観月異能奇譚

千歳叶

文字の大きさ
117 / 128
第六章 新月

対話、最悪の想定

しおりを挟む
 幸花と別れ、わたしは〈九十九月〉に戻る。武文の元へ戻る前に、エレベーターで七階へ向かうことにした。七階は〈弓張月〉のフロア。ここに真砂がいるだろうと考えたのだ。

「……あれ」

 ポーンと到着を告げたエレベーターから降り、はたと気づく。真砂はどこの班に出向しているのだろうか。第四班ではないことだけはわかるが、それでも三分の一だ。誰かに聞くことができれば確実だが、怪しまれないだろうか。わたしが元第四班だということも、その班が解体されたことも知られているだろうし。

 エレベーターのそばで足を止めているわたしはかなり不自然だろう。しかし〈弓張月〉の人たちはこちらをちらりと見ると、何を言うわけでもなく立ち去っていく。そんなに仕事が忙しいのか。わたしから声をかけて仕事の邪魔をしてもいいのだが。あまりにも自分本位な思考が頭をかすめる。

「こんなところで何をしているのですか」

 いきなり声をかけても怒らなさそうで、できれば第二班以外――第二班を訪れたときの所業を、わたしはまだ忘れていない――の人。じっと観察していると、真横から呆れたような声がした。……声の主は真砂亜理紗。わたしに「忠告」とやらを繰り返していた、真砂家のトップだ。

「あんたを探してた。ちょっと話があるんだけど」
「突然何を――いえ、いいでしょう。そのお話、ぜひ聞かせてください」

 真砂は「少々お待ちを」とわたしを留め、第二班の部屋へと入っていく。席を外すとでも伝えているのだろうか、というか第二班に出向いていたのか。どうでもいいことばかりが思い浮かぶ。彼女が戻ってくるまで、そう時間はかからなかった。

「お待たせいたしました。空いている会議室を借りられたので、そちらで伺います」

 案内されるまま会議室に向かう。向かい合わせで腰掛けたわたしたちは、じっとお互いを見合った。

「……それでは、音島さんのお話をどうぞ」
「面接官?」

 思わず突っ込んでしまう。真砂はわたしの声に反応することなく「早く」と急かしてきた。仕方ないので口を開く。

「新田派の人間が〈五家〉の座をどうにかしようとしてるって話は知ってるよね? それが〈月神祭〉で実行されるんじゃないかって話なんだけど」
「あなた、それをどこで……」

 真砂が目を見開く。紗栄のことを説明してもいいのだろうか。口ごもったわたしに訝しげな目を向けた彼女は、しばらくして「あぁ」と納得したような声を発した。

「もしや、行村派の情報ですか?」
「……情報源のことは言えない。でも、そこら辺の噂話を聞いたわけじゃないから」

 慌てて補足する。真砂は無言で頷き、口元に手を添えた。

「……その可能性も否定できませんが、私たち真砂派の考えとは異なりますね」
「そう言うってことは、考えとやらを聞かせてくれるってこと?」
「その通りです。音島さんには、さまざまな可能性を知った上で考えていただく必要があるので」

 咳払いで言葉を切った真砂が再び口を開く。彼女の――真砂派の「考え」は、どんなものだろうか。

「異能排斥論が過熱し、国民の総意と称して私たち異能者の排除に乗り出す。そのとき新田は動くと、我々は考えています」
「どうして?」

 首を傾げる。わたしからすると、異能者が排除されそうになったら動きづらいと思うのだが。
 短く聞き返すと、彼女は暗い目をした。

「……異能で押さえつけ、恐怖で支配するためです。どれだけ数が勝っていても敵わない存在だと知らしめたいのだと思います」
「そんなことのために、わざわざ被害を大きくするの?」
「あなたにとっての『そんなこと』が、誰かにとっては大切なこともありますよ」

 わたしを宥めるような言葉を発した真砂だが、すぐさま「……本当にこれが計画されているなら外道の行いですが」と吐き捨てる。

「……そういえば、異能研究所の解体を主張してる奴がいるとかなんとか」

 ふと、陽斗や七彩の話を思い出した。彼らの話と今の話を合わせて考えると、かなり危険な状況かもしれない。
 研究所でのさまざまな実験が白日の下に晒されるとして、起こったことが全て正確に発信されるとは限らないだろう。むしろ、異能者排斥に利用するなら情報がねじ曲げられると考えた方が自然だ。……そうして排斥論が勢いを増し、わたしたち異能者を攻撃してきたところを返り討ちにするとしたら――そこまで考えて、ぞわりと背筋を冷たいものが走った。

「そのようですね。議会だけでなく〈六曜〉にも己の主張を広めていると耳にしました」
「……まずくない?」
「えぇ、まずいですよ。なので〈五家〉の方々には未然に防いでほしいのですが……現状ほぼ動きが見えないので、厳しいでしょうね」

 重苦しいため息をつく真砂につられ、わたしもうつむきがちに息を吐き出す。

 謎も疑惑もまだ残っている。まさか〈五家〉の元に情報が行かないよう統制させているのか、はたまた〈五家かれら〉は情報を得た上で動かないことを選択しているのか。

 凝り固まりそうな眉間を指でほぐし、わたしは〈五家〉へ探りを入れる方法を思案した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

処理中です...