プロポーズ

神通百力

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プロポーズ

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「ごめん、待った?」
「うんうん、全然待ってないよ」
 本当は一時間も待っていた。約束の時間よりも早く着いたわけではない。時間通りに到着した。つまり拓司たくじが一時間も遅刻したのだ。七時に中華料理屋で会う約束をしていたが、現在時刻は八時を過ぎている。外は真っ暗だった。
「もうお腹ぺこぺこだよ。何か注文しようよ。すみません!」
 私は近くを歩いていた店員を呼び止めた。
「激辛ラーメンを一つ」
「俺もそれで」
「激辛ラーメン二つですね。かしこまりました」
 店員はペコリと頭を下げると去っていった。
「約束の時間に遅れて本当にごめん。ゲームで遊んでたら時間が過ぎていたんだ」
「そうなんだ。よっぽど面白いゲームだったんだね」
「ああ、面白いよ」
 拓司は目を輝かせた。少しイラっとした。私との約束よりもゲームの方がいいのだろうか? 食事をするよりもゲームの方が楽しいかもしれないが、私との時間も大切にしてほしい。
「お待たせしました。激辛ラーメンです」
 私と拓司の前に激辛ラーメンが置かれた。店員はペコリと頭を下げ、去っていく。
 麺をスープに絡ませ、口に運んだ。思っていたよりも辛かったが、麺にコシがあっておいしい。このくらいの辛さがちょうど良い。拓司は麺に手を付けていなかった。どことなく険しい表情をしている。
「どうしたの? 食べないの?」
「辛いのが苦手でね」
「そ、そうなんだ。知らなかったよ」
 辛いのが苦手なら何で『俺もそれで』と言ったんだ。拓司はバカなのか。それともメニューを決めるのが面倒くさくてつい言ってしまったのだろうか? 仮にそうだとしてもバカということに変わりはないだろう。そんなバカを好きになった私もバカと言えるかもしれない。
 拓司は水を飲みながら激辛ラーメンを食べている。苦しそうな表情だ。私が激辛ラーメンを頼まなければ拓司は苦しまずに済んだ。しかし、食べたかったのだから仕方がない。拓司も食べたいものを頼んでいれば苦しまずに済んだのに。
美沙みさにプレゼントがあるんだ」
 食事を終えて帰り支度をしていたら、拓司が神妙な面持ちでそう言った。
 拓司はポケットから小さな箱を取り出すと、蓋を開けた。中には指輪が入っていた。
「俺と結婚してください」
 中華料理屋ですることか? こういうサプライズは高級レストランでするものじゃないのか? こんなところでサプライズされても、リアクションに困る。
「はい!」
 そう思いながらも私は力強く返事をした。中華料理屋でするのはどうかと思うものの、結婚したい気持ちはあったし、とても嬉しい。
 拓司は嬉しそうな表情を浮かべながら、指輪をはめてくれた。なぜか髑髏が付いた指輪だった。これは婚約指輪ではなく、ファッションリングじゃないのか。見た目がかっこいいから別にいいけど。
「ねえ、拓司の家に泊まっていい?」
「もちろんだよ」
 私は先に外に出て拓司が勘定を済ませるのを待った。
「お待たせ、行こうか」
「うん」
 私は拓司と手を繋ぎ、歩き出した。
 
 ――こういうサプライズもありだな。
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