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四公演目――琥珀とラウドスピーカー
二曲目:アルコ・グローリア
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ほら、流石に今日は行かないと単位落とすよ。試験は満点なんだから、寝坊で減点されるなんて勿体ない……なんて言いながら、コルダを学校まで引っ張ってきて早数時間。教室がわかれてしまった次の授業は、コルダが理科で僕が社会。もうすっかり目が覚めたのか、同級生数名と談笑しながら廊下を歩いているのが見える。……手を振られた。軽く手をあげて振りかえせば、見えなくなるまでブンブン振り続けるものだから笑わずにはいられなかった。嬉しい。家でもほぼ毎日一緒に寝ているし、なんなら午前中の授業はずっと隣で受けていたのに。今更たまたま目が合ったぐらいで、あんなにはしゃいでくれるとは。飼ったことはないけれど、大型犬ってあんな感じなのかもなあと思う。だとしたら、悪くはない。だけどコルダも犬も、程度の差はあれ誰にだって同じように接するんだろう。その有象無象の中、ほんの僅差で僕が特別枠におさまっているのは単に片割れだからというだけに過ぎない。そうでなければ。僕はこうして教室に早めに来て、数学の課題に黙々と向き合っている一般生徒A。みんなに愛される人気者のコルダ・グローリアには見向きもされなかったに違いない。……コルダのように、振る舞った方が良いのかと思っていた時期もあった。でも学校の勉強についていきながら放課後は音楽漬け、その上で太陽まで演じるのは無理がある。頑張ってはみたものの、数カ月で体調を崩し休む羽目になった。結果、僕は多岐にわたるタスクの中から、一番最初に友人関係の構築を切り捨てたのだ。九年生になってもそれは変わらず。それでも僕がグローリア・ビッグバンドの人間であり……そして何よりコルダの弟だったおかげで。幸いにもいじめられるようなことにはなっていない。かといえ努力なしで自動的に友人ができるかといわれると、世の中そう上手くはできていないようだった。
よって。ひとりでいるときに誰かに話しかけられるなんていうのは、僕にとってかなりレアな事象。なのに。
「さっきの、君のお兄さん? いいなあ。僕もきょうだいと一緒に通いたかったよ」
白い髪の男子だった。ブロンドよりも更に色素の薄い、限りなくミルクに近い白。薄いグレーの瞳に、陶器のような肌。前々から噂は聞いていたし、何度か見かけたことはあったけど。授業が被ることは今までなかった。なぜなら。
「……リコ・メルシエさん、でしたよね。ひとつ上の」
「あ、知ってた? まあ目立つもんなあ僕」
「いえ、極力人の名前は覚えるようにしているので。同学年と新十年生の先輩がた、新八年生までは記憶しています」
「全員!? すごいね君、えーっと」
「アルコ・グローリアです」
「そうそうアルコ! お兄さんがコルダだっけ。今年は僕も九年生だからさ、授業被るかなあ」
「かもしれませんね」
隣いい? と尋ねられ、僕は頷いた。この後誰かが来るわけでもない。ましてや最前列なんて、好んで座るほうが珍しいだろう。僕は少しでも心象を良くして成績に繋げたいだけだ。隣が誰であろうとどうでもいい。だからすぐに頷いた、のに、彼はなかなか座ろうとしなかった。
「……座らないんですか?」
「えっ。あ、オッケー? よかった~断られたかと思った」
「嫌だったら頷きません」
「ああ、頷いてくれてたんだ。ごめん、僕目が悪くてさ」
「っ! 失礼しました。そうとは知らず……」
「いーのいーの! こんだけ目悪いほうが珍しいし。実は最前列でも黒板よく見えなくてさ。とうとう留年しちゃったんだよね」
「そうでしたか。その、眼鏡は……」
「なんかかけてもダメっぽい。今の医療じゃ厳しいってさ。だから僕より他のふたりがここ通ったほうが良いって言ったのになあ」
他のふたり、というワードに引っ掛かりを覚える。そういえば。きょうだいと一緒に通いたかった、と先程言っていた。知る限り、この学校にメルシエ姓の生徒は彼しかいないはず。歳が離れているのか? とも思ったけれど、この言い回しは。
「ごきょうだいがいらっしゃるんですね。お幾つですか?」
「うん、いるよ。姉と妹。ふたりとも同い年」
「なるほど同い年……え?」
それは、つまり。間に挟まる彼も含めて。導き出した答えを信じ切れずにいる僕に、彼は悪戯っぽく笑った。
「そう、僕たち三つ子なんだ」
よって。ひとりでいるときに誰かに話しかけられるなんていうのは、僕にとってかなりレアな事象。なのに。
「さっきの、君のお兄さん? いいなあ。僕もきょうだいと一緒に通いたかったよ」
白い髪の男子だった。ブロンドよりも更に色素の薄い、限りなくミルクに近い白。薄いグレーの瞳に、陶器のような肌。前々から噂は聞いていたし、何度か見かけたことはあったけど。授業が被ることは今までなかった。なぜなら。
「……リコ・メルシエさん、でしたよね。ひとつ上の」
「あ、知ってた? まあ目立つもんなあ僕」
「いえ、極力人の名前は覚えるようにしているので。同学年と新十年生の先輩がた、新八年生までは記憶しています」
「全員!? すごいね君、えーっと」
「アルコ・グローリアです」
「そうそうアルコ! お兄さんがコルダだっけ。今年は僕も九年生だからさ、授業被るかなあ」
「かもしれませんね」
隣いい? と尋ねられ、僕は頷いた。この後誰かが来るわけでもない。ましてや最前列なんて、好んで座るほうが珍しいだろう。僕は少しでも心象を良くして成績に繋げたいだけだ。隣が誰であろうとどうでもいい。だからすぐに頷いた、のに、彼はなかなか座ろうとしなかった。
「……座らないんですか?」
「えっ。あ、オッケー? よかった~断られたかと思った」
「嫌だったら頷きません」
「ああ、頷いてくれてたんだ。ごめん、僕目が悪くてさ」
「っ! 失礼しました。そうとは知らず……」
「いーのいーの! こんだけ目悪いほうが珍しいし。実は最前列でも黒板よく見えなくてさ。とうとう留年しちゃったんだよね」
「そうでしたか。その、眼鏡は……」
「なんかかけてもダメっぽい。今の医療じゃ厳しいってさ。だから僕より他のふたりがここ通ったほうが良いって言ったのになあ」
他のふたり、というワードに引っ掛かりを覚える。そういえば。きょうだいと一緒に通いたかった、と先程言っていた。知る限り、この学校にメルシエ姓の生徒は彼しかいないはず。歳が離れているのか? とも思ったけれど、この言い回しは。
「ごきょうだいがいらっしゃるんですね。お幾つですか?」
「うん、いるよ。姉と妹。ふたりとも同い年」
「なるほど同い年……え?」
それは、つまり。間に挟まる彼も含めて。導き出した答えを信じ切れずにいる僕に、彼は悪戯っぽく笑った。
「そう、僕たち三つ子なんだ」
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