盗賊だけど大剣しか使えません! 〜VRゲームで盗賊になったのに、大剣しか装備することが出来ず絶望していたけど、それはそれで最強だった! 〜

中島菘

文字の大きさ
33 / 45
五章 ドリーム・リゾートです!

三十三話 久々に最初のエリアです!

しおりを挟む
 砂漠を抜けるには、また少しかかったのだけれど、ともかく、最初のエリアまで戻ってくることができた。戻ってくるのでは、また違った景色に見えるから面白い。

 さて、懐かしむ暇もなくミヤビは敵を探し始めた。

「なるべく大量の敵が一斉に出てきて欲しいですね。」

プレイヤーの数は、南国や砂漠よりも少なくなって見えた。

 当たり前といえば当たり前。本来ならさっさと抜けて行ってしまうエリア。わざわざ戻ってくるやつなんて、俺たちのほかにはいない。

 見当るプレイヤーたちは、どれも初心者ばかりだった。彼らも彼らで、俺たちのことを不思議そうにみている。

「何がそんなにおかしいんでしょうね? 」

「何もかもだろ。」

 砂漠、南国と進んでいくうちに、プレイヤーが増えたおかげで俺たちも注目をさほど集めなくなり、忘れかけていることだが、俺たちは見た目からして奇怪。

 大剣と杖を担いだ盗賊二人が歩いているのだから、普通は変な目で見られる。いまさらそれを思い出した。




 昼下がりの頃合い、ミヤビはまどろむ陽気も吹き飛ばすほどの必死さでモンスターを追いかけまわしている。新しいモンスターも見られず、微塵も新鮮さは感じられなかったが、それでもゴールドが出てくるのだから文句はない。

 遭遇する頻度もなかなか高いので、南国で雑魚狩りをするよりは全然効率が良かった。俺たちはレベルも上がってきたので、一度に出てくる敵モンスターの数も多くなっている。

 これなら早々に金欠から脱出できそうだ。すでに財布袋には4,500ゴールド。もうやめてもよいのだが、ミヤビはなかなかやめようとはしなかった。

「もうちょっとやっていきましょうよ! 」

「いやもういいだろ。十分稼いだから。」

ああ、またいつもの癖だ。周りが全く見えなくなっちゃってる。彼女は原っぱの道から外れていってしまい、森の中へと入り始めた。

 森の中の敵は原っぱの敵よりも多少強いものの、ミヤビが負けるとは到底思えないから、そこは心配無用。ただし迷ってしまって森から出てこられなくなってしまったら大変なので、俺はミヤビの後を追った。

 斜めに差す日のおかげで、森は軽やかに明るい。夢の中を歩いているようで心地よいが、前を行くミヤビはそれをぶち壊しにするような騒々しさで突き進んでいく。

 そんな彼女を恐れてか、さっきまでよりもエンカウントの頻度が落ちたように思えてしまう。静かな森の中で、ミヤビが草々を踏みしめる音だけが規則正しく聞こえる。

 俺たちだけがこの森の中にいて、このまま取り残されていくんじゃなかろうかという心地がしたころ、静寂を破る声が一つ。

「ギャー! 助けてくれ! 」

声は左手の方からだった。

 俺たちは示し合わせるわけでもなく、二人合わせて声のする方へと向かった。声ははっきりと聞こえてきたから、そう遠くはないはずだ。

 走ると、悲鳴はより大きく聞こえるようになってきた。

「もうダメだー! 」

 見えた! 男がトラに襲われている。しりもちをついた男に向かって、虎が今にもとびかかろうとしていた。

 足の速いミヤビが先に男のところまでたどり着いていた。

「ガチン! 」

ミヤビは男と虎の間に杖を差し込み、虎の攻撃を食い止めた。

 虎は後ろに飛びのいた。ミヤビはそのすきに、腰の抜けた男を引っ張って離れていったので、代わりに俺が虎と対峙した。

 虎の表示名は「フォレストファング」。特別指定のマークがついていた。もはや特別指定を珍しいとも思っていないが、ここで会うことになろうとは。

「へえ、おまえ。懸賞金かかってるのか。」

何度も言うが、俺たちは金欠なのだ。特別指定に出会うことができたのは僥倖だ。やっぱりいいことってのはするもんだな。

 虎は、俺にもかまうことなく飛び込んできた。ただ、いまさらそんな単調な攻撃に当たるわけがない。すっと横によけて、俺は背中の大剣を抜いた。

 姿勢を立て直した虎はもう一度俺に飛びつこうとしていた。俺の方もすでに大剣を構えていたので、これを振りかぶる。

 大きな武器なので、後ろにミヤビたちがいないか確認したが、彼女たちは二十メートルは離れた木陰まで下がっていた。男は心配そうにこちらを見ている。

「グオオオオ!! 」

虎が覆いかぶさるようにとびかかってきた。

「おりゃ! 」
 
なので、俺はそのさらに上から大剣を振り下ろした。

「ズドドドドドドドドォォォォォォォォ! 」

あ、忘れてた。

 そういえば、この大剣はこんな感じだったな。目の前一直線の木々が根こそぎ持っていかれ、その下の地面も抉れてしまい、すっかり明るくすっきりしてしまった。

 言わずもがな、フォレストファングは木っ端みじんになっていた。ただ、牙一本だけが残されていたので、それはありがたく頂いておく。



 ミヤビのもとに行くと、男はまだ腰を抜かしていた。

「きみ、もう大丈夫だから。虎はもういないよ。」

「いやいや、虎じゃなくて、ロータスさんの剣にビビってるんですよ。」

男は俺のことを見たまま、しばらく何もしゃべらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

処理中です...