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8.むむ、似ていますか?
しおりを挟むお兄さんは目を輝かせる。
なんだか既視感のあるやり取りです。お兄さんがこんなに楽しそうなのに断るのも忍びないです。
⸺変なものじゃありませんように
祈りながらそろそろと僕も手を差し出します。
「退院祝いだ。やる」
ぽん、と軽いものが手の平に乗せられます。
乗せられたのはとっても小さな白い子猫のお人形さんのキーホルダー。
耳の間にはシルバーのボールチェーンが付いている。
エメラルドグリーンの大きな瞳と首元には水色のスタイと手には哺乳瓶。
「ありがとうございます。……猫さんの赤ちゃん?」
「ん。似てんだろ? お前にさ」
「へ?」
「この前ガチャでこれ見つけて懐かしくて回してみたらちょうど出たんだよ。知らね? シルべニアファミリーって? 妹がちびの頃昔ハマってたんだよ」
「はあ……妹さんが。ぼ、くはご存知なかったです……ね」
まじまじとその手の中にある『シルべニアファミリー』さんの人形を見つめる。
ん? 僕ってヒト科ですよ。二足歩行の男子高校生。
目の前の赤ちゃん猫さんとかろうじて似ている部分は、白髪と緑がかった瞳だけ。
もう一度聞いてみようかと隣を見ると。
お兄さんはもう渡し終えて満足したのか、パンの袋を破りパンへかぶりついています。
いつの間にか音もなくベンチに上がって来ていた本物の白猫さんが興味深そうに、瞳をまん丸くさせ僕の手の平を上の人形を見ています。
「この猫さんの赤ちゃん、僕に似ていますか?」
お兄さんの目の無い隙に本物の猫さんに、小声で聞いてみました。
「にゃあん!」
しっぽをピンと立てた猫さん。
「……なるほど?」
ぽろりと出た1言に、聞こえていないはずのお兄さんが勢い良く噴き出しました。
僕と目が合うと、こられきれないように声に出して笑い、片手でお腹を抱えていますよ。
「うん。うん。そっくり! ノラ最高!」
内緒の猫さんとの会話を聞かれていた恥ずかしさで、またまた顔が熱を持ちます。
面白がる視線から逃げるようにカーディガンのポケットへシルべニアさんをしまいました。
「あの、大事にします。ありがとうございます」
やっと笑いが収まったお兄さんは涙を指で拭っています。
ちょっと笑いすぎなんじゃないかと思います。
ですが、『退院お祝い』をいただけたのはとっても嬉しかったです。
「いーよ。ほら、早く飯食わねーと時間なくなんぞ」
「はい!」
お兄さんが玉手箱もどきのお弁当へ視線を向け言います。
僕も膝の上でその巨大お弁当を開きます。
そして、早々に1人で全てを食べ切るのを諦め隣のお兄さんへ助けを求めました。
「あの……入ります?」
「食えねーの?それ?」
こくんと頷く。お兄さんはまたまた笑い出しました。
「……どうぞ」
僕はお花に飾り切りされた蒲鉾やだし巻き卵など沢山のおかずを、お重の蓋にのせてお兄さんへのおすそ分けしました。
「ん。こっちもどーぞ」
お兄さんからはなんと幻の『カレーナポリタンパン』をいただきました。
カレーナポリタンという通り、縦半分にカットされたコッペパンにカレー味のナポリタンが挟み込まれたパン。
カレー粉がナポリタンのケチャップ味を引き立て、なんとも食欲をそそる美味しさでした。
絶対に体には良くないカロリー爆弾の組み合わせですが、幻と言われるほど大人気なのも納得の『カレーナポリタンパン』でした。
「おいしいですねっ」
「だろ?昼はコレ一択だな」
僕がもぐもぐカレーナポリタンパンを口の中をいっぱいにしている内に、お兄さんはぱくぱくとパンを食べ切ってしまいました。
ちなみに、先程謎の『ちゅるちゅーる』と交換に僕を許してくれた猫さんは、お兄さん手ずからそれを食べさせてもらっていました。
例の『ちゅるちゅーる』というものは、見た目スティックゼリーなんですが、すさまじく猫さんの食いつきが良いんです。
お兄さんが時々面白がってそれを動かすと、目をぎらぎらさせたまま猫さんが顔で追いかけるくらいなんです。
このお昼ご飯の時間だけで、いろいろなことを知ることができました。
猫さんを虜にする『ちゅるちゅーる』と、『シルヴァニアファミリー』さん、あとは『カレーナポリタンパン』。
ああ大事なこと。猫さんの性別はメスで、彼女この地域一帯が縄張りの地域猫さんだそうです。
寮監さんにも餌をもらったりシャンプーされたりと、大層可愛いがられているこの学校の名物女王猫さんだそう。
女王さまに相応しく呼び名はいくつもあるそうで寮監さんからは「ラテ」さんと呼ばれているそう。
お兄さんは『ノラ』さんと呼んでいます。僕もそう呼ぶことにしました。
女王さまの性格はお兄さん曰く気まぐれやさんかつ人見知りが激しいらしいです。さすが女王さまですね。
お兄さんとベンチで別れ、なぜか当たり前のように僕の数歩前を道案内するようにとてとて歩くノラさんにふとわいた疑問を投げかけます。
「ノラさん人見知りなんですか? 僕は大丈夫でしたよね?」
あんたは同じ猫でしょ、とお返事代わりに呆れたように短くニャ、と鳴くノラさん。
お仲間扱い。
ヒト科15歳オスとしてはなんとも解せない扱いではありますが、胸の中がふくふくくすぐったような気持ちになります。嬉しいな、と。
「今度はちゃんと気をつけますので撫でさせてくださいね」
猫さん友達であるノラさんにそうお願いすると、ふりんふりんと左右にしっぽが振り返されました。
無事に女王さまの下僕?認定されました。
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