グレイ-恋と性欲と愛の区別はつかない-

鬼京雅

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20話・レッド復活ショーの悲劇

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 誠高校の体育館では、俺と乃定歳青によるタイマン。つまり、「赤井総司レッド復活ショー」が行われようとしていた。才造高校の男達は奇声を上げ、誠高校の生徒に蹴りを入れつつ乃定を応援している。

 今の現状では、誰かに頼ろうとも学校が休みの土曜日だから助けはすぐに来れない。スマホを使いたくても才造の連中が目を光らせているから下手に動くと危険だ。俺は蛇のような目を光らせる青い髪の乃定とのタイマンを受け、少しでも時間を稼ごうとしていた。

「始めるか乃定。あの頃は武器を使えば俺と互角だったな。今は――」

 制服のジャケットを脱ぐフリをして投げつけた――。そして左に流れつつ、渾身の拳を腹に叩き込む。

「ぐっ……!」

「おいおい赤井。こんな姑息な手を使うなよ。レッドのお前はこんな事をしなくても最強だった。俺の憧れたレッドのお前はなぁ」

 その奇襲は失敗に終わり、蹴りを受けた俺は後退する。これで悟ってしまう。グレイの俺では乃定歳青には勝てないという事を……。

「まだお前はグレイだ。どうすればレッドになるのか? そうだなぁ……」

「……?」

 突然、周囲を見回す乃定は唯と風祭がいる方向を見た。怯える二人は蛇のような乃定の目を見て絶句している。

「昔はヤンチャしてたお前もやけに静かだな。赤井の女なら応援してもいいんだぜ西村? そして横の爆乳ちゃんもよ? 二人共赤井の手つきの女だろ? なら、応援して手伝ってもらおうかなぁ」

「やめろ――ぐはっ!」

 突撃したが、蹴りを受けて床に転がってしまう。やはり今の俺じゃ、乃定には勝てないようだ。まともにケンカをしなくなった俺には、レッドに戻る決定的なスイッチが必要らしい。それを乃定は平然と実行しようとしている。

(早くレッドに戻らないと……他の人間にグレイでない事がバレようがどうでもいい。俺は乃定を倒す力が必要だ。血塗れのレッドの力が……)

 けど、目の前が真っ赤になる感覚は芽生えず、意識はクリアなグレイのままだった。

「赤井がレッドに戻らないなら、赤井の女の爆乳ちゃんを殴れ。今のお前じゃ、片手でも勝てるカスだ」

 すると、命令を受けた才造高校の男が風祭を立ち上がらせた。風祭は抵抗し、唯も動くが二人共殴られてしまう。それを見た誠高校の仲間達からも悲鳴が上がる。

「やめろ! 俺とのショーなら、俺だけに集中しろよ! 風祭は関係無いはずだ!」

「たがらよぉ? これはレッド復活ショーなわけ。つまり、お前がレッドに戻ればこんな面倒な事をしなくていいんだよ。わかったら早くレッドに戻れよ赤井。俺の好きだったお前によ」

 風祭は普段からトレーニングをしているから、ヘタな男では勝てない女だ。けどケンカという世界はルールなどは無く何でも有り。流石に多勢に無勢でもあるし、勝てる訳が無い。

「――あぁ!」

「風祭!」

 男達に殴られた風祭がやられる。そして唯も動くが、すぐにやられてしまう。無残な姿を見た俺は、目の前が開けたような感覚を覚えた。

(……)

 真っ赤な扉を開いてしまった俺は思う――。

(……シテヤル)

 すると、体育館内は静まった。乃定が床に転がっていたからだ。俺の拳が乃定の顔にクリーンヒットしていた。それを見た唯は喜んだ。

「やっちゃえ総司! 乃定なんてブルーって呼ばれてたけど、所詮はナンバーツーだし! 青は赤には勝てないのよ。負けるな総司!」

「赤井が勝ったのか西村唯? なら私達は解放される……」

「もうすぐ勝てるから安心しな風祭。総司がレッドになれば最強なんだから!」

 すると、唯と風祭に対して本気でキレた乃定は叫んだ。

「黙ってろよ西村ぁ! お前等、その女二人を奥の倉庫に連れてって犯せ! 特にその金髪には容赦するなぁ!」

『うい!』

 そうして、二人は奥の倉庫に連れて行かれた。

「乃定ぁーーーっ!」

「赤井ーーーっ!」

 それを防ぐ為に目の前の乃定を倒さないとならない。レッドであるはずの俺は、予想外にも乃定に苦戦していた。

「ぐっ! のぉ!」

「いいぜ、いいぜ赤井! さっきよりはマシだが、まだレッドには遠いな。だがもうすぐだ! あの二人の絶叫が! 絶望が! お前をレッドに変えるんだよ赤井総司!」

「ウルセーっ!」

 互いの拳が交差し、ほぼ互角の勝負を繰り広げていた。乃定の言う通りまだ完全にレッドにはなっていない。

『うらぁーーーっ!』

 すでに三分近く経っており、もう二人は服を脱がされている可能性が高い。すると、用具倉庫から才造高校の男達の悲鳴が聞こえた。それを聞いた体育館にいる誠高校の男女は泣き出し、残る才造高校の連中はニヤニヤとしていた。そして、俺は血が流れる口元を拭いながら立ち尽くしていた。

「……」

「どうやらアイツらはかなりハッスルしてるな。あそこまで悲鳴を上げてるなんて、どんなプレーをしてるやら」

「悲鳴……?」

 確かに聞こえたのは男の悲鳴だ。
 けど、唯も風祭も悲鳴を上げてはいなかった。口を抑えるガムテープは倉庫には無い。あの木製の扉なら少なくとも、唯の甲高い悲鳴は聞こえるはず。それが聞こえないのが疑問だった。

「……乃定。よくわからないが、唯の悲鳴が聞こえて無いな。もしかして仲間はやられたんじゃ無いか?」

「んなわけねーだろ。西村はケンカは強くは無い。それに、あの女も昔より落ち着いている性格になってやがった。あの爆乳にも勝てるわけが無い」

「それがわかるようだぜ。今、あの倉庫の扉が少し動いた」

 すると、唯と風祭が連れ込まれた倉庫の扉が開いた。その人物に体育館の全てが驚く。黒髪ロングに色白の肌。スラリと伸びた足にパッチリとした瞳。そして妖艶な桜色の唇がその女のミステリーさを際立たせていた――。

「……何故、お前がそこから出て来るんだ?」

 黒髪ロングの清楚な女はニッコリ微笑んだ。そこに現れたのは東堂だ。青眼の東堂真白だった。





 体育館の倉庫から現れた東堂は、一人で才造高校の男達を倒していた。倉庫に連れ込まれた唯と風祭は何もされていないようだった。その東堂は二人を外に出すと、倉庫の鍵を入口から閉めた。これで倉庫にいる五人の男達は何も出来なくなる。

「西村さんは、意外と臆病なんだね。風祭さんもやられる前に容赦無く倒さなきゃ、トレーニングをしている意味は無いよ」

『……』

 突如現れた謎の女という風にしか見られていない東堂に、俺達も対応出来ていない。肩を抑えている唯はその救世主の女に言う。

「東堂さん。このまま総司を助けるつもり?」

「えぇ、助けますよ。赤井君の全てを」

 明らかにイレギュラーな存在に乃定も焦ったようだ。俺との戦いを中止して、まずは東堂を倒そうと考えている。

「わけのわからん女がいるな……先に奴をやるか。あの青い目は嫌な感じがするぜ」

 スッ……と胸元から銃を取り出していた。そのまま、その銃口は東堂に向けられていた。何をしてるんだ? と思う俺は、それが文化祭の劇で使うモデルガンと気が付いた。

「おい乃定。それはモデルガンだぞ? この劇に使うモデルガンだ。そんなオモチャで何が出来る?」

「それはわからないぜ。ここに入って来てから殴った奴から奪ったが、やけにリアルだった。ケンカはハッタリも大事だからよぉ……なぁ、清楚な女の子?」

「そうですね。リアルかハッタリかは、これからわかるでしょう。因みに、その銃は本物ですけどね」

 平然と言い放つ東堂に場の空気は飲まれていた。劇で使うモデルガンが本物の銃? そんな訳は無い。けど、あの青い瞳の女はゆっくりと乃定の方に迫っていた。

「青眼で本物と見抜いたのか東堂? おかしな事は言うなよ。俺が乃定を倒せば終わる話だ。東堂は外に助けを呼んでくれ」

「おい赤井。何だその青眼とは?」

「相手を見透かす洞察力。観察眼の類だ。東堂にはそれがある」

「おいおい……マンガやアニメの話じゃねーんだぞ? あの女……マジでヤベーな……」

 男五人を倒した東堂を、乃定は警戒した。乃定へ向けて歩く東堂の歩みは止まらない。唯も風祭も、他の人間も東堂に見とれて何も出来ない。

(本当にあの銃は本物なのか? なら何故東堂は平然と乃定に向かって歩いているんだ? 意味がわからん……けど、まずは乃定を――)

 そして、本物と言われた銃の引き金にある指が動いた。

「乃定! 撃つなら俺を――」

「青目女! 近寄るんじゃねぇーっ!」

 そして、銃口から火が吹いて黒髪ロングの女は床に崩れた。腹部から出血した血が、体育館の床を真っ赤に染め上げた。これには誠高校だけで無く、才造高校の連中もやり過ぎだと悲鳴が上がる。俺の目の前が赤くノイズが走った。

(……シテヤル)

 銃を撃った乃定は動揺したまま動かない。
 唯と風祭は撃たれた東堂に駆け寄る。
 ノイズが走っていた俺の目の前は、見事な程真っ赤に染め上がった。

(……コロシテヤル)

 赤い扉が――完全に解放された――。

「――うらぁ!」

「はぐぁ!?」

 そして、乃定は「レッド」になる俺にブン殴られた。床に転がる銃の残弾を全て天井に向けて発砲し、それを投げ捨てた。
 もう、この場の誰もが俺を止められるような力は無かった。そうして、動かない東堂を見て俺は赤に染まる視界の中の、青い異物に言った。

「待たせたな乃定。レッド復活ショーの始まりだ」
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