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ドーピング毒キノコ
しおりを挟むあいも変わらず、ゼンタは監獄を監視していた。
こうも動きがないと、いよいよ心配が込み上げてくる。
ホゲールは中で死んだのではないか。もうすでに奴は護送された後なのではないか。少し目を離した隙に見逃したのではないか。考えれば考えるほど、ゼンタは焦りと不安で食事もままならない程になっていた。
「レイ……中を見てきてくれ」
「お前! 私が捕まったらどうするんだよ!」
「お前なら看守なんて全員血祭りにできるだろ」
「たしかにそれをしていいのなら容易いが、お前は脱獄計画の時も、なるべく死者は出したくないと言っていたじゃねえか」
「だからそれは最終手段で、こっそりいってくれって言ってんだよ。お前は顔割れてねえんだし」
「ドリーの奴がいるだろ? 退職するとか言ってたがその後どうなったか、わからねえじゃねえか。もう、あいつがリスクを犯して私達を庇い立てする理由なんてねえんだから、見つかればまたS級冒険者だのなんだの呼ばれるぞ」
「S級冒険者には勝てないのかい? レイさん」
「アホいえ! 弱虫! 本気を出していいなら十中八九勝てる! だが、魔術の大精霊である私とて魔封じの腕輪をつけられたら、圧倒的な美貌を持つだけのただの精霊だ! S級や強者共に多勢に無勢で来られたらワンチャンその可能性はあるかもしれん! ないけど!」
ゼンタが冗談のつもりで言った事に、グダグダ言い訳をするレイの様を見て、こいつも案外人並みなのかもと、ゼンタはどこかホッとした。
「もうまた喧嘩ばっかりして。本当仲良いんだからー」
監獄を眺める2人の後ろからアルが何かを大量に抱えて歩いてきた。
「一応、夜の分も取ってきたよ」
するとアルは抱えていた物をドサリと地面に置いた。
昼ご飯となる、山菜や小動物、きの実類が地面に敷かれる。
「ああ、アルありがと……………」
と労いの言葉をかけようとした時、乱雑された食料の中にまるで見慣れない物がゼンタの目に止まった。
「おい、なんだよこの禍々しい色のキノコ達は」
そこには、紫色を溶かして腐らせたような色をした、明らかに危険な香りただようキノコが山のように積まれていた。
見たことのないキノコであったが、一目で毒キノコで間違いないと断定できる物を手に取りゼンタはアルの顔の前に押し付けた。
「え? 死ねってか? お前こんなあからさまに暗殺しようとして何が目的だ! 金ならねえぞ! てか死なねえけどな!」
するとアルは自分の顔の前に両手を上げ、ゼンタを静止させると少し焦った様子で弁明した。
「違う違う。これはただの毒キノコじゃないんだって。山菜を取ってる時にたまたま大量に生えてるのを見つけたから一応取ってきたんだよ」
「ただの毒キノコじゃない? お前毒キノコって認めてるじゃねえか!」
「お前ジュラメントマッシュルームも知らねえのか? どんだけ教養ないんだよ」
あくびをしながらレイが呟く。
「そう、このキノコの名前はジュラメントマッシュルーム。食べると数時間で死ぬ猛毒キノコなんだけど、この世で1番滋養強壮があって肉体の進化や筋力強増、疲労感低減、覚醒作用なんかの即効性のパワーアップ効果があるキノコなんだ」
「なんか矛盾してるな。いくらそんな効果があっても死ぬんじゃ食う奴はいないだろ」
「昔は戦争なんかで使われてたよ。並の兵士でも超人的な力が手に入るからね。捨て石に使われる雑兵に食べさせて特攻させるって戦術が一時期、流行ったんだよ」
「なんて悪趣味な………でも俺が食えば副作用なしでパワーアップだけができるキノコになるって訳だな」
「その通り、しかもこの数食えば相当な力が手に入ると思うよ」
「別にレイに貰った指輪の力があるからなあ……身体能力面での強化より戦いの技術が欲しいんだが」
「悪い事は言わねえから食っとけ。そのキノコは言うなれば自分の元から持つ力をパワーアップするキノコ……つまり足し算だ。んで、生命の指輪は以前言ったように掛け算。食ったキノコの力がモロに指輪の力に影響するぞ」
レイの後押しに続くように、アルもキノコの良さをプレゼンする。
「E級モンスターのタオティエがABCエリアではB級モンスターに指定されてるんだ。タオティエはグルメなモンスターとして有名だけど、その内臓は強靭で本来何でも食べれるらしいんだよ。ABCエリアのタオティエは過酷な環境で食べる物がなくて、誰も食べないジュラメントマッシュルームを主食として食べるようになったんだって。キノコの毒を分解できるタオティエはキノコの力でパワーアップし続けた結果、ネイチャーバグやフェンリル並みの戦闘力を手に入れたって言われてるよ」
「ネイチャーバグと同列?! E級って言えば俺が倒したコボルト並みの力しかなかったのに、キノコの力だけでそこまで……」
ゼンタは毒キノコを手に取り、ジッと眺めた。
ノーリスクでその力が手に入るなら何も悩む事などない。
「ほら、いきなよ!」
「さっさといけ!」
アルとレイは何故か少しニヤけた表情でキノコを食べる事を後押しする。
「これで勇者に近づくなら多少の腹痛は耐えてみせるぜ!!」
ゼンタは豪快にキノコにかぶりついた。そして、そのキノコを口に入れた瞬間、盛大にそれを吐き出した。
「ぎゃっはっはっは! ひっかかった! 生で食うかよ! おもろ!」
「あはははは! ジュラメントマッシュルームは世界で1番辛い物質とも呼ばれるんだよ。ABCエリアのモンスターでも食べないくらいに」
抱腹絶倒するアルとレイの言葉など全く耳に入ってこないほど、ゼンタは悶絶し、のたうち回る。
「あー……笑った笑った」
そういうとレイは人差し指を立て、小さな水の塊を空中に作ると、それを地面で転がり回るゼンタの上で落とした。
その水を口に入れると、大きなうがいをし、口内に残る刺激物を洗い流す。
「何だこれ! 爆弾かよ! 何考えてんだお前ら! 笑い事じゃねえぞ!」
すると笑い疲れた様子のアルがキノコを手に取りナイフで切り出した。
「戦争に使われてた時も捨て駒にする兵士にすら、調理して食べやすくしたものを与えてたのに……毒以前に人間が食べれるものじゃないよ」
アルは笑った余韻を感じさせるように少し息を切らし、キノコの調理を始めた。
和気あいあいと昼食の準備に取り掛かるも、その和やかなムードをレイの一言がきった。
「おい、ゼンタ、アル。喜べ」
「あ? 確かにパワーアップは嬉しいが……こんな辛いもん食って喜んでられるかよ」
「違うわ、いも。あれがお目当てのものじゃねえか?」
レイが指差す方向に目を向けると、スワンプリズンの門の前に、これまで一度も見かけた事のない頑丈な素材でできた荷馬車が止まっていた。
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