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愛のゆりかご編

衣装が弾けた!

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 街外れにて他の信徒と共に休憩に入ったモリカは、一人一人を労うシュンプーの姿を見ていた。

「モリカ、ピュノ。ここまでよく励みましたね。こちらをいただいて休みましょう」

 そんな彼女とピュノにシュンプーはちぎりパンを一欠片渡してきた。みんなで分け合えば笑顔になれるパン。一口含むと優しい甘みが広がる。

「ねぇ、どうして創世教に入ろうと思ったんですか」

 ふと気になり、隣に腰掛けた信徒に聞いてみたモリカ。彼女とそう歳が変わらなさそうな青年は、突然の問いに束の間目を丸くした後、頬を紅潮させて指でちぎりパンを柔く撫でた。

「主は強きも弱きも守るべきと仰られました。その平等に降り注ぐ慈愛は、とても尊いものだと思ったのです。それにシュンプー様の強さ……心から尊敬いたします。私も、少しでもあのお方のようになりたいと思ったのです」
「そうなんですか……確かにシュンプーさんはお強いですね」
「ええ。あの境地に辿り着くまでに、一体どれ程の鍛錬を積まれたのかとよく考えます。私もいつかは……」

 彼の志は高いようで、熱に浮かされた様子で自らの腕を撫でた。

(ん? 腕……?)

 何故腕を。何となく気になったモリカだったが、隣の彼がちぎりパンを食べ始めたので自らもそれに倣うことにした。

「美味しいね。ピュノ」
「春風みたいに優しい味わいですの!」
「そうだね、うふふ…」

 春風のように穏やかで健やかな時を過ごす教団一行。奉仕活動は大変だったが、皆で励んだ後にパンを分け合い過ごす憩いの時間は格別であった。周囲に見覚えのある気がするおやじ達が尻を緩めたり突き出したり気張ったりしているが、モリカは気にしないでいた。
 そんな素晴らしい一時を過ごしているため、すっかりモリカの頭からは抜け落ちていた。何故己がシュンプーから適切な距離を取ろうとしていたのかを。
 それはモリカのちぎりパンが残り一口になった頃。裏表通りの方から誰かの怒鳴り声と思しきものが響いてきた。立ち上がり、夕暮れに染まる赤い街並の方を観察するモリカだったが、人が多くどこが出所か掴めない。しかし再び大きな声が届いた。伝染するように声は徐々に増えていく。
 モリカの横を突風が通過した。その風の正体――裏表通りへ跳んでいく、シュンプーの後ろ姿。

「モリカ! 一足先に向かうですの!」
「え?」

 残りのちぎりパンを口に放り込んだモリカの背にとんでもない衝撃が走ったかと思うと、景色が横に伸びた。突風と化したモリカは勢いを大して弱めることなく空を行き、そのままどこかの店に衝突する。壁を突き破り、それでも弱まらない勢いに派手な音を立てて内装が乱れた。
 口内のちぎりパンをごくりと飲み込むモリカ。

「らっしゃい! 何にする?」
「とにかく硬いパン一つ!」

 数日経ったフランスパンを小脇に抱えてモリカは通りを走る。

「まいどー!」

 店主の声を背に喧騒の方へ駆けていくと、人の動きが滞っている場所があった。表通りであの喧嘩だったのだ。裏表通りとなるとどんな修羅場になることやら。下手をしたら凶器もあり得ると、胸を騒がせながら群衆を掻き分け前へ出るモリカ。そこにはタコ殴り合い発生寸前といった空気で睨み合う数人の男達がいた。

「あンだ~? テメェ~……」
「ああ~ン? テメェ~……」
「お~ン?」
「おお~ン?」

 表通りと大して変わらない光景だった。ただ酔っ払いのようで皆顔が赤く目が据わっている。
 見たところ凶器はない。良かったとモリカは鈍器を胸に抱いた。

「ン舐めてンじゃねぇぞゴラァアア!!」

 ぐるぐると規則的に円を描いていた男達がついに拳を振り上げた。しかし、その時。

「お待ちなさい!!」

 赤い陽に照らされて、半身に深い影を作るシュンプーが豊満な筋肉を打ち震わせ修道着をバツン! と破きながら見知らぬ二人の男達を引き連れ現れた。展開が早い。モリカは思った。
 そういえばこの喧騒の中に彼の姿がなかったと気付くモリカ。彼の後ろにいる男達は酔っ払いというよりは恍惚としているようにも感じられるが、何者であろうか。

「おや、私としたことが。つい筋肉を先走らせてしまいました」

 筋肉を先走らせたシュンプーは気恥ずかしそうに口元を隠した。

「今そこで争いを止めたばかりでしたから、つい筋肉が高ぶってしまいました」

 別の喧騒を既に解決済みであった。察するに、そのまま男達を引っ提げてきたようである。

「あンだ~? テメェ……」
「お、おい馬鹿! やめとけよ」

 シュンプーを睨んだ一人の男が聴衆に宥められる。しかし酔っ払った男達は止まらない。彼等の標的はシュンプーに移り、全員が彼を中心に円を描き始めた。けれどシュンプーには一つも怖気付いた様子はなく、ただ静かに中心点となっている。

「ン舐めてンじゃねぇぞゴラァアア!!」

 ついに殴り掛かる男達。しかし、それを、シュンプーは。まるで花畑で舞うようなしなやかさで以って全ての拳を流してみせた。
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