フィリアの食卓

神﨑なおはる

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一、十年目の破綻

第4話『遭遇』

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 南寺静馬みなみじしずまには誰にも知られていない秘密があった。
 誰にも、というのは少し違うかもしれない。たった一人、北淀美依ほくでんみよりを除いて、まだ誰にも知られていない事実というのが正しいのだろう。
『それ』を北淀美依が初めて目にしたのは、高校へ入学を果たした年の四月だった。

 その春、高校に無事進学できた北淀美依は、ある男子生徒に惹かれるようになってしまった。
 その男子生徒は入学式でこれから三年間を共に過ごす新入生たちの代表として新入生挨拶を堂々とやり遂げた。
 ピンと伸びた背筋も、まっすぐに前を見つめる目も、緊張しているのか少し強ばったように見える顔も、それでもその緊張に負けないように一歩ずつ力強いていく姿も、全てが、格好良いと思ってしまったのだ。
 新入生席の端にひっそりと座っていた北淀美依は、背筋を真っ直ぐにして壇上に上がっていく優しそうな顔立ちの男子生徒に見蕩れてしまった。
 それが南寺静馬という人間を認識した初めての瞬間だった。
 そしてそんな羨望の視線を送っていたのは彼女だけでなく、新入生の女子の殆どが同様の状態だった。黄色い声こそ上がらなかったものの、南寺静馬は体育館にいた女子生徒の大方の視線を独占していたと言っても過言ではなかった。

 そんな入学式という晴れの舞台を経て、南寺静馬の名前は新入生だけではなく在校生にも届くところとなった。彼の名前は皆が知っている有名人。ルックスもよく、勉強もできる。スポーツでも活躍を見せ、人あたりが良く、周りに気を使える何とも出来た男の子。先生方からの信頼も厚かった。
 まさに完璧な優等生。
 彼はすぐさま、女子生徒だけではなく、男子生徒からも慕われるようになった。だがしかし、やはり女子生徒からの人気は凄まじいものだったのは言うまでもないことだった。
 高校一年生としての生活が始まったばかりの四月だというのに、ラブレターや呼び出しの連続で、南寺静馬の競争率の高さが伺えた。
 まだ、何も知らず、クラスメイトの一人として埋もれていた北淀美依も、同じクラスになれたものの一度も言葉を交わしたことのない南寺静馬を遠目に見て満足する日々を過ごしていた。
 人見知り、引っ込み思案の北淀美依には、進んで彼と仲良くなるという考えは存在しなかった。高校生活が始まってたった数日で、告白しては振られていく可愛い女の子が淡々と増加していく中、北淀美依は同じ教室にいる人気者を鑑賞できるだけで満足していたのだ。話しかけるなんてとんでもない。まして告白なんて論外。北淀美依にとって、南寺静馬はテレビの向こうにいるアイドルと一緒だった。自分には一生縁のない存在に等しかった。ただ画面越しに見て、満足するだけ。それだけだった。
 しかし手を伸ばせば、届きそうなほど近くにいる南寺静馬に、北淀美依はほんの少しずつ、確実に、恋心を募らせていったのも変え難い事実であった。

 そして、『それ』が起こったのは入学式から二十日後のことだった。

 南寺静馬とは言葉を交わしたこともなくただ遠くから見ているだけの日を重ねていた北淀美依は、この日新学期直後に決められた委員会の割り当てで運悪く引き受けてしまった図書委員の当番で遅くまで図書室に残っていた。同じクラスからもう一人当番の男子生徒がいたはずだったが、彼は最初に行われた顔合わせの委員会にも参加もしなかったところからも図書委員へのやる気が皆無なのはわかりきっていた。北淀美依自身も図書委員なんて退屈で面倒臭いと感じたのだ。誰が見ても、この委員はハズレなのだろう。放課後の終わり近くまで図書室を開放し、利用生徒に本の貸出作業を行う。読みたい本があれば良いが、北淀美依の興味を引く本もなくただただぼんやりと椅子に座って時間が経つのを待つだけの苦行だった。
 北淀美依は下校時間の三十分前には誰もいなくなった図書室で一人憂鬱になった。
 もう図書室を閉めて帰ってしまいたい。
 しかしながら小心者の彼女にそんな度胸はなく、結局予め決められていた閉室時間まできちんと残ることとなった。悲しいかなその間生徒は誰も来なかった。
 彼女は図書室を締めると、鍵を職員室に返して漸く帰ることができた。
 冬に比べれば随分日が長くなったとはいえ、それでも下校時間になればもう薄暗く肌寒さも感じてしまう。部活をしている生徒も居残りをしている生徒も既に帰ってしまっているようで、誰もいない昇降口は更に寒さを煽っているようだった。
 北淀美依は靴を履き替えると、昇降口を出て校門までの道を早足で歩いた。もう誰もいないことに心細さを感じたのと、さっさと帰ってしまいという思いからだった。歩きながら彼女は何というババを引いてしまったのかと自分の容量の悪さを嘆いた。
 北淀美依は高校で部活に入る気など全く無かったが、それはただ単に学校が終わったらさっさと家に帰ってしまいたかったからだ。なのに、こんな居残り委員になってしまうなんて……。毎日ではないのが唯一の救いだった。
 彼女は歩きながら、ふと、頭の中で南寺静馬のことを巡らせた。
「(南寺くん、今頃何しているのかな)」
 ふと彼のことを考えてしまうのは、やはり北淀美依の気持ちが彼に傾いていたからだろう。眺めているだけの彼女には、彼の好き嫌いや趣味は勿論、放課後の過ごし方や家の方向すら知らないのだ。だから彼がこの時間何をしているのは想像で補おうとしてしまう。今日は数学の宿題が出たから、今頃それに手をつけているかもしれないと思ったら、彼女も早く帰って宿題をしなくては、と意気込みを表した。
 目の前をふらりと『彼』が横切ったのは彼女がそんなことを考えていたときだった。

「ぁ」
 目の前をふらりと横切った人影に北淀美依は思わず吐息に近い声を漏らし立ち止まった。
 およそ二十メートルほど前を、左側の曲がり角から急に現れた制服姿の男子生徒はそのまま足早に右側の路地へと入ってしまった。その間、僅か三秒ほどのこと。だけど彼女はそれがいつも遠くから見つめていた男子生徒・南寺静馬であることはすぐにわかった。
 もうとっくに帰ってしまっていると思っていた彼をこんなところで見かけることができるなんて……!
 北淀美依は嬉しさに唇を噛み、この喜びを誰かと分かち合いたくって思わず周りをきょろきょろと見回した。けど、下校時間は過ぎているものの会社の帰宅時間にはまだ早いせいか人気の少ない空虚な時間であるせいか、周りには誰もいないという切ない状況に彼女は舞い上がってしまった自分に恥ずかしくなり顔を伏せた。
 恥ずかしさで赤くなった顔の熱をどうしようかと考えていたときに、この赤い頬の原因でもある南寺静馬がこんな時間にこんな場所で何をしているのか、という疑問にふと行きあたってしまった。
 北淀美依は、早足で彼が消えた路地の前まで来ると、その前に立ち路地の奥を見つめた。
 路地は狭い上、街灯もなく真っ暗で何も見えなかった。
 こんなところに何が。
 路地に一歩踏み込み北淀美依はずっと先まで歩いて行っただろう南寺静馬のことを考えた。彼への心配と同時に、この先には一体何があるのだろうという好奇心が膨らんできた彼女は恐る恐る路地を進みだした。
 このあたりは中小企業の工場が集まっていて、今、彼女が歩いている路地は工場と工場の敷地の間にできた隙間のような空間だった。だから歩くには狭いし、とても道と言えたものではなかった。その場所は、南寺静馬は何か明確な目的を持って進んでいったのだ。
 そしてそんな彼を追いかける北淀美依。彼女は不覚にも自分が『不思議の国のアリス』でまさにウサギを追いかけていく主人公の女の子みたいな気持ちだった。
 今日は工場の機械が作動していないのか、路地はとても静かだった。響くのは北淀美依自身の足音ばかり。だけど恐らく前を歩いて行った彼の足音は聞こえてこない。
 彼は何処に行ったのだろうか。もう結構な距離を進んだつもりだけれど、別の道らしいものも見当たらないのだから、彼はこの先にいるのだろうが……。
 暗くて狭くて一人ぼっち。北淀美依は流石に引き返した方が良いのではないと、自身の脳から訴えかけられ、足を止めた。このまま進むべきか、それとも引き返すべきか。
 北淀美依は自身を包む心細さに来た方向へと向き直った。それと同時に、今まで進行方向だった方から、バサバサと何か紙をひっくり返すような音が聞こえてきたのだ。
 そこで引き返せば良かったものを……。
 北淀美依は再び奥へと身体を向けると、一歩、また一歩と静かに進みだした。物音は次第に大きくなり、そこに誰かがいるのは明白だった。
 歩みを進めると右折の曲がり角があり、角の向こうには明かりがあるらしく暗い路地の足元に少しだけ明かりが差し込んでいた。北淀美依は壁に隠れたまま、顔だけを少し出して曲がり角の先を見た。
 そこは少し開けた場所になっていて、そこは右側にある工場のゴミ捨て場であるのがわかった。大きな黒いゴミ袋がいくつも重ねられているし、その横には大小幾つもの木材も並べられていた。
 その広場の真ん中に、北淀美依と同じ学校の制服を着た男子生徒が一人、積み上げられ綺麗に縛られていた雑誌や書類の紐を解き無造作に散らかしていた。彼はまとめられていた雑誌や書類をバサバサと乱暴に広げていき、そこに小さな山を作っているようでさっきから聞こえてくる音はまさにこの音だった。
 忙しなく動く男子生徒はこっそりと隠れて見ている北淀美依には気付いておらず黙々と作業を続けていたが、背中がぼんやり見えるものの此処からでは街灯の明かりも彼の顔には届かず、彼が南寺静馬であるかどうかはわからなかった。

 しかしながら、この男子生徒はこんなところで何をしているのか。

「(折角まとめてあるゴミなんて解いて……)」
 まさか悪戯目的にこんなことをしているのだろうか。それなら誰か人を呼んだ方がいいだろうか? 警察? それは流石に大事になりすぎるだろうか?
 北淀美依はポケットからケータイを出して悩んだ。
 しかし何故紙ものばかりなのだろうか。ただ荒らしたければ黒いゴミ袋なんかを破いて中身をブチ撒けるとかしそうなものだが。
 北淀美依がケータイを片手に悩んでいることには、小さかった紙の山の頂上が男子生徒の膝くらいの少し立派なものになっていた。男子生徒はその前に立つと、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。
 彼は彼女のいる方向に顔を向けて立っているが、やはり暗さの方が勝っているためそれが誰なのか北淀美依にはわからなかった。
 男子生徒はポケットから、恐らく手に収まる程度の大きさの何かを取り出すと、両手でその小さなものを弄るような仕草を始めるが、彼が何を持っているのかはやはり暗さでわからない。
 だけど、次の瞬間、広場は急に明るくなった。
 男子生徒の足元に出来ていた紙の山が突然燃え出したのだ。
「えっ」
 北淀美依は突然燃え出す紙の山に視線が釘付けにさせられた。何故急に燃え出したのか。いや、その前に男子生徒は何かをしていた。あれはもしかして、マッチで火を起こしていたのか。
 突然の出来事に血の気が引くような思いの北淀美依だったが、何とかしなくてはいけないと我に返り何か消火できるようなものはないかと周りと見た。
 だけど『消化するための何か』よりも彼女の意識を惹きつけるものが其処にはあった。
 否。
 いる、というべきなのだろう。
 小さな焚き火程度の火が、今ではキャンプファイヤーを思わせるくらい轟々と燃え盛る中、その炎の明るさに照らされた男子生徒は、逃げるでもなくただその場に立っていた。
 そしてその男子生徒は、紛れもなく、たった数日で学校の人気者になったと言っても過言ではない南寺静馬であったのだ。
「う、そ」
 北淀美依は自分の目を疑った。
 まさか、そんな。
 人当たりもよく、優しくて、誰からも頼られる、あの南寺静馬がこんなことをするなんて!
 自分の目で見ていたものが信じられなかった。
 何より信じられなかったのが、燃え盛る炎を前に、彼は微笑んでいたことだ。
「……」
 北淀美依はその表情から目が離せないでいた。
 明々と燃え上がる炎を前に、南寺静馬はただじっと自分が作り出した炎を見つめていた。その瞳はまるで目の前に炎に浮かされたようで、まるで熱に潤んでいた。いつも微笑みを絶やされることのないその口元はだらしなく下がっており何処か物欲しそうに笑っているように見えた。
 その表情は、まるで『欲情』しているようだった。
 あまりにいつもの彼とはかけ離れた表情に、北淀美依は混乱した。彼女自身、一体『何』を見ているのかがわからなくなった。あれはもしかして、炎が見せている幻なのか。いや、そう言われた方が寧ろ納得ができた。
 たった数日だったが、北淀美依は南寺静馬を見ていた。学校ではその片鱗すら見えなかった今の彼の表情は、あまりに今までの彼とはかけ離れたものであり、しかしながら北淀美依は不覚にもその表情を綺麗だと思ってしまったのだ。彼女は炎に照り出された彼のいつもとは違った顔に見蕩れてしまったのだった。

 しかしそれも束の間。工場の人間が残っていたのか、建物の方から何人かの慌てたような声が聞こえてきた。恐らくこの放火騒ぎに気がついたのだろう。
 此処にいるのは不味いのではないか。もし見つかってこの騒ぎに関わっていたと思われたら大変なことになるだろう。
 その結論に達するのは早かった。
 北淀美依は慌ててこの場を離れようと、来た道へと身体を向けた。しかし恐らく彼女自身が思っている以上に混乱したせいか、足が縺れてその場に転んでしまった。持っていたモノが地面に落ちる音が響いた。
 この音に、もしかしたら、南寺静馬に自身の存在が気づかれたのではないか。北淀美依は血の気が引くのを感じたが、振り返れるはずもなく、地面に転がった通学カバンを掴むと一目散に来た道を走って逃げ出した。
 家に帰っても、まだ自分が見た光景に実感がわかなかった。
 あれは本当に南寺静馬だったのか。自分が見たものは一体何だったのか。あの燃える炎を前に彼は一体何を思っていたのか。
 考えれば考えるほどわからなくなった。
 結局宿題には手をつけることが出来ずそのまま寝てしまった。

 しかしこの話、これでは終わらなかった。
 彼女が自分の犯した失態に気が付いたのは、次の日、登校してからだった。
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