5 / 128
第一章 三日月
歓待、のち試練〈一〉
しおりを挟む
「みんなー! 新人さんの到着だよー!」
会議室のドアを開け放ちながら葵が言う。まだ準備終わってないんだけど、という声が室内から聞こえるが、わたしはここに足を踏み入れていいのだろうか。
遠慮から一歩後ずさる。すると、室内の人物とやり取りしていた葵がくるりと振り向いた。
「お待たせしました、もう入っていいみたいです」
「本当に? 準備がどうとか聞こえたけど」
「人間、諦めも大事ですからね」
葵は答えになっているのかいないのかわからない言葉で煙に巻いた。わたしは躊躇いながらも会議室に足を踏み入れる。
「音島さん、ようこそ〈三日月〉第二班へ!」
澄んだ少女の声がわたしを歓迎する。パチパチパチ、複数人の拍手を受けながら示された場所まで進み、辺りを見回した。
室内にいるのはわたしと葵を含めて六人。他の面々は長髪で背の高い男性、センター分けの男性、ポニーテールの少女、前髪が切り揃えられた少女だ。
「葵君、音島さんの案内ありがとう」
「いえいえ」
長髪の男性が葵を労い、そしてわたしに向き直る。髪の長さや背の高さ、浮かべている微笑みがどことなく千秋を連想させる人だ。
「改めて歓迎するよ、音島さん。俺は辻宮玲、一応この班のリーダーをしている」
男性――玲は一礼すると、順番に他の四人を手で示した。
「他の人員は左から順に、萩原棗さん、藤田結さん、杉崎七彩さん、三雲葵さん。みんな個性的だけど優秀で親切だから、困ったらすぐ相談してね」
玲の言葉に葵が頷き、結と紹介されたポニーテールの少女が微笑む。棗と紹介された男性、七彩と紹介された少女は無表情だ。本当に親切なのだろうか、少し不安になる。
一抹の不安を抱えつつ、わたしはそれらしい口調で挨拶することにした。堅い口調は好きになれないが、必要とされるのならば仕方がない。
「挨拶が遅くなりましたが、音島律月です。今日からお世話になります」
「丁寧にありがとうございます。先ほど玲さんからも紹介がありましたが、藤田結と申します。役割は異能を用いた防衛……班の皆さんを守ることです」
結は可憐な笑みを浮かべながらもう一人の少女に視線をやる。目を向けられた少女は小さく頷き、口を開いた。
「私は杉崎七彩。班での役割は異能を使った偵察」
簡潔に自己紹介を済ませた七彩は「次、萩原さん」とセンター分けの男性を呼んだ。彼は深々とため息をつく。
「……萩原棗だ。役割は支援策の立案」
「はいはーい、次はオレ!」
棗の挨拶が終わるや否や葵が手を挙げた。棗は再びため息をついてから促す。
「さっきも挨拶したけど、オレは三雲葵。役割は、棗さんが考えた支援策の実行! 玲さんと一緒でーす」
葵は「よろしくお願いします!」と締めくくった。
「さて。みんなの紹介も終わったところで、そろそろ音島さんに仕事の説明をしようか」
備品のホワイトボードを引きずりながら玲が言う。わたしは頷いた。
「まずは仕事内容について。これは大きく分けて二つある。一つは日常業務、もう一つは緊急業務だ」
ホワイトボードに文字が書き込まれていき、二つの言葉を繋ぐように線が引かれる。玲は「緊急業務」の文字を指し示した。
「簡単に言うと、緊急業務は異能を使った犯罪の摘発へ向けた支援などを指す。日常業務はそれ以外全般だね。緊急業務に備えた訓練も日常業務に含めるよ」
「なるほど……?」
訓練がどういうものかはわからないが、曖昧に頷く。班内の連携を高めるために行うのだろうか。
「運がいいのか悪いのか、ちょうど明日訓練があるんだ。音島さんにも参加してもらうからね」
「わ、わかりました」
内容がわからないことに不安を抱きながら答える。すると、いきなり葵が手を挙げた。
「ずっと気になってたんだけど、なんで音島さん敬語なの? ここに到着するまでは違ったのに」
「そうなのかい? 音島さん、ここにいる間は無理に敬語を使わなくていいよ。俺たちも自由にしてるから」
「じゃあそうする」
わたしは即座に敬語を取り払い、なぜか目を丸くしている玲に説明の続きを要求する。
「あ、あぁ……。続きだね、了解」
玲はこほんと咳払いをして口を開いた。
「訓練の詳細は明かされていないけど、通常大きく三つの手順に分かれる。事件把握、支援立案、支援実行だ」
「今までは、私と七彩ちゃんが事件把握、棗さんが支援立案、葵さんと玲さんが支援実行……というように分かれていたんです」
結が玲の説明を補足する。他の三人も無言で彼女の発言を首肯した。
「でも、この分け方だと萩原さんの負担が大きい。立案者が一人しかいないのは問題だ、って何度か〈三日月〉の偉い人に怒られたこともある」
「七彩の言う通りだ。……そこで、音島さんには萩原さんと一緒に支援立案をしてもらいたいんだ」
どうかな。わたしに問いかけているような口調だが、玲の視線は棗の方を向いている。
「……俺に新人教育は向いてない。辻宮なら理解してるだろ」
「確かに。でも、新人との連携が最も重要なのも萩原さんだよ」
「それは……」
棗が言い淀む。数秒後、小さな嘆息と共に「わかった」と吐き出す声がした。
「お前の言う通りにする。だが、俺が新人に教えるのは支援策の立案だけだ。他の仕事は他の奴が教えてくれ」
「よし、決まり。そんなわけで音島さん、明日の訓練では萩原さんと一緒に行動してね」
「了解」
指示を了承するのとちょうど同じタイミングで、会議室の使用時間が終了したらしい。わたしたちは後片付けをして部屋を後にした。
会議室のドアを開け放ちながら葵が言う。まだ準備終わってないんだけど、という声が室内から聞こえるが、わたしはここに足を踏み入れていいのだろうか。
遠慮から一歩後ずさる。すると、室内の人物とやり取りしていた葵がくるりと振り向いた。
「お待たせしました、もう入っていいみたいです」
「本当に? 準備がどうとか聞こえたけど」
「人間、諦めも大事ですからね」
葵は答えになっているのかいないのかわからない言葉で煙に巻いた。わたしは躊躇いながらも会議室に足を踏み入れる。
「音島さん、ようこそ〈三日月〉第二班へ!」
澄んだ少女の声がわたしを歓迎する。パチパチパチ、複数人の拍手を受けながら示された場所まで進み、辺りを見回した。
室内にいるのはわたしと葵を含めて六人。他の面々は長髪で背の高い男性、センター分けの男性、ポニーテールの少女、前髪が切り揃えられた少女だ。
「葵君、音島さんの案内ありがとう」
「いえいえ」
長髪の男性が葵を労い、そしてわたしに向き直る。髪の長さや背の高さ、浮かべている微笑みがどことなく千秋を連想させる人だ。
「改めて歓迎するよ、音島さん。俺は辻宮玲、一応この班のリーダーをしている」
男性――玲は一礼すると、順番に他の四人を手で示した。
「他の人員は左から順に、萩原棗さん、藤田結さん、杉崎七彩さん、三雲葵さん。みんな個性的だけど優秀で親切だから、困ったらすぐ相談してね」
玲の言葉に葵が頷き、結と紹介されたポニーテールの少女が微笑む。棗と紹介された男性、七彩と紹介された少女は無表情だ。本当に親切なのだろうか、少し不安になる。
一抹の不安を抱えつつ、わたしはそれらしい口調で挨拶することにした。堅い口調は好きになれないが、必要とされるのならば仕方がない。
「挨拶が遅くなりましたが、音島律月です。今日からお世話になります」
「丁寧にありがとうございます。先ほど玲さんからも紹介がありましたが、藤田結と申します。役割は異能を用いた防衛……班の皆さんを守ることです」
結は可憐な笑みを浮かべながらもう一人の少女に視線をやる。目を向けられた少女は小さく頷き、口を開いた。
「私は杉崎七彩。班での役割は異能を使った偵察」
簡潔に自己紹介を済ませた七彩は「次、萩原さん」とセンター分けの男性を呼んだ。彼は深々とため息をつく。
「……萩原棗だ。役割は支援策の立案」
「はいはーい、次はオレ!」
棗の挨拶が終わるや否や葵が手を挙げた。棗は再びため息をついてから促す。
「さっきも挨拶したけど、オレは三雲葵。役割は、棗さんが考えた支援策の実行! 玲さんと一緒でーす」
葵は「よろしくお願いします!」と締めくくった。
「さて。みんなの紹介も終わったところで、そろそろ音島さんに仕事の説明をしようか」
備品のホワイトボードを引きずりながら玲が言う。わたしは頷いた。
「まずは仕事内容について。これは大きく分けて二つある。一つは日常業務、もう一つは緊急業務だ」
ホワイトボードに文字が書き込まれていき、二つの言葉を繋ぐように線が引かれる。玲は「緊急業務」の文字を指し示した。
「簡単に言うと、緊急業務は異能を使った犯罪の摘発へ向けた支援などを指す。日常業務はそれ以外全般だね。緊急業務に備えた訓練も日常業務に含めるよ」
「なるほど……?」
訓練がどういうものかはわからないが、曖昧に頷く。班内の連携を高めるために行うのだろうか。
「運がいいのか悪いのか、ちょうど明日訓練があるんだ。音島さんにも参加してもらうからね」
「わ、わかりました」
内容がわからないことに不安を抱きながら答える。すると、いきなり葵が手を挙げた。
「ずっと気になってたんだけど、なんで音島さん敬語なの? ここに到着するまでは違ったのに」
「そうなのかい? 音島さん、ここにいる間は無理に敬語を使わなくていいよ。俺たちも自由にしてるから」
「じゃあそうする」
わたしは即座に敬語を取り払い、なぜか目を丸くしている玲に説明の続きを要求する。
「あ、あぁ……。続きだね、了解」
玲はこほんと咳払いをして口を開いた。
「訓練の詳細は明かされていないけど、通常大きく三つの手順に分かれる。事件把握、支援立案、支援実行だ」
「今までは、私と七彩ちゃんが事件把握、棗さんが支援立案、葵さんと玲さんが支援実行……というように分かれていたんです」
結が玲の説明を補足する。他の三人も無言で彼女の発言を首肯した。
「でも、この分け方だと萩原さんの負担が大きい。立案者が一人しかいないのは問題だ、って何度か〈三日月〉の偉い人に怒られたこともある」
「七彩の言う通りだ。……そこで、音島さんには萩原さんと一緒に支援立案をしてもらいたいんだ」
どうかな。わたしに問いかけているような口調だが、玲の視線は棗の方を向いている。
「……俺に新人教育は向いてない。辻宮なら理解してるだろ」
「確かに。でも、新人との連携が最も重要なのも萩原さんだよ」
「それは……」
棗が言い淀む。数秒後、小さな嘆息と共に「わかった」と吐き出す声がした。
「お前の言う通りにする。だが、俺が新人に教えるのは支援策の立案だけだ。他の仕事は他の奴が教えてくれ」
「よし、決まり。そんなわけで音島さん、明日の訓練では萩原さんと一緒に行動してね」
「了解」
指示を了承するのとちょうど同じタイミングで、会議室の使用時間が終了したらしい。わたしたちは後片付けをして部屋を後にした。
2
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう一度確かな温もりの中で君を溺愛する
恋文春奈
恋愛
前世で俺は君というすべてを無くした 今の俺は生まれた時から君を知っている また君を失いたくない 君を見つけてみせるから この奇跡叶えてみせるよ 今度こそ結ばれよう やっと出逢えた 君は最初で最後の運命の人 ヤンデレ国民的アイドル松平 朔夜(25)×平凡なオタク大学生佐山 琉梨(22)
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる