ボロボロの美少女を拾ったら家出してきた魔王の娘で、即刻魔王に指名手配されるけど僕は世界で一番速いスピード魔法が使えるので捕まりません!

中島菘

文字の大きさ
2 / 5

二話 彼女の正体

しおりを挟む
 ニッコリと笑った少女の笑顔は、人間の女の子と何も変わらなかった。

「でも、どうして僕の店の前なんかで倒れてたの?」

「よく覚えてないわ。必死だったもの」

「何も覚えてない?」

「家出してきたのは覚えてるわ。それで父上たちに追いかけられて、どうにかこうにか逃げてて……」

「それでここに辿り着いたのかな?」

「きっとそうね。でもよかったわ。流れ着いた先があなたのような優しい人間さんのところで」

 魔族だろうが人間だろうが、やっぱり笑顔が一番だな。ニッコリ笑った彼女は明るく、そして可憐だ。

 チューリピアはどうやら家出少女らしい。魔族にも案外人間と変わらないようなことがあるんだと思ったけれど、本気度が違うな。彼女は身の危険があるような中、ズタボロになりながらも異種族である人間の国までやってきたのだ。

 何がチューリピアにそこまでさせたのか? 聞くに聞けないな。

「だから、今も父上たちは私を探しているでしょうね」

 魔族の親も、娘が家出したら必死に探すらしい。

「人間さんたちに迷惑かけてもいけないし、もうちょっとしたら出て行くわね」

「何を言ってるんだい! そんな傷じゃ……あれ?」

 さっきまで傷だらけだったはずなのに、チューリピアの体はまっさら綺麗になっていた。擦り傷も切り傷も、全部消えてしまっている。

「ちょっと! そんなにベタベタ触らないでもらえるかしら? いくら恩があると言っても、怒るわよ?」

「ああ! ごめん……」

 自分の失態を気付かされて、両手を引いた。

「魔族の生命力と、私の魔力のおかげね」

「すごいな……」

「でも、服も体も、やっぱり汚れてるわね。気持ちが悪いわ。お風呂、使わせてもらえるかしら?」

「いいけど……魔族も風呂には入るんだね」

「なかなか失礼なことを言うわね!」

「ああいや、そんなつもりはなかったんだよ! とにかく、どうぞ入って入って」

 風呂に案内すると、チューリピアは中に入っていったから、僕は外に出た。情報量がとんでもなく多かったから、ここでようやく一息つける。

「本当、不思議な子だなぁ」

 窓の外を見ると、雨が降り始めていた。さっきまでは晴れていたのに。

「ゴロゴロゴロゴロ!!」

 雷まで鳴ってるじゃないか! そんな予兆はどこにもなかったのに、突然だな。

「ズドォォォン!!」

 雷が落ちる音が轟く。だいぶ近い。相当な天気の荒れようだな。

 すると、家の中もドタバタした。

「まずいわ!」

 風呂に入っていたはずのチューリピアが突然飛び出してきた! それも何も着ずに。

「う、うん。まずいね、それは……」

 とっさに顔を覆った僕の反応を見て、彼女は自分の状態に気がついたらしい。

「きゃあ! 私ったら……!」

 チューリピアは急いで脱衣所の戸の後ろまで引き返した。

「……! 私としたことが失態だわ」

「君、もしかして天然?」

「そんなことはどうでもいいのよ! それより今は急がなきゃ! 父上が差し向けた追っ手が私を探しにここにきてるのよ! この雷がその証拠よ!」

「ええ!」

 この突然の嵐はそういうことだったのか! すると、もうこの町まで彼女を探す魔族が来てるのか?

 そのときだった!

「ズドォォォン!!」

 また一つ、雷が落ちたかと思えば、今度は立て続けに声が聞こえてきた。

「この町の者ども、聞こえているか!」

 野太い声が町中に響き渡った。

「来たわ! 今の声よ!」

 声はまた聞こえてきた。

「我は魔王、ムーン・アリストル陛下近衛のドンファだ! 今我は陛下の三女にあらせられる、チューリピア・アリストル殿下がこの町がある方角に逃げていったと報告を受けて来た!」

 あれ? 今とんでもない単語が色々と聞こえてきたような……。戸の後ろのチューリピアの方を見ると、

「……」

 気まずそうにしている。

「え、外の人が言ってるの、本当なの?」

「……うん」

 そうか……すると、このチューリピアはただの魔族ではなくて、魔王の娘、つまりは魔界の姫様というわけで……



「えええええええ!!!!」



 そんなことって……じゃあなんだ? 僕は家出してきた魔王の娘を匿っていることになるのか? それってもしやとんでもなくまずいことじゃないのか? ここでもしもチューリピアが見つかったら? この町全部魔族に滅ぼされてしまうかもしれない!

「……追っ手がここまで来てしまったなら、もう年貢の納め時ね」

 チューリピアは力無くそう言い放ち、その場にへたりこんでしまった。

 外では相変わらず魔族の男が騒がしくチューリピアのことを探し回っている。このままだったら見つかるのも時間の問題だ!

「スペル、あなたには感謝するわ。介抱してくれたことと、それからお風呂に入れてもらったこと」

「もう、あきらめて帰るの?」

「不本意だけど、そうするしかないね」

「やっぱり帰りたくないんだ」

「そりゃそうよ!」

 そうだよな。家に居たくない理由がよっぽどだから、必死の思いでここまで逃げてきたんだ。こんなに傷だらけになって、こんなに汚れて。

「なら、本当にいいの? ここで連れ帰られたら、何もかも、元に戻ってしまうよ?」

「そんなの、もちろん私だっていやだわ! でも仕方ないじゃないのよ! これ以上粘って町の人間さんたちに迷惑かけるわけにはいかないもの」

 チューリピアの目は涙で潤んでいた。ズルいよ、そんなの見せられたら、ここで見捨てるなんてできなくなるじゃないか!

「……なら、とりあえず逃げようか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...