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紫崎翼
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軽くウェーブがかかった黒髪の女性――紫崎翼は空蒼病院の前にいた。手には携帯端末型のレーダーを持っている。レーダーは空蒼病院を示していた。先週も空蒼病院に『幼児保持者』が現れ、百波玲華が殺したと聞いた。基本的に『幼児保持者』は病院に出現することが多く、自宅出産の時は民家に現れる。
空蒼病院の隣には研究所があった。数年前に爆発事故を起こし、現在は閉鎖されている。紫崎は爆発事故の時、研究所の近辺に住んでいた。
研究所の爆発事故以降に『幼児保持者』が現れ始めた。『幼児狩人』の中には爆発事故と『幼児保持者』の関連性について調べている者もいると聞く。
紫崎は車椅子を動かし、病院の中に入った。患者たちはギョッとした表情で見てきた。紫崎は両足がなかった。
紫崎は『幼児保持者』がいる病室に向かいながら、人生が一変したあの日のことを思い出す。
☆☆
紫崎は分娩台の上で足を広げていた。そこは空蒼病院の分娩室だった。股の間から赤ちゃんの頭が見えていた。痛みを和らげるために呼吸を繰り返していると、助産師が股の間に手を入れるのが見えた。
「元気な男の子ですよ」
紫崎は助産師から赤ちゃんを受け取ろうとした。その瞬間、助産師の首が飛んだ。首は上下に回転しながら天井に激突し、床に転がる。胴体はゆっくりと床に倒れた。首の切断面はまるで刀で切ったかのように真っ直ぐだった。
紫崎は分娩台の上から動くことができなかった。状況が理解できなかったからだ。なぜ助産師の首が飛んだのか、まったく分からない。看護師たちも状況が理解できないのか、棒立ちだった。ただ恐怖の感情は伺えた。
紫崎はどうするべきか悩んでいると、赤ちゃんが手のひらを看護師に向けたことに気付く。すると看護師の胴体が真っ二つに切断された。看護師たちは悲鳴をあげた。
胴体から噴き出た血が壁や床を赤色に染める。看護師の胴体が真っ二つにされる直前、ヒュッと音が聞こえた。それは風切り音のように思えた。
紫崎には自分の赤ちゃんが殺したのではないかと思えてならなかった。赤ちゃんが手のひらを向けた瞬間に看護師の胴体が切断されたし、助産師は赤ちゃんを抱えていた。
紫崎は自分が止めなければいけないという使命感に駆られ、分娩台から立ち上がった。赤ちゃんに近づき、体に手を伸ばそうとした。その時、急に赤ちゃんが振り向いた。ヒュッと音が聞こえたかと思うと、両足に激痛が走り、床に倒れてしまう。嫌な予感がして紫崎は恐る恐る自分の足を見た。太ももから下が切断されていた。
紫崎は痛みをこらえながら、看護師に手のひらを向けようとしていた赤ちゃんの首に手を伸ばした。目を閉じて両手に力を込めた。赤ちゃんは悲鳴をあげていたが、やがて声が聞こえなくなった。ゆっくりと目を開けると、赤ちゃんは絶命していた。
紫崎は赤ちゃんを抱きかかえると、涙が枯れるまで泣き続けた。
☆☆
あの後、分娩室を訪れた『幼児狩人』から『幼児保持者』について聞かされた。紫崎はなぜ自分からそんな赤ちゃんが生まれてきたのかが分からなかった。その点について聞いてみたが、『幼児狩人』にも分からないようだった。
紫崎は犠牲者を増やさないために『幼児狩人』になった。ただ今でもあの時の行動が正しかったのかは分からない。あの時は赤ちゃんを止めたくてあのような行動を取った。看護師を守りたかったというのもある。
物思いに耽っていると、紫崎は『幼児保持者』がいる病室の前に到着した。病室の扉を開けると、赤ちゃんが巨大な舌で看護師の体を締め付けていた。舌の長さは優に一メートルは超え、幅も三十センチくらいはあると思われる。辺りには助産師や看護師たちの死体が転がっていた。
車椅子を動かして近づこうとした時、赤ちゃんが看護師を放り投げてきた。紫崎は反射的に両手を伸ばし、看護師を受け止めた。まだ息があることにホッとしたが、すぐに目を見開いた。いつの間にか赤ちゃんが目の前にいた。看護師の体が死角になり、近づいていたことに気付かなかったのだ。
赤ちゃんは巨大な舌を伸ばし、紫崎の顔を締め付けてきた。看護師を太ももの上に置くと、舌を掴んで切断し、振り払った。舌は床に転がり、赤ちゃんは悲鳴をあげながら後ずさる。するとすぐに舌が再生した。
紫崎は赤ちゃんに手のひらを向けると、風を放った。風は幾筋もの刃を形成し、赤ちゃんに襲い掛かった。紫崎の能力は『無限の風刃』であり、自分の赤ちゃんと似たような能力である。自分の赤ちゃんの血液を注入したためか、親子だからかは定かではない。
風切り音を奏でながら、風の刃は巨大な舌を切り刻んでいく。赤ちゃんは涙を浮かべながらも、横に飛んで風の刃を避けた。厄介なことに切り刻まれるたびに舌が分厚くなっている。長さと幅は変わっていない。
赤ちゃんは近くに転がっていた死体を舌で掴んで投げてきた。紫崎は車椅子を動かして前進する。タイミングを見計らい、車椅子を横に倒した。大きな音を立てながら車椅子は床に倒れ、看護師は太ももから転がり落ちた。
思った通り、看護師の体に隠れるかのように赤ちゃんは近づいてきていた。紫崎は赤ちゃんに向けて風の刃を放つ。赤ちゃんは風の刃を喰らいながらも、巨大な舌を伸ばし、紫崎を車椅子ごと締め付けてくる。舌が分厚くなった分、先ほどよりも締め付ける力が強くなっている。
紫崎は締め付けられながらも、風の刃を放ち続けた。やがて締め付ける力が弱まり、赤ちゃんは息絶えた。
政府に電話をかけ、任務完了を告げた。電話を切った途端、紫崎は口から大量の血を吐いた。長時間、巨大な舌で体を圧迫されていたため、内臓が破裂していた。
紫崎は血を吐きながら、床を這って赤ちゃんに近づいた。赤ちゃんの体に手をかけたところで、紫崎は息絶えた。
空蒼病院の隣には研究所があった。数年前に爆発事故を起こし、現在は閉鎖されている。紫崎は爆発事故の時、研究所の近辺に住んでいた。
研究所の爆発事故以降に『幼児保持者』が現れ始めた。『幼児狩人』の中には爆発事故と『幼児保持者』の関連性について調べている者もいると聞く。
紫崎は車椅子を動かし、病院の中に入った。患者たちはギョッとした表情で見てきた。紫崎は両足がなかった。
紫崎は『幼児保持者』がいる病室に向かいながら、人生が一変したあの日のことを思い出す。
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紫崎は分娩台の上で足を広げていた。そこは空蒼病院の分娩室だった。股の間から赤ちゃんの頭が見えていた。痛みを和らげるために呼吸を繰り返していると、助産師が股の間に手を入れるのが見えた。
「元気な男の子ですよ」
紫崎は助産師から赤ちゃんを受け取ろうとした。その瞬間、助産師の首が飛んだ。首は上下に回転しながら天井に激突し、床に転がる。胴体はゆっくりと床に倒れた。首の切断面はまるで刀で切ったかのように真っ直ぐだった。
紫崎は分娩台の上から動くことができなかった。状況が理解できなかったからだ。なぜ助産師の首が飛んだのか、まったく分からない。看護師たちも状況が理解できないのか、棒立ちだった。ただ恐怖の感情は伺えた。
紫崎はどうするべきか悩んでいると、赤ちゃんが手のひらを看護師に向けたことに気付く。すると看護師の胴体が真っ二つに切断された。看護師たちは悲鳴をあげた。
胴体から噴き出た血が壁や床を赤色に染める。看護師の胴体が真っ二つにされる直前、ヒュッと音が聞こえた。それは風切り音のように思えた。
紫崎には自分の赤ちゃんが殺したのではないかと思えてならなかった。赤ちゃんが手のひらを向けた瞬間に看護師の胴体が切断されたし、助産師は赤ちゃんを抱えていた。
紫崎は自分が止めなければいけないという使命感に駆られ、分娩台から立ち上がった。赤ちゃんに近づき、体に手を伸ばそうとした。その時、急に赤ちゃんが振り向いた。ヒュッと音が聞こえたかと思うと、両足に激痛が走り、床に倒れてしまう。嫌な予感がして紫崎は恐る恐る自分の足を見た。太ももから下が切断されていた。
紫崎は痛みをこらえながら、看護師に手のひらを向けようとしていた赤ちゃんの首に手を伸ばした。目を閉じて両手に力を込めた。赤ちゃんは悲鳴をあげていたが、やがて声が聞こえなくなった。ゆっくりと目を開けると、赤ちゃんは絶命していた。
紫崎は赤ちゃんを抱きかかえると、涙が枯れるまで泣き続けた。
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あの後、分娩室を訪れた『幼児狩人』から『幼児保持者』について聞かされた。紫崎はなぜ自分からそんな赤ちゃんが生まれてきたのかが分からなかった。その点について聞いてみたが、『幼児狩人』にも分からないようだった。
紫崎は犠牲者を増やさないために『幼児狩人』になった。ただ今でもあの時の行動が正しかったのかは分からない。あの時は赤ちゃんを止めたくてあのような行動を取った。看護師を守りたかったというのもある。
物思いに耽っていると、紫崎は『幼児保持者』がいる病室の前に到着した。病室の扉を開けると、赤ちゃんが巨大な舌で看護師の体を締め付けていた。舌の長さは優に一メートルは超え、幅も三十センチくらいはあると思われる。辺りには助産師や看護師たちの死体が転がっていた。
車椅子を動かして近づこうとした時、赤ちゃんが看護師を放り投げてきた。紫崎は反射的に両手を伸ばし、看護師を受け止めた。まだ息があることにホッとしたが、すぐに目を見開いた。いつの間にか赤ちゃんが目の前にいた。看護師の体が死角になり、近づいていたことに気付かなかったのだ。
赤ちゃんは巨大な舌を伸ばし、紫崎の顔を締め付けてきた。看護師を太ももの上に置くと、舌を掴んで切断し、振り払った。舌は床に転がり、赤ちゃんは悲鳴をあげながら後ずさる。するとすぐに舌が再生した。
紫崎は赤ちゃんに手のひらを向けると、風を放った。風は幾筋もの刃を形成し、赤ちゃんに襲い掛かった。紫崎の能力は『無限の風刃』であり、自分の赤ちゃんと似たような能力である。自分の赤ちゃんの血液を注入したためか、親子だからかは定かではない。
風切り音を奏でながら、風の刃は巨大な舌を切り刻んでいく。赤ちゃんは涙を浮かべながらも、横に飛んで風の刃を避けた。厄介なことに切り刻まれるたびに舌が分厚くなっている。長さと幅は変わっていない。
赤ちゃんは近くに転がっていた死体を舌で掴んで投げてきた。紫崎は車椅子を動かして前進する。タイミングを見計らい、車椅子を横に倒した。大きな音を立てながら車椅子は床に倒れ、看護師は太ももから転がり落ちた。
思った通り、看護師の体に隠れるかのように赤ちゃんは近づいてきていた。紫崎は赤ちゃんに向けて風の刃を放つ。赤ちゃんは風の刃を喰らいながらも、巨大な舌を伸ばし、紫崎を車椅子ごと締め付けてくる。舌が分厚くなった分、先ほどよりも締め付ける力が強くなっている。
紫崎は締め付けられながらも、風の刃を放ち続けた。やがて締め付ける力が弱まり、赤ちゃんは息絶えた。
政府に電話をかけ、任務完了を告げた。電話を切った途端、紫崎は口から大量の血を吐いた。長時間、巨大な舌で体を圧迫されていたため、内臓が破裂していた。
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