失敗少女

鬼京雅

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7話・黒い魔法少女と魔女の影

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 二学期になってから1カ月が経った。
 その間、夏休みから活躍し出している「失敗少女」の話題は快晴市だけではなく全国的に広がり出していた。謎の魔法使いに出会う為に週末には都心より近い快晴市に来る人間達も現れ出している。

 若い女性を中心に自分の成功体験を投稿したりするサクセスガールのサイトでも、失敗少女の後ろ姿を撮影したような画像などが人気になり出している。顔は魔力によってボケた画像であるが、すでに撮影に成功してる人間もいるので絵空の失敗少女の活躍はこれから益々話題になるのも明白だった。

 快晴中学校一年一組は絵空と黒宮の不仲は相変わらずだが、二人は特にぶつかる事も無く関わり合わない事で何も起きてはいない。それよりも、黒宮が本格的に芸能活動をスタートさせた事により、もう絵空には興味が無くなっているようにも感じられた。

 そして、黒宮は好意を抱いていたテニス部一年エースの武田にも興味を失っている。

「失敗少女に会いたい……俺の失敗を絵空事にして欲しい……」

 休み時間のクラスで武田は絵空と王子に呟いていた。最近のテニス部の試合で武田は格下の相手に敗北している。それに、黒宮が離れた事により自分の自信すら無くしていた。失敗少女に会いたいと嘆く武田に絵空は、

「失敗少女はそんな都合よく現れないでしょ? 魔法使いだけど、全ての事件や事故を絵空事に出来てるわけじゃないし。あまり他人に頼るのは良くないよ武田君」

「最近、部活でもプライベートでも不調なんだ。だから俺も失敗少女に会ってみたい……。絵空、お前は本当に失敗少女に会った事は無いのか!?」

「無いよ。私は失敗少女に会った事は無いし、そもそも部活の失敗を失敗少女に絵空事としてもらうのは無理だと思う」

「そう……だよな。やっぱ練習が足りなかったのか? 練習していればきっと……」

 格下の対戦相手に負けてから不調の武田は、何か思い悩むような顔をしていたが納得した顔を見せた。絵空も納得してくれたと思い、その話は終わる。微かに武田の口元が歪んでいたのを、王子は見逃さなかった。





 その夜――。
 純白の魔法少女服に身を包む絵空は「失敗少女」として快晴市内て起こる事件や事故の調査をしていた。繁華街や人気の少ない場所まで駆けて見回る。王子はミニモードになり、絵空の肩に乗っていた。夜も九時に近くなって来たので今日のエラーゲットはここで終わりにしようとした。民家の屋根から周囲を見渡す。

「とりあえず今日のエラーゲットはここまでかな。そろそろ九時にもなるし切り上げるよ。王子、肩から降りて」

「はいはい。でも、屋根から降りてから変身解除しないと、面倒な事になるから注意ね」

「わかってるよ。それじゃ……?」

 民家の屋根から下の路地を見ると、純黒のゴスロリ服を着た髪の長い少女が疾走して行った。そのスピードは人間のスピードよりも早く、明らかに魔法使いである。

「!? 何、今の黒い少女は? あれも私と同じ失敗少女なの?」

「いや、失敗少女は世界で君一人だ。だから今の黒い少女は魔女の可能性もある。危険だけどどうする?」

「……魔女かも知れないなら、やるしかないでしょ!」

 魔女かもしれない黒い魔法使いを絵空は追いかける。今いた快晴市の商業地区から離れた住宅地まで追いかけたが見失い、どこかの建物に入ったと考える。十分ほど探していると、二階建ての協会らしき建物から異様な雰囲気を感じた。そこには、エラーマジックが怨念のように渦巻いている気がする。

「あの協会……変な魔力を感じるわ。エラーマジックの怨念のような魔力」

「気付いたか。絵空も失敗少女として完成されつつあるね。おそらくあそこで何かが行われている可能性がある。あの協会を調べよう」

 そして、絵空は赤い十字架が輝くプリンスウィッチ協会の二階部分に飛び移り、そこにある窓から内部を見つめる。内部には三十人ほどの大人達が何かの本を手にしている。その内容を朗読しているらしく、どの男女も特別おかしな様子は無い。

「……変な魔力は感じるけどおかしな事はしてないね。あれ、もしかして王子と魔女の絵本じゃない?」

「そうだね。あの絵本は王子と魔女。つまり、これは魔女が関係している可能性が出てきたという事だ」

「ねぇ……絵本の朗読が終わったと思ったらみんなナイフを取り出しているけど……」

「不味いね絵空。あれはおそらく集団自殺だ」

「集団自殺!?」

 プリンスウィッチ協会で、王子と魔女の絵本を朗読していた大人の集団はナイフを取り出して集団自殺をしようとしていた。かつて、本の内容通りに自殺を考えていた絵空は二階のステンドガラスをブチ破り、内部へと降り立った。

「私は失敗少女よ! 貴方達の自殺は絵空事にしてあげる!」

『……』

 王子と魔女の絵本を持つ人間達は赤く目が発光していて、もう理性を失っているのがわかる。絵空を見ているが、言葉には反応しない。そして、その人々の背後には歪んだ悪魔コモンが笑っていた。

「あの悪魔コモンは何? いつもの悪魔コモンより不気味よ。進化してるの?」

「天使コモンではなく、悪魔コモンが肥大化している。しかも、あれは悪魔コモンそのものだ。まさか、天使コモンである成功を奪われたという事か?」

「成功を奪われた? 王子、それはどういう事?」

「君が失敗を得ているように、彼等は成功を奪われている可能性がある。だからこそ、悪魔コモンだけが肥大化してモンスターになりつつある。人間からモンスターになる前に倒さないと厄介な事になる」

「どうやら相手も逃してくれないし、この出来事を絵空事にしてやるしかないようだね……」

「来るぞ絵空!」

「……!」

『ブアアアアッ……!』

 悪魔コモンに精神を支配された人間達が暴走するように襲いかかって来る。絵空は王冠ステッキを使い、目の前の三人を倒す。その勢いで肩に乗るミニ王子は落ちてしまう。そんな事に構う余裕は無い絵空は、王冠ステッキを振り回して人間達を倒して行く。不気味な唸り声を上げる人間達はゾンビのように襲いかかる。

「このっ! 私はバトルをする魔法少女じゃないのよ! でやっ!」

 危うく殴られそうになるが全て紙一重で回避し、絵空は本格的なバトルになる事を悔やみつつも戦う。その間、ミニ王子は暴走人間達から逃げ回っていた。下段蹴りで敵を倒した絵空は、その敵を吹っ飛ばしてドミノ倒しにする。

「よし! 後は三人……って、うわっ!?」

『ブアアアアッ……』

 まるでゾンビのように倒した暴走人間は復活している。そして、背後からも迫って来て絵空は敵に囲まれてしまっていた。

「この人達の悪魔コモンを倒すには、難しい。今の私の実力だと精神内にいる悪魔コモンだけは倒せない……」

 現状の絵空には外に出てる悪魔コモンを倒せても、精神内にいる悪魔コモンは倒せない。下手に魔法を使うと人間そのものの精神が傷付く恐れがあるからだ。しかし、ジリジリ……と暴走人間達は絵空に迫る。すると、協会を逃げ回っていた王子が人間サイズになり叫んだ。

「絵空! 僕がこの協会にエラー結界を張ったから地面にエラーマジックを叩き込むんだ! そうすれば彼等は解放される!」

「わかったわ! くらいなさい……必殺――」

 上空に飛び上がる絵空は王冠ステッキにエラーマジックを溜め込み、それを真下に向かって放った――。

「――エラーインパクト!!!」

 まばゆい光の魔力が協会内を埋め尽くし、暴走人間の精神にいる悪魔コモンは消滅した。そして、気絶した人間達を確認するとエラーマジックが浮かんで来た。

「とりあえずエラーマジックゲットね。ほいほい」

 王冠ステッキでエラーマジックを回収した。そして、警察に連絡してから絵空と王子は現場から去る。その帰り道で今回の件を話していた。

「今回も魔女は出てこないね。あの黒い魔法使いが魔女なのかはわからなかった」

「気配や匂いはするんだけどね。まぁ、近いうちに現れるから注意していて」

 二人は協会事件が起こる前に出くわした黒い魔法少女が魔女ではないかと思ったが、それもわからないままだった。とりあえず警戒をするという事にしている。

「でも王子。あの黒い魔法少女が世の中に認知されつつある「失敗少女」に対するカウンターのような存在じゃないといいけどね」

「失敗少女を利用する人間、マネする人間は出てきていると思う。今の絵空は武田君のように利用したい人間を断っているから問題は無いよ。けど、今後も変わらない心を持つのが重要だ。闇に堕ちたら引き返せないからね」

 今後、失敗少女を利用する人間やすがる人間達が現れる事に絵空は不安を感じた。先程の協会の人間達のように、何かにすがって神格化して来世で幸せになる為に自殺をしようとする集団が出て来る事を危惧している。その絵空の近い存在として武田がいるのを王子は話す。

「今後、武田君の様子も見ないとならない。武田君はテニス部でも調子を落としてる。彼は安易に他人に頼り過ぎているよ。絵空の折れない意思の強さと、僕の女子からの人気が気になるようだ。それに黒宮さんが芸能活動を初めて自分から離れた事もね。彼は次の弱い人間を探すのに苦労してるね」

「大きな失敗をしそうなら、私が武田君のエラーマジックをゲットする。それまでは特に何もしないよ。私は人を信じているから」

「なら、僕は友達として助けてみよう」

 その言葉に絵空は微笑んだ。
 そうして、新しい魔法少女の出現により絵空は「人間の闇」と対峙して行く事になる。
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