観月異能奇譚

千歳叶

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第六章 新月

明快、護衛役

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「何はともあれ、仕事内容から説明しないとな」

 幸花の一言で我に返る。確かに、今のわたしが気にするべきは裏に潜む思惑ではない。
 わたしは、今のわたしにできることを一つひとつクリアしていく。ある意味今までと変わらない決意を固め、幸花に説明を促した。

「とは言っても、説明なんて一言で済むんだが。変な奴がいないか警戒して、いざってときは異能なり何なり使って無力化する。それだけの仕事だ」
「わかりやすいね」

 言葉にすれば単純だが、きっと一筋縄ではいかない仕事だろう。護衛の経験がなくともそれだけは理解できる。
 うんうんと頷きつつ、わたしはさらに言葉を重ねた。

「無力化ってことは、やっぱり何かしら攻撃手段がないと駄目だよね?」
「ん? まあそうだな。体術のプロとかでもない限りは異能頼りになる」

 それがどうかしたか、と首を傾げる幸花に自身の異能を説明する。誰かの異能を模倣しないと異能銃すら扱えない、ということも。

「わたしに務まるのかな。今更不安になってきた」
「あっはっは! 心配すんなって!」

 わたしの不安を豪快に笑い飛ばした幸花が、ぽん、と肩に手を置いてきた。

「そのためにアタシがいるんだからさ。異能なんてなくてもいいくらいに鍛えてやるよ」

 にんまり。悪い顔で笑う彼女に、不安が膨れ上がったことは言うまでもない。せめてもの意思表示として「お手柔らかに……」と呟いてみたものの、効果はなさそうだ。

「ま、最後の手段として異能を使うのは悪いことじゃないがな。他の奴の異能を使えるってことは、敵に予測されにくい切り札になるし」

 幸花は顎に手を当て、しばらく考え込むようなそぶりを見せた。そして「よし」と大きく頷くと立ち上がる。

「今の律月は他の奴の異能を覚えないと戦えないわけだよな。……どっちがいい?」
「どっちって何が?」
「死ぬ気で体術をマスターするか、体術をマスターした上で異能制御も身につけるか」
「体術のマスターは必須なんだ……」

 呆然と呟くと、幸花は苦く笑う。アタシにはそれしか教えられないからさ――そう返す彼女はどこか遠くを見るような目をしていたが、わたしにその本心はわからない。

「まあ、好きに選んでくれよ。アタシもできる限りサポートするし」
「えぇ……選びたくないけど」

 心の底から遠慮したいが、わたしは渋々後者を選択した。戦う選択肢は一つでも多い方がいい。
 ふっと脳裏をよぎったのは、以前〈九十九月〉にいた頃のこと。……わたしのせいで、誰かが傷つくのは耐えられないのだ。
 この判断は幸花にとって意外だったようで、目を丸くして「正気か?」と返してきた。選ばせたのは彼女だというのに、失礼だと思う。

「いいよ。律月がそう決めたなら、アタシはそれを応援するだけさ。……逃げるなよ?」
「当たり前でしょ。逃げる場所なんてないし」

 挑発するような目をまっすぐに見返し、にやりと口の端を持ち上げる。幸花は余裕たっぷりにカラカラと笑い、わたしの背中を力強く叩いた。突然の衝撃に思わず咳き込んでしまう。

「ごほっ! ……い、いきなり何なの?」
「その心意気やよし! お前なら、ここの連中に惑わされずに仕事できそうだな」

 バシバシと何度も叩かれ、背中がじんわり痛む。わたしの決意を認めてくれたのは嬉しいが、力加減をもう少しどうにかできないものだろうか。
 数分ほど経過してようやく落ち着いたのか、幸花の手が離れる。わたしはじとりと彼女を睨み、痛いんだけど、と文句を放った。

「悪い悪い、ついテンション上がっちゃってさ。ここで馬が合う奴なんてめったにいないから」
「まぁ……組む相手と相性がいいのはやりやすいだろうけど。それにしても喜びすぎでしょ」
「いろいろあるんだよ、この組織には」

 幸花は誤魔化すように笑い、それより、と無理矢理話題を変える。次の話題は今日この後の予定について。

「アタシたちが護衛することになる人と顔合わせして、お互いの希望をすり合わせる」
「希望?」
「目の届く範囲で護衛してほしいとか、視界に入らない場所にいてほしいとか。人によっていろいろあるんだと」
「なんか投げやりだけどわかった。ところで幸花はその護衛対象のこと知ってるの?」

 首を傾げながら問いかけると、幸花は「いいや」と否定した。どうやら、わたしと組むことになったタイミングで護衛対象も変わったらしい。

「会ったことはないが、辻宮家の人間だとは聞いた。……面倒な奴じゃないことを祈るしかないな」
「辻宮家……か」

 小さく呟く。辻宮家、玲の家。彼自身は善人そのものだが、親族が同じだとは限らない。幸花の「祈るしかない」という言葉にも頷ける。

「そういえば顔合わせって何時にどこでやるの? 聞いてなかったよね」

 ふと思い出して問いかけると、幸花も話が逸れかけたことに気づいたようだった。腕時計に視線をやると「やべ」と小さな声がこぼれる。

「……五分後、三階の会議室」
「予想以上にギリギリなんだけど」

 ぐちぐちと文句を言いながら立ち上がり、わたしたちは慌ただしく部屋を後にした。――顔合わせまで残り四分、エレベーターを待っている暇はない。
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