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移動要塞とレシート、悪の幹部の私
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私はその紙を見て瞠目(どうもく。目を見はること)した。それは新しく導入された空中移動要塞にかかった費用のレシートだった。とんでもない額が記されている。
ところで私は今どき珍しく悪の幹部というものをなりわいにしている。
ここで、事ここに至るまでの経緯を思い出そう。
まおうさま「なあ悪の幹部~、我が魔王城に移動要塞という武力を取り入れるのはどうだろうか~!!」
わたし「とてもいい作戦だと思います~! 空中から縦横無尽に攻撃ができる要塞……、さしもの勇者もお手上げでしょう!!」
きゃっきゃっ、うふふふ……。
勇者というやつは我々の作戦を邪魔だてしては去っていく、にっくき個人事業主的なヤツだ。ヤツが崩壊させた我らが魔王軍の作戦は数知れず。魔王様はヤツのいる方角をわざわざ専属の占い師に占わせ、その方向に足を向けて毎夜眠りにつくほど憎んでいらっしゃる……。
ともかく、その勇者打倒のための新しい兵器に対する真面目な打ち合わせであったのだ。決して、『空中移動要塞とかカッコよすぎる~!!』ときゃっきゃうふふ、うつつを抜かしていたわけではなく……。ほんとに真面目な会議だったんだってば!
そう。そしてこのとき私たちは、その空中要塞にかかる費用のことを一切考えていなかったのだ……!
以上が回想だ。
頭を抱えていてもしかたがない。費用がかかっちゃったもんはかかっちゃったのだ。私は部下みんな、魔王軍の兵士たちを集め、宣告した。
「みんな、これから私たちはバイトざんまいの日々を送ることになった!」
「ええーっ、バイトっすかあ!?」
「魔王軍の仕事がやりたいのに~!」
「なんでなんですかー?」
私は瞑目(めいもく。めをとじること)した。そして一枚の紙(レシート)を、部下たちに示した……。
「こ、これは……!」
「あの空中移動要塞の明細書……!?」
「こんなにかかっていたなんて……!」
私は目を開けた。
「すまない、みんな……。しかし、我らが魔王軍は今の魔王様になって以来、村や街からの略奪は行わない主義だからな。バイトでもしないとお金が稼げないのだ。それに、空中移動要塞は私たちと、魔王様の夢だった……」
うんうんとうなずくみんな。
「みんなで頑張ってバイトしてまかなおう……! だって、みんなの夢の空中移動要塞だもの―――!」
おおーっ! みんなの力強い声が、魔王城内に鳴り響いた!
そしてそんな風に大騒ぎしながらお金を稼いでいたので、移動要塞費用のことはすぐ魔王様にバレた。それからは魔王様に「もっと上司を信頼しろ!」と怒られたり、魔王様みずから土木工事のバイトまでなさったりして、我々は無事、お金を貯めることができたのだ。
よし、次はこの要塞に搭載する新たな機能を足し、勇者を追尾ミサイルで攻撃してやるぞー! 魔王様もにっくき勇者を倒す日も近しとご機嫌だ!
「さあ、今日も頑張って世界征服するぞー!!」
魔王様の号令のもと、我らは朝日に向かって鬨の声を上げたのだった。
おしまい。
ところで私は今どき珍しく悪の幹部というものをなりわいにしている。
ここで、事ここに至るまでの経緯を思い出そう。
まおうさま「なあ悪の幹部~、我が魔王城に移動要塞という武力を取り入れるのはどうだろうか~!!」
わたし「とてもいい作戦だと思います~! 空中から縦横無尽に攻撃ができる要塞……、さしもの勇者もお手上げでしょう!!」
きゃっきゃっ、うふふふ……。
勇者というやつは我々の作戦を邪魔だてしては去っていく、にっくき個人事業主的なヤツだ。ヤツが崩壊させた我らが魔王軍の作戦は数知れず。魔王様はヤツのいる方角をわざわざ専属の占い師に占わせ、その方向に足を向けて毎夜眠りにつくほど憎んでいらっしゃる……。
ともかく、その勇者打倒のための新しい兵器に対する真面目な打ち合わせであったのだ。決して、『空中移動要塞とかカッコよすぎる~!!』ときゃっきゃうふふ、うつつを抜かしていたわけではなく……。ほんとに真面目な会議だったんだってば!
そう。そしてこのとき私たちは、その空中要塞にかかる費用のことを一切考えていなかったのだ……!
以上が回想だ。
頭を抱えていてもしかたがない。費用がかかっちゃったもんはかかっちゃったのだ。私は部下みんな、魔王軍の兵士たちを集め、宣告した。
「みんな、これから私たちはバイトざんまいの日々を送ることになった!」
「ええーっ、バイトっすかあ!?」
「魔王軍の仕事がやりたいのに~!」
「なんでなんですかー?」
私は瞑目(めいもく。めをとじること)した。そして一枚の紙(レシート)を、部下たちに示した……。
「こ、これは……!」
「あの空中移動要塞の明細書……!?」
「こんなにかかっていたなんて……!」
私は目を開けた。
「すまない、みんな……。しかし、我らが魔王軍は今の魔王様になって以来、村や街からの略奪は行わない主義だからな。バイトでもしないとお金が稼げないのだ。それに、空中移動要塞は私たちと、魔王様の夢だった……」
うんうんとうなずくみんな。
「みんなで頑張ってバイトしてまかなおう……! だって、みんなの夢の空中移動要塞だもの―――!」
おおーっ! みんなの力強い声が、魔王城内に鳴り響いた!
そしてそんな風に大騒ぎしながらお金を稼いでいたので、移動要塞費用のことはすぐ魔王様にバレた。それからは魔王様に「もっと上司を信頼しろ!」と怒られたり、魔王様みずから土木工事のバイトまでなさったりして、我々は無事、お金を貯めることができたのだ。
よし、次はこの要塞に搭載する新たな機能を足し、勇者を追尾ミサイルで攻撃してやるぞー! 魔王様もにっくき勇者を倒す日も近しとご機嫌だ!
「さあ、今日も頑張って世界征服するぞー!!」
魔王様の号令のもと、我らは朝日に向かって鬨の声を上げたのだった。
おしまい。
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