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16.はじめてはどうしたら?
しおりを挟む発作で倒れたあの夜から丸一日経ちました。
左側に点滴がぶら下がるベッド脇で、校医さんが言います。
「寮で自宅療養。今から出す薬を飲みきるまでの最低1週間ね。しっかりと安静にすることー」
校医さんは、人差し指を1本立てる。強調するように。
「理事長と佐倉には連絡しておくから、君は何も気にせずゆっくりと休みなさい」
「……ありがとうございます」
「よく食べて、よく寝たら治るからね」
校医さんは安心させるようにわずかに口元を緩めます。
そのまま寝室を出ていかれました。
ベッドの上、唯一視界に入るのは、ぶら下げられた点滴ボトル。
ポツポツと滴が落ちていきます。
いま何時くらいなんでしょうか。
お兄さんと昼食のお約束をしていたのに、すっぽかしたことになっていませんか。
連絡したほうが良いのでは?
それにこれは正当な連絡ですよね。
ノラさんのための連絡なら僕からでも受取ってくれるかもしれませんよね。
それに、もしかしたら朝に連絡が来ているかもしれないですし。
大丈夫。大丈夫。
業務連絡になんでもいいから反応がほしいだけなんです。
そう自分に言い聞かせ、起き上がり枕元に置いてあるスマホを取ります。
スマホにライトが点滅しています!
ドキドキする心臓が飛び出ないように、胸を押さえ口をすぼめて息を吐き出します。
緊張で小刻みに震える右手の親指で、ボタンをそっとおします。
画面には『玄』とでています!
「来てました!」
『また明日』
『おやすみ』
『昼来る?』
短いメッセージばかり。
最後はもらったシルべニアファミリーの赤ちゃんうさぎさんが木の影から『ちらっ』と覗くアニメのスタンプです。
「ちらって……」
お兄さんの容姿とあまりに似つかないとてつもなく可愛らしいスタンプです。
ピンクのベビー服がかわいい赤ちゃんうさぎさんが不安げに画面越しに何度も『ちらっ』と見つめてきます。
ふと大きな体を丸めシルべニアさんのガチャを回しているところ。
スマホを睨みつけこのスタンプを選んでいる姿を想像してしまいました。
「ふふふっ……」
さっきまでの緊張が嘘みたいに今度はふわふわ胸が温かくなってきました。
それにしてもこれは確定では。お兄さんは『可愛い』ものが大好きですね。
『連絡ありがとうございます。嬉しいです。スタンプ可愛いですね。今日は発作が出てしまってしばらく学校をおやすみすることになったのでいけません』
うう。お兄さんの送ってくれたメッセージに対しての返信ってこれで良いですか?
圧倒的に可愛さが皆無な気がします。
しかし僕にはこの文章が限界です。
文章にすると同じ言葉なのに冷たい印象を受けますね。
知識と経験不足が、僕を今打ちのめしてきています。
先程より違う意味の不安と緊張に包まれました。
悩みすぎて、当たり障りない『すみません』と土下座しているスタンプ送信しました。
初めてのメッセージ送信をやりきった僕は、再びベッドへ横になります。
安静って言われましたし、早く治さないと学校いけませんからね。
枕元へ戻した瞬間、震えるスマホ。
お兄さんから『お大事に』と送られてきています。
直ぐに『いつまで?』『電話できそ?』と短い文章が送られてきます。
『ありがとうございます。1週間らしいです。お電話したいですけど点滴中です。』
なんだか尋問に答えたみたいですが大丈夫ですよね。
『点滴終わったら連絡して』
『こっちはいつでもいい』
スマホの時刻は14時を表示中です。
絶対今の時間は授業中ですよね。
『点滴終わる時間が遅いと思います。夜寝る前にお兄さんとお電話したいです。』
なにか物足りない感じがしますね。見直し大事。
『おやすみなさいを初めて言いたいです』
よし。送信です。
『けっこん』とすぐに返信きました。
お兄さん誰かと間違えましたかね。話の内容と噛み合ってませんよ。
それとも言葉を略したのか。けっこ? どこをどう略したらこの言葉になります?
『ごめん』『はやまってまちがえた』
『夜おk』
『俺も』
打ち間違えたんですね。
ふふふ、お兄さんと夜にお電話する許可をいただけました。
『時間は?』
返信する前にお兄さんからアポです。
『点滴終わる時間がわからないのでまた連絡します』と送信するとすぐに『待ってる』と表示。
最後には『ぐっ』小さくガッツポーズした白猫赤ちゃんのスタンプです。
僕はそのままベッドにおとなしく休む決意をしました。
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