつが何を気にして…??

「とりあえず、引っ張ってくる」
「いってらっしゃーい」

 2人に見送られながら走ってウィゼルドを追いかけると腕を掴んで止める。
 振り返ったウィゼルドはなんだか困った顔しているし、こっちも何を思って逃げたのか分からず困っている。

「何が引っかかったの?」
「え」
「また何か気にしてるんだろう?」
「ああ…しつこく、しすぎているなぁと思って」
「…ぷはっ…そういうこと…嫌だったら僕ならちゃんと言うって、まだ分からない?」
「あ…そういえば…そうだな」
「ウィゼルドはいいよ、僕は君が嫌いじゃない」
「…のは好きでもないって意味だろ?」
「ふふっそうだね…でも実はね僕はウィゼルド好きだよ、面白いもんね」
「面白いのか!?」
「真面目だし優しいしそれにシャルフとしても優れている、嫌に執着してこないし程よい距離を保ってくれている、彼女達と同じだ…一緒にいて心地いい…だからそういうの気にしないでいいよ…嫌な事はちゃんと言うから」

 困っていた顔もそれを聞いて安心したのか表情が緩んだ。

「シャシャガルは…」
「それ」
「え?」
「やめない?」
「何を…」
「シャロンでいい、シャシャガルなんて他人行儀じゃない」
「えっと…シャロンガル?」
「ぷはっ…流石ウィゼルド」
「え?間違えたか!?」
「ガルもいらないさんもいらない、呼び捨てでいい」
「シャロン…」
「そうそう…って…どうした?」

 僕が掴んだままの腕はそのままに、反対側の腕で顔を隠してしまった。

「いや、なんか…照れる」
「…ぷはっ…可愛い一面見れた」

 ――…ああ、そうか…彼は僕の事が好きなんだ…。

気付いてしまった…気付かなくてもいい事を、気付いてしまえるのは、自分の嫌な所だな。

「今日ウィゼルドは何して過ごすつもりだったの?」
「ああ、俺は…」
「バロンドさん!」

 声をかけられこちらを向いたウィゼルドの腕を開放してあげる。クルミはまだ頑張っているんだ。

「じゃあ僕はキーラ達の所に戻っているね」
「あ…シャロン…」

 踵を返し歩いて行く。僕なんか追いかけているよりきっと可愛い女の子と一緒になった方が幸せだよ、ウィゼルドは。
 それでも、彼に逃げ道を与えてしまうのは…僕がクルミに苦手意識があるからか、嫌がっている彼が可哀想だと思っているのか…「戻っているね」なんて…向こうで待っていると言っているようなものだからね。

 新人ガルの新人教育に色んなシャルフがついて実力を見る期間は、僕じゃなくてその子達を選べと拒否出来る。まあ結果誰かしらについてはいくんだけれど…今日は…

「オズしか残ってなかったのか…じゃあ僕今日は出ないでいいかな?って…もう誰もいないじゃん」 
「皆塔に入っていったぞ」

 ちっくしょー…皆こいつが嫌いだから僕に押し付けたな…。仕方ないのでオズと一緒に出たけれど、相変わらず生意気なので魔法与えないでいいかな?って聞いたら大人しくなったので何とか仕事を終わらせれた。
 いつも適当に見ないで相手決めていたけれどオズだけは避けていたのに…当たるとは思わなかった。

「なあ、シャシャガル」
「なに?」
「今日は晩飯行ける?」
「行かないよ…君は僕のこと嫌いなんだろう?」
「何を…むしろ、好きっていうか…」

 え、嘘でしょ?マゾなの?

「何が起きたの?僕にいじめられて嫌いになったのかと思ったんだけれど」
「なんか目覚めてしまった…」

 どうやら本当にマゾに目覚めてしまったらしい。申し訳ない、事を…した。とりあえず、僕はそもそも人間嫌いだからって丁重に断った。きっと僕よりもいい女王様が見付かるよ絶対に。

 それから半月して実力テストが行われた。ガルと騎士団の上級魔法使い、それにシャルフも3日掛かりで全員の実力が見られ、それから10日掛かって認定資格を持つ職員によって一般兵の実力テストが行われた。その結果が見れるようになっている。
 キーラとナージャ、それにウィゼルドにくっついてきたクルミとメロ。皆でケーキを食べながら端末で順位と成績を確認している。

「これって、シャロンさん…Sランクですよね、やっぱり」
「うん、今回もAにしてもらっている」
「私もやっとSに入ったけれど…シャロンとは凄い差が出ているわ」
「キーラはルブルだからいいじゃないか」
「それでも、もう少し貴方に追い付きたいのよ…ナージャの為にも」
「キーラ…」
「はい、イチャつかないで下さい…で、ナージャもAランクシャルフ認定かだけれど、S間近だね…ってウィゼルドSランクじゃない…?」
「ああ、俺もAにしてもらっているんだ、ここ2年くらい」
「え、バロンドさん、素敵…」
「バロンドシャルフ!これからずっと私と組んで下さい!」

 メロの申し出に、僕の隣のウィゼルドの更に向こう隣にいるクルミの表情が歪んだ。嫉妬は怖い。

「すまないな、俺は断られ続けてもシャロンがいい」
「こんなに優秀なガルだもの、皆僕と組みたいんだよ」
「自分で言うか?」

 ナージャに突っ込まれた。でも実際クルミも僕に申し込んでくる。なんせ僕がついたシャルフは皆上位にくい込むから昇進に有利だからね。
 正直僕のお陰で今回ランク上がったシャルフも少なくないと思う。実力テストと半年の戦歴を見てランクが決まるからね。
 そういえば…僕のことを好きなんだなって分かってからウィゼルドのキー取る回数減ったかもしれない。それまではなんか話しやすいとか相性がよかったから良く一緒に仕事していたけれども。

「ケーキ食べ終わったし、アイテム研究しにいくわ、僕」
「後で私も行くわね、シャロン!」
「うん、今日は1日2号室借りてるから」
「じゃあ後でね」

 そういうキーラの皿の上にはまだ3つもケーキが乗っているからね。僕が立ち上がると自然とウィゼルドも立ち上がって僕の皿と重ねてカウンターに持って行ってくれた。自然とそういう事が出来るような人なんだよね。

「シャロン、俺も行ってもいいだろうか?」
「うん、構わないよ。僕はガル塔で飲み物貰ったりしてから行くから」
「じゃあ俺もそうする」

 嬉しそうだな…。


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