「知ってはイケナイ。」

晴れ。

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第2話 封古の奥

ー3ノ3ー

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    炎。

火。



障子超しに火の手が上がっているのが視える。



屋敷に火。



確かに火に包まれている。



確信。



これは本当に見えているのではない。



熱くない。

音もない。

煙もない。



ただ『視えてる』だけだ。




昼間。

あれだけ暑かった陽差しと熱気。

それが今は どうだ。

昼の気配もない、肌寒い程の空気感。



『視えてる』

だけ。



頭だけ冴え、

だが一方で呆然と。

障子の向こうの炎を視ていた。



時間にしても

ほんの一瞬か、そのくらい。



その時だ。





「見てるのか? XXよ」



背後から聞こえない声が、ハッキリ聴こえた。

不明瞭な、

ー水に溺れるような、

くぐもったような、

血を吐くような・・・



耳で直に音として聞いたものではない。



聴こえてしまった。



「見ているか?XX」



聴き取りきれなかったXXは



「生者せいじゃ」

「生きている人間」

そんな意味の事だと思う。



名前を呼ばれたのかとも思う。



どちらでもあり、

どちらでもなく。



ハッキリとした「言葉」ですらない。

ただ

意味が判ったのだ。

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