幼なじみだからってそこに淡い感情があるとは限らない!

神通百力

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幼なじみだからってそこに淡い感情があるとは限らない!

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 俺は退屈すぎる授業を聞き流していた。
 この教師は授業の合間にオヤジギャグを言うため、聞く気が失せるのだ。
 まったくもってつまらない。ギャグを言った後に得意げな顔をしてくることにも腹立つ。
 ほぼクラスの全員がこの教師を嫌っていることだろう。この教師に比べればまだ学食のおっちゃんの方が面白い。
 キヒヒヒヒと隣の席から笑い声が聞こえる。
 俺は隣に視線を向けた。歌上百香かがみももかが笑っていた。
 たった今まで居眠りをしていたのであろう、口の横によだれが垂れている。
 こいつは俺の幼なじみだ。幼い頃はずっと俺を手下扱いして、俺はこいつにいじめられていた。男女の幼なじみだからってそこに淡い感情があるとは限らない。はっきり言って俺はこいつが大嫌いだ。
 そんなことを考えているうちにチャイムが鳴って、退屈な授業は終わりを告げた。

 ☆☆

 昼食の時間になり学食に行くと、歌上は親子丼を食べていた。飲み物は色合いから察するにメロンソーダだろう。親子丼とは合わないと思うが、どうなのだろうか。
 券売機からカレーうどんを選び、食券をおっちゃんに渡した。
 俺は歌上がいるテーブルに近づいた。歌上は親子丼を頬張り、メロンソーダを飲んでいた。顔をしかめている。やっぱり合わなかったようだ。
 そんな歌上の顔を見ているとなんだか腹が立ってきた。そして気が付いた時には手に持っていた水の入ったコップを歌上の頭上に……
「ぶへっ?」
 歌上は口に含んでいた親子丼を盛大に吐き出した。テーブルの上は親子丼塗れになった。
「へっ? な、何なの? 上野、よくもやってくれたわね!」
 歌上はテーブルに置いてあったメロンソーダを勢いよく俺にぶっかけてきた。
 あまりの冷たさと怒りに震えていると肩を叩かれた。
 振り向くと学食のおっちゃんだった。
「女の子に意地悪をした罰として、カレー抜いといたから。カレーうどんじゃなく、普通のうどんね。あとそのテーブル拭いといて」
「……はい」
 俺は返事をし、うどんを受け取った。
 おっちゃんに布巾を借りて、テーブルの上を拭いてから、うどんを食べる。
 これはこれでうまいからカレー抜きでも良いや。
 俺はうどんを食べ終え、食器をおっちゃんに渡した。

 ☆☆

「こんなところで逢いたくなかった」
 その日の夕方、スーパーの半額シールが貼られたお惣菜コーナーの前で歌上に出くわした。
 半額シールが貼られるのを見計らって、スーパーに来たと思われるかもしれない。まあ、実際そうなんだけど。
「それは私のセリフよ。何でいきなり水をかけられなきゃいけないほど嫌われているのか本当にわからない」
 歌上はため息をついた。
 歌上は何を言っているのだろうか? 幼い頃の俺への数々の理不尽な振る舞いを忘れたとでもいうのか?
「俺は歌上のことは嫌いじゃない。大嫌いなだけだ」
「だから何で私、そんなに嫌われているのよ?」
 歌上は怪訝な表情を浮かべた。
「公園で俺の頬に拳をめり込ませただろう」
「いつの話してんのよ? 幼い頃の私なりのかわいい友情の表現じゃない。小さい男ね、そんな昔の事をウジウジと」
 歌上は唇をわなわなと震わせている。
「信じられない。あれが友情の表現だと? 暴力の表現の間違いだろ?」
「失礼な。暴力など振るっていない」
 歌上は呆れたようにため息をつく。
 そうして歌上は惣菜を手に取り、行ってしまった。

 ☆☆

 ――翌日。
 俺は券売機から牛丼を選び、おっちゃんに渡した。
 じっと俺を見つめてくる歌上の顔を見ているとなんだか腹が立ってきた。そうして気が付いた時は殴りかかっていた。が、椅子でガードされる。激痛に思わずしゃがみこんだ。すげえ痛い。
「昨日は油断したけど、今日は食らわないわよ」
 歌上はほほ笑み、学食を立ち去る。
 怒りに肩を震わせていると、肩を叩かれた。
 振り向くと学食のおっちゃんだった。
「女の子を殴ろうとした罰として、具材抜いといたから。牛丼じゃなく、普通のご飯ね。あと汚れてないけど、テーブル拭いといて」
 それも罰なのか?
 俺は渋々テーブルを拭いた。それから、ご飯を食べる。牛丼の口になっていたけど、仕方ないな。

 ☆☆

「また逢ったな」
 惣菜コーナーの前でまた歌上に遭遇した。
「昨日と同じ場所で逢うなんて最悪だわ」
 歌上は顔をしかめる。
 それはこっちのセリフだ。学校で逢うだけでも嫌なのに。
「何で俺と同じ時間に買い物に来るんだ? 時間をずらして来いよ」
「はぁ? 何で私が時間をずらさないといけないの? 上野がずらしなさいよ」
 歌上は俺を睨みつけてきた。
「この時間帯は半額になるからずらしたくない」
「私だってそうよ」
 歌上は惣菜を手に取って、もう一度俺を睨みつけてから去っていった。

 ☆☆

 ――翌日。
 券売機からオムライスを選び、おっちゃんに渡した。
 歌上はカツ丼定食を食べていた。歌上は俺に気付き、食べる手を止めた。
 歌上を見ているとなんだか腹が立ってきた。そして気が付いた時にはもう殴りかかっていた。
「ふぬおっ?」
 突然の耐え難い激痛に内股になる。お、俺の股間が悲鳴を上げていらっしゃる!
「そんなに痛いの? 男って股間が急所らしいけど、その反応大げさじゃない?」
「女にはわからねえ、痛みってのが男にはあるんだよ」
 そうこうしてる間に徐々に股間の痛みが引いてくる。ふぅ~だいぶマシになった。
 歌上を睨んでいると肩を叩かれた。
 振り向くと学食のおっちゃんだった。
「今日も女の子を殴ろうとした罰として、ご飯抜いといたから。オムライスじゃなく、薄い玉子焼きね。あと皿洗いしといて」
「……わかりました」
 玉子焼きを受け取って、歌上の三つ隣に座る。歌上はニヤニヤしながら、俺を見る。何、ニヤニヤしてんだ?
 玉子焼きの生地は薄いけど、味は濃くケチャップの味が利いてうまい。
 昼食を食べ終えて、厨房で皿洗いをした。

 ☆☆

「またまた逢ったな」
 今日もスーパーの惣菜コーナーの前で歌上に遭遇した。
「三日連続で逢うなんてね」
 歌上の近くに、おいしそうな惣菜があった。取ろうとした矢先、歌上に奪われた。
「くそ! 狙っていたのに歌上に奪われた!」
 俺は悔しさに唇を噛み締める。おいしそうな惣菜だったのに、ちくしょう! 取ろうとして横から掻っ攫れたら、腹が立つな。
「な、何よ。おいしそうだったから取っただけじゃない! それにこの惣菜まだ残っているし」
 確かにこの惣菜はまだ残っている。けど、違うんだよな。そうじゃないんだよな。俺が欲しいのは歌上が手に取った惣菜だ。
「他の惣菜見てみろよ。微妙に中身が少ないだろ」
「そうかしら」
 残りの惣菜を見て、歌上はポツリと呟く。
「自分が取ったのを見てみろよ」
「確かに心なしか多い気はするわ」
 歌上は手に持っている惣菜を見た。
「俺は多いのがいいから、その惣菜寄越せ」
 歌上の持つ惣菜に手を伸ばすが、叩かれた。
「私もこれがいいから渡さないわ」
 歌上は惣菜を守ろうとする。
「上野は私のこと大嫌いだから、必死に奪おうとしているの?」
「それとこれとは別問題だ! いいからそれ寄越せ!」
「やだ、渡さない!」
 歌上と惣菜の件で数分間口論する。
「歌上よ。いいかげん俺に譲れ!」
「上野こそ、いいかげん諦めなさいよ!」
 俺と歌上は睨みあう。
「君たちいいかげんにしなさい。まわりの方たちに迷惑だろ」
 俺たちは同時に声がした方向に顔を向けた。
 男が立っていた。おそらく店長だろう。
「迷惑かけた罰として、惣菜抜いとくから。惣菜じゃなく、ただの入れ物ね」

『お前もか!』

 俺たちは同時に店長(仮)につっこんだ。
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