【14万PV感謝!!】異世界で配合屋始めたら思いのほか需要がありました! 〜魔物の配合が世界を変える〜

中島菘

文字の大きさ
5 / 43
一章 ホルンメランの駿馬

五話

しおりを挟む
 馬車は石畳の通りを揺れに揺れ、休むこともなく進み続けた。アイラはその間もほとんど口を開かなかったが。

 当然のことではあるが、町の外側に近づくにつれてしだいに街並みも静かになってきた。人が少ないので、店もあまり開かれておらず、専ら住宅街になっている。

 余り揺れるので尻が痛くなってしまい、腰をよじらせたのだが、それをアイラに見られてしまった。

「もうちょっとで着くから、頑張ってちょうだい。」

電車の中でダダをこねたところを諭される子供のようで情けなくなってしまい、何も言葉は返さなかった。

 影がさした。何かと思い窓から顔を出すと、目の前に巨大な壁がそびえ立っていた。

「あれが町の淵よ。飛ばない生き物なら何者の侵入も許さないホルンメランの防壁。都市全体がこれに囲まれているの。」

 近づくにつれて壁はみるみる高くなり、門前に辿り着いた頃には首が痛くなるほど見上げなければならないほどだった。

 門には守衛が二人控えていた。ゲームとかアニメとかでよく見るタイプのオーソドックスな門番という感じ。門の脇の壁には小さな扉が取り付けられてあり、どうやらそこが詰所になっているらしい。

 馬車が止まった。

「着いたわよ。」

と言ってアイラが降りたので僕もそれにならった。アイラは門まで行くと軽く守衛たちに挨拶をして、彼らもそれに返した。続く僕も彼らに挨拶した。返してはくれたが、どこかそっけなかった気がする。

 閉じられていた門が重々しい音を立てながら開いた。開いた先に見えた景色は、今までの街並みとは全く違った一面の大自然だった。人家などは一軒たりとも見当たらず、遥か遠くまで綺麗に見通すことができる。地平線の上には峰々の稜線が波打っているのが、もやに霞みながらも確認できた。

 門をすぐ出たところには人が二人いた。大男二人。二人とも趣味の古い軍服を着ていた。彼らはアイラに気づくと近づいてきた。

「お待ちしておりました、ジョシュア伯。」

年配の方の男がアイラに挨拶した。

「待たせてすまない。」

こんなに若いアイラだが、やはりめちゃくちゃ偉いらしい。

「それと隣の方も。お名前は確か……」

「長谷川大成です。」

年配の大男は厳つい見た目だったが、穏やかな雰囲気を出していた。

「私はシャラパナ国軍中将でホルンメラン分団の司令官を務めております、フェルマン・リアデ・エデルハンと申します。今回ハセガワさんに依頼をさせて頂いたのも私でございます。」

 エデルハン中将からの説明が少し続いた。内容としては、騎馬隊をホルンメラン分団に導入しようという旨だった。ここまではすでにアイラから聞いている。

「しかし、何が問題なんですか?」

と聞くと、中将はもう一人の若い男を近くに呼び寄せた。

「こちらが騎馬隊長に就任予定のリーヴァン・レイナス大佐です。」

紹介された彼は随分と無口らしく、何も喋らないまま会釈だけした。

「彼が今回の責任者になるので、あとの説明は彼から……」

そう言うと中将は脇にずれた。

 レイナス大佐は無口だったが、説明はちゃんとしてくれた。

「今回騎馬隊を結成するにあたって、肝心の馬について問題があるのです。」

確かにそれもアイラから聞いた。彼女は外までくれば原因が分かると言っていたが。

 大佐は僕の方を向いた。

「ハセガワさん、試しにちょっと行ったむこうを歩いてみてもらえませんか。」

「は、はあ」

よく分からなかったが、とりあえず言われた通りに彼が指し示すところまで行ってみた。

 特に変わったところはないが……と釈然とせずに歩いていたそのとき。

「のわぁ!」

足が突然沈んだ。右足を抜こうとして左足に力を入れると、左足も沈みだしてしまう。

 どうにもならなくなったところで大佐が僕の右肘をとり引き上げてくれた。

「大変でしょう。ここらへんは一帯が全て湿地になっているんですよ。早い話、ズブズブの泥んこというわけです。」

 僕が引き上げられたところで大佐は遠くにいた部下らしき兵士に合図した。部下は栗毛の馬を一頭連れてきた。かなり小さい馬で、頭の高さが兵士の胸ほどしかなかった。

「こちらが今ホルンメランにいる唯一の品種なのです。しかし、この馬だと……」

それ以上は言わなくてもなんとなく分かる。

 大佐は部下に指示した。部下は馬に乗ると、さっき僕がズブズブ沈んでいたところに走り始めた。地面の固いところは流石というべきか軽快なステップで駆け抜けたが、湿地に差し掛かったところで案の定の事態になった。

 急に真っ直ぐ走れなくなってしまったのである。足を取られてヨレヨレになっている。ぐるっと旋回してこちらに戻ってきた頃には、息が絶え絶えになってしまった。馬には気の毒だったが、こんなにもゼェゼェハァハァいっていると、面白くなってしまった。

 「と、この通りなのです。ホルンメランの近くにはこの軽種馬しかおらず、そしてそれだと湿地帯を真っ直ぐ走れない。だからといって大型の馬を取り寄せようとしても輸送にどれだけの費用がかかることやら。ですから私たちは頭を抱えておるのですよ。」

 なるほどな、この湿地を無理なく走れる馬を作って欲しいということか。しかし困った。僕はたまたま小魚の新種を作ってしまった、ただの一般人なのだ。しかし中将と大佐はそんな僕をよそにどんどん進めていく。

「ですから、我がホルンメラン分団のためにも湿地を縦横無尽に駆け抜ける馬を生み出してほしいのです。頼めますね!」

中将はすごい圧で、どうあっても断ることができない雰囲気だった。

 



 その後の展開はただただ僕がかわいそうな感じになってしまった。僕は軍人二人に詰められて結局断ることができずに、馬の品種改良を請け負ってしまったのだ。

 帰りの馬車の中、アイラは僕のことを可哀想な奴を見る目で見つめていた。

「いや、私が呼び寄せといてなんだけど、気の毒ね、タイセイ。」

「やめてくれ、ひとまわり年下の女子にそんな目で見られるのが一番気の毒だよ。」

「あ、いや、それはごめんよ。ところで馬の話だけどさ。」

アイラは露骨に話を逸らした。

「大型の馬をオスとメスのペアで二頭連れてきて、そこから増やしていけばいいだけじゃないの?」

 意外と的確な意見だった。だが……

「いや、それはできない。小魚なら近親配合を繰り返しても大して問題なかったけれど、馬ほど大きい動物になるとそうはいかない。」

「というと?」

「血が濃くなりすぎるんだ。例えば一世代目から娘が生まれたとして、次はその娘と父親を配合することになる。そうすると間に生まれた子供には父親の血が75%も流れることになる。それだと体質に問題が起こることが多いんだ。」

 アイラは途中から話に少し飽きていたが、頷いてはいた。

「まあ、難しいことは分かったわ。だけどホルンメランにとっても大事なことなの。報酬は4000万イデにプラス出来高というところよ。頑張ってちょうだい。」

 な、そんなことあるのか!しばらく働かなくてもよくなるじゃないか!そうとなると話が違う。  

「まあ金のためにやるわけじゃないんだけど、ホルンメランのためにもね。頑張らせてもらおうかな。」

「アンタね、もうちょっと隠そうとしなさいよ。」

 アイラは自分のバッグを持ち出して中から長方形の形をした厚めのプレートを二枚取り出した。彼女はその金色のプレートを僕に渡してきた。

「これ、前金よ。」

「ごめん、現金以外の仕組みよく分かってないんだよね。」

「あら、知らないの?このプレートを街角の換金所に持っていくと、そこにいる人が機械で読み込んでくれて現金に換えてくれるのよ。」

なんでパチンコのシステムを採用してるんだよ!

「それ一枚で一千万イデよ。大事にしなさいね。」

 そんな超高額の札なんて、元の世界にいたパチ狂いの斉藤くんは発狂するだろうな。

 


 報酬にテンションはだいぶ上がってしまったが、問題が山積みなのは変わっていない。第一、不可能にさえ感じてしまう。

「なあ、もし出来なかったら、どうなるんだ?」

「は?出来ないとか……ないよ?」

彼女はいたって真面目だった。大真面目に、睨んできた。年下の少女にビビらされるこの情けない男は、そのあとずっと黙ったまま馬車に揺られ続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...