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第四章 星月夜
情報屋、新たな波乱
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恭介の襲撃から三日。わたしたちの店は特別大きなトラブルもなく回せていた。
今日一緒に働くのは、麻里奈と牡丹。仕事に慣れた二人がテキパキと接客を進めていく。わたしは綺麗な盛り付けを崩さず運ぶことに苦心していた。
客が途切れ、小さく息をついた瞬間。そのタイミングを見計らったかのように昭人から呼び出される。……わざわざあくびした瞬間に声をかけなくてもいいだろうに。
「……申し訳ない、間が悪かったようですね」
「いやいいけど。何?」
問いかけると、昭人は黙って裏口を示した。ついてこい、とでも言いたげに。きっとこの前の件だろう。
裏口から外に出ると、そこには二人の青年がいた。編まれた横髪が印象的な青年と、猫背の青年。彼らはわたしを見て、警戒したような反応を見せる。
「お待たせいたしました。穂村さん……いえ、情報屋さん」
「どーも。あんたたちが言ってた情報、集めてきたよ」
情報屋と呼ばれた青年が昭人に何かを手渡す。大きい茶封筒のようなそれは、それなりの厚みがあった。中身は彼曰く「情報」のようだが、その内容が予想できない。
「んで、俺からもちょっと頼みがあるんだけど」
「頼み、ですか。あなたがそのような態度を取るとは珍しい」
昭人は左目を丸くしながら青年に問いかける。何があったのですか、と。青年はぶっきらぼうな態度でもう一人の青年を指し示した。
「こいつをこの店で預かってほしい。……多分だけど、研究所に目をつけられたら面倒なことになる」
「研究所?」
初めて耳にする単語に思わず口を挟んだ。三人から一斉に視線を向けられ、わずかに気まずさが頭をもたげる。
「まず、あんた誰。ここにいるってことは変わり者なんだろうけど」
青年――昭人が「穂村」と呼ぼうとしていた――からの問いに、わたしは短く名乗った。念のために「変わり者ではない」とも付け足す。
「音島律月、ねぇ……。まぁどうでもいいや」
「あんたが聞いてきたくせに。それで、研究所って何?」
改めて質問すると、青年はやる気のなさそうなため息をつく。それでもわたしは返答を待ち続け、やがて青年が根負けするまで諦めなかった。わかった、そんな言葉で勝利を確信する。
「説明すればいいんでしょ。研究所……異能研究所は、異能と異能者を研究してる施設。でも最近はまともな噂なんて聞かないけど」
「ふーん」
「聞いておいて興味ないでしょ、あんた。まぁ風変わりな異能でも持ってない限り関係ない話かもね」
青年が鼻で笑うような音を発した。聞き流そうとしていたわたしだったが、彼の言葉に引っかかりを覚えて動きを止める。
関係のない話、ではないかもしれない。わたしの異能は特殊なもののようだから。――しかし、次に問うべきは「わたしが研究所に狙われる可能性」でもないことは明白だ。視線を猫背の青年に向けると、彼は怯えたように身を縮めた。
「えっと……情報屋、って言ったっけ。あんたの言い方からして、そっちの人は研究所が狙うような異能を持ってるってことで合ってる?」
「……確かに情報屋を否定はしなかったけどさ、俺には『穂村飛鳥』って名前がちゃんとあるから」
青年――情報屋こと穂村飛鳥――はそう前置きすると、猫背の青年の右腕を引っ張る。よろけたように一歩前へ出た彼を指差した。
「能勢友也」
「は? 何が?」
「こいつの名前。……ほら、それ以上のことは自分で話せよ。俺はあんたの世話係じゃない」
「わ、わかってる……っ」
能勢と紹介された青年は、相変わらずわたしたちのことを警戒しているらしい。落ち着きなさそうにわたしと昭人を交互に見やり、何度か深呼吸を繰り返していた。
「……突然お邪魔してすみません。穂村くんから紹介された通り、僕は能勢友也と言います。ここなら、僕みたいな人のことを保護してくれるって聞いて」
「つまり、能勢さんは『異能研究所が求める異能』を持っている……ということでしょうか」
昭人が問いかける。能勢は一瞬穂村に視線を送り、そして小さく頷いた。
「はい。穂村くんの言葉にはなりますが、僕は『時間操作』の異能を持っているそうです」
「時間操作……?」
思わず復唱する。その異能は――千波がひた隠しにしていたものではないか。
わたしの反応を「時間操作という異能を初めて耳にした」ものだと判断したのか、穂村が「名前通り、時間を操れる異能のこと」と説明してくる。
違う、わたしが知りたいのはそういう基礎の部分ではない。そもそもどんな異能かは知っているし、何なら「模倣」したこともある。だが、そう突っ込みを入れる余裕はなかった。
今日一緒に働くのは、麻里奈と牡丹。仕事に慣れた二人がテキパキと接客を進めていく。わたしは綺麗な盛り付けを崩さず運ぶことに苦心していた。
客が途切れ、小さく息をついた瞬間。そのタイミングを見計らったかのように昭人から呼び出される。……わざわざあくびした瞬間に声をかけなくてもいいだろうに。
「……申し訳ない、間が悪かったようですね」
「いやいいけど。何?」
問いかけると、昭人は黙って裏口を示した。ついてこい、とでも言いたげに。きっとこの前の件だろう。
裏口から外に出ると、そこには二人の青年がいた。編まれた横髪が印象的な青年と、猫背の青年。彼らはわたしを見て、警戒したような反応を見せる。
「お待たせいたしました。穂村さん……いえ、情報屋さん」
「どーも。あんたたちが言ってた情報、集めてきたよ」
情報屋と呼ばれた青年が昭人に何かを手渡す。大きい茶封筒のようなそれは、それなりの厚みがあった。中身は彼曰く「情報」のようだが、その内容が予想できない。
「んで、俺からもちょっと頼みがあるんだけど」
「頼み、ですか。あなたがそのような態度を取るとは珍しい」
昭人は左目を丸くしながら青年に問いかける。何があったのですか、と。青年はぶっきらぼうな態度でもう一人の青年を指し示した。
「こいつをこの店で預かってほしい。……多分だけど、研究所に目をつけられたら面倒なことになる」
「研究所?」
初めて耳にする単語に思わず口を挟んだ。三人から一斉に視線を向けられ、わずかに気まずさが頭をもたげる。
「まず、あんた誰。ここにいるってことは変わり者なんだろうけど」
青年――昭人が「穂村」と呼ぼうとしていた――からの問いに、わたしは短く名乗った。念のために「変わり者ではない」とも付け足す。
「音島律月、ねぇ……。まぁどうでもいいや」
「あんたが聞いてきたくせに。それで、研究所って何?」
改めて質問すると、青年はやる気のなさそうなため息をつく。それでもわたしは返答を待ち続け、やがて青年が根負けするまで諦めなかった。わかった、そんな言葉で勝利を確信する。
「説明すればいいんでしょ。研究所……異能研究所は、異能と異能者を研究してる施設。でも最近はまともな噂なんて聞かないけど」
「ふーん」
「聞いておいて興味ないでしょ、あんた。まぁ風変わりな異能でも持ってない限り関係ない話かもね」
青年が鼻で笑うような音を発した。聞き流そうとしていたわたしだったが、彼の言葉に引っかかりを覚えて動きを止める。
関係のない話、ではないかもしれない。わたしの異能は特殊なもののようだから。――しかし、次に問うべきは「わたしが研究所に狙われる可能性」でもないことは明白だ。視線を猫背の青年に向けると、彼は怯えたように身を縮めた。
「えっと……情報屋、って言ったっけ。あんたの言い方からして、そっちの人は研究所が狙うような異能を持ってるってことで合ってる?」
「……確かに情報屋を否定はしなかったけどさ、俺には『穂村飛鳥』って名前がちゃんとあるから」
青年――情報屋こと穂村飛鳥――はそう前置きすると、猫背の青年の右腕を引っ張る。よろけたように一歩前へ出た彼を指差した。
「能勢友也」
「は? 何が?」
「こいつの名前。……ほら、それ以上のことは自分で話せよ。俺はあんたの世話係じゃない」
「わ、わかってる……っ」
能勢と紹介された青年は、相変わらずわたしたちのことを警戒しているらしい。落ち着きなさそうにわたしと昭人を交互に見やり、何度か深呼吸を繰り返していた。
「……突然お邪魔してすみません。穂村くんから紹介された通り、僕は能勢友也と言います。ここなら、僕みたいな人のことを保護してくれるって聞いて」
「つまり、能勢さんは『異能研究所が求める異能』を持っている……ということでしょうか」
昭人が問いかける。能勢は一瞬穂村に視線を送り、そして小さく頷いた。
「はい。穂村くんの言葉にはなりますが、僕は『時間操作』の異能を持っているそうです」
「時間操作……?」
思わず復唱する。その異能は――千波がひた隠しにしていたものではないか。
わたしの反応を「時間操作という異能を初めて耳にした」ものだと判断したのか、穂村が「名前通り、時間を操れる異能のこと」と説明してくる。
違う、わたしが知りたいのはそういう基礎の部分ではない。そもそもどんな異能かは知っているし、何なら「模倣」したこともある。だが、そう突っ込みを入れる余裕はなかった。
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