殺し屋の娘は憧れた兵士になって愛されてます

鈴菜えり

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新兵になる

6話 休日

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何故か大きな一人部屋で夜を過ごした。
朝日が昇る前にいつもと同じように起きた。外に出てみる。
家ではないのは分かっているがなんとも不思議な気分だった。自分が夢の兵士になれる日が近いということに。師匠を下した最強の男。いつまでも師匠には勝てなかった何度も何度も数えることさえ面倒な程挑んでは必ず負けた。手加減されていることぐらい分かっていた。自分の子供だから本気を出せない。でもいつまでもそれに付き合ってくれた。そんな日々が幸せでもあった。それも終わることもわかっていた。師匠はあまりにも年をとっていたから、いつまでも続かない。そして5年前のあの処刑の日は初めて泣いた。自分という個が意思を持ち初めて泣いた。感謝もある。まだ一緒にやりたかったこともある。でももうこの世界にはいない。
だから師匠の顔に泥を塗るような生き方はしない。師匠は自分が悪だとわかっていたから捕まりに行くような真似をした。それも自分の意思。盛大に死にたいと言ったのも自分の意思。決して己がしたいことを諦めず真っ直ぐにやっていた。だから自分もやりたいように生きると師匠が死んだ時と同時に強くさらに強く誓った。元々誓ってはいた。でもこういう違いは大事だ。毎朝そんなことを思いながら1日を開始する。
「今日は唯一自由な日だ。自分の荷物をこっちに持ってこないとな」
城の門は閉まっているので壁をよじ登ることにする。誰も見ていないことを確認。周りに気配はない。誰かが見ないように気配を消す。
足元から上に向けて風を起こす。それと共に重力軽減を自分にかける。体が浮き上がり飛ぶ。大空の下にはペスタルティナ王国が綺麗に見える。
「やっぱり綺麗な国だな」
景色を楽しみながら師匠と共に自分が住んでいた家へと目指す。
隣国とペスタルティナ王国の国境近くの森。危険な生き物しか住んでいない森はペスタルティナ王国は禁じの森と呼ばれている。シュオナはその森にズカズカと入っていく。
森の中を散策しながら早1時間。家がポツンと1軒立っている。シュオナは鍵を取り出し鍵を開け家の中に入っていく。
「ただいま」
返事を返してくれる人がいるはずのない家にシュオナの声だけが響く。階段を上がり奥にある自室へと足を運び部屋に入る。
そこからは異空間を作り出し部屋の荷物を片っ端から入れていく。
元々私物自体が少ないシュオナの作業はすぐに終わる。
部屋から出て1階へと足を運び最奥にある日当たりのいい部屋に入る。
そこには師匠の杖と師匠が愛用していた武器たちと本が沢山あった。その中央に僕と一緒に写っている写真。
「師匠。僕これから兵士になるんだよ?凄いでしょ?ちゃんと夢叶えたよ?あとは立派な兵士になるだけだ。色々学ばなきゃいけないけど頑張るからな。師匠の弟子だから自由に生きるけど僕絶対後悔しないから。ゆっくりあの世で見ていてくれ。師匠のように長生きしてみせるからな!
当分ここには帰ってこないだろう?だからここに直接挨拶に来た。次ここに来る時は立派な兵士になってくるからな!!楽しみにしていてくれ!」
「……行ってきます」
言葉が最後まで続かずに切ってしまったが決意を新たにして写真に向かって笑顔で挨拶をした。そのまま部屋を出て家から出る。鍵をかけアイテムを使って隠蔽で家ごと不可視にする。ここに家があると認知していなければ見ることも触ることも近づくことも出来なくなる。
これをどうして持ってたかだと?そんなもの作ったに決まってるだろ!こんな物騒なもの誰でも持ってたら怖いわ!!
そのまま走って城まで戻るまだ日が登っていてまだ明るい。と言っても夕方だ。飛ぶのもいいがそれじゃあ訓練にならないからな。たまには長距離走らないとな。
「お!シュオナじゃないか!お前も来るか?」
どこからか声が聞こえて周りを見わたす
「こっちだよ」
さらに声がする方へと向くとそこに立っていたのはルディルだった。
「見回りか?」
「そうだな。もう終わるからこれから自己鍛錬だ。それと新兵おめでとう。これで俺の後輩だな」
「そうだな。先輩にはこれから色々(例えば寸止めの戦いとか)お世話になる」
「なぁ、どうしてもお前と話すと別の意味に聞こえるんだが…」
「ルディル、心配しなくていい。私も今そう聞こえた」
「そっちの人は?」
今まで1度も見たことがない人だ。しかもエルフだ。エルフのせいか性別の区別ができない…なんでエルフは美人ばかりなんだよ…
「私か?ルディルのパートナーをしているヨハンという。君があの噂の子か。ルディルが負けたと聞いた時は驚いたよ」
誘導されたので歩きながら話すことになる。何故か僕が真ん中だ…
「僕はシュオナ。よろしく先輩。
パートナーがいるってことはルディルって実はすごい強いのか?実は僕と戦ってた時手加減してたとか?」
「そんなことはないと思うよ?ルディルは真面目だからね。力加減はしても手加減はしないと思うよ?」
「そっか。ルディルにとっては僕は(見た目的に)やりにくい相手だったんだな」
「「そうだ(ろうね)」」
なんでこういう時だけ周りは頷くかな?いじめかな?イジメだよね?殴っていいかな?
少し殺気が出てたのか、それとも不機嫌な顔をしていたのか2人は顔がひきつる。
「落ち着けって、これから訓練に行くんだからそんな顔すんなって。それに外にいて尚且つ城に向かっているってことは荷物は詰めてきたんだろ?暇なんだろ?俺たちに付き合えよ。な!」
バシバシと背中を叩く。地味に痛かった。そんなやり取りをしながら城に戻り、一旦分かれる。別れる前に訓練場所を教えてもらい部屋に行き荷物を出し終え整理整頓したら訓練場所へ足を運ぶ。
「確かここを真っ直ぐ行くと扉が……あった!」
扉があり取っ手を取り横へスライドさせていく。大きな歓声と金属と金属がぶつかる衝撃音など色々な音がする部屋だった。
「うるせぇ…ここ何だってんだ?」
「来たか!シュオナ!こっちだ!」
聞き覚えのある声がする方へと視線を向けるとルディルとヨハンが立っていた。
「待たせて済まん。何だこのうるさい訓練場所は?」
「ここは簡単に言えば闘技場だ。まあ、力試しの場所だな」
鉄の壁に包まれた中に人が2人。そこで戦うようだ。周りに観客席があり戦う姿を上から見る仕組みになっているようだ。危険がないように色々と細工されているようだ。
「……武器は愛用か?」
「そうだ。寸止め・降伏が勝利条件だ。切断しない・死亡させない・小細工なしが絶対ルールだ」
「参加は?」
「誰でも」
「よし、出る」
「シュオナ君決めるの早くないかい?!」
「ヨハンさん、自分の実力が今ここにいる人達にどれほど通じるかが1番重要なんです。今は負けても別に構いません。現段階の自分の努力と技術と模索不足なだけなので」
3人の会話をこっそり聞いていた周りはこんなチビが来る場所じゃないと思っていたが、今の会話を聞いて最初は怒りを覚えたが最後の本人の意思ははっきりとした考えに大人顔負けだった。
これでは文句は言えない。
『次は誰がCランクと戦いま…?!』
マイクで叫ぶ実況者の言葉を急に詰まらせた。
急に登場したのはシュオナだった。
「僕が先輩のお相手をさせてもらいます」
シーンとする会場。静かなままかと思えば急に全体が笑い始めて笑い声が広がる。
「おいおいチビ坊主!お前が俺の相手をするって?どうやって入ったか知らないがママやパパがいるお家に帰りな!」
さらにその言葉で周りが笑い始める。
「…ここまで馬鹿にされると腹立つな。兵士の先輩だから言葉遣いを気おつけようと思ったが気が変わった」
シュオナを馬鹿にし煽る筋肉質な男に向かい構えて拳を強く握る。
「おいおい!見ろよ?!俺と本当に戦おうとしてるぞ?こんなチビがよ!ギャハハハハ!!」
汚い笑い声を出す男。
「実況者でも誰でもいい。早く開始しろ」
「おいおい!いいのかよ!!何ならもう始めな!いいだろ!?!」
周りはその声に耳の鼓膜が切れると思うぐらいの声を響かせる。
「さあ、坊主。もう始まったぜ?来な?どうせいつまで経っても俺は倒せんがな!」
余裕そうに警戒もせずに笑いながら手を組みこちらを見ずにいる。
「そうか。せいぜい死ぬなよ?」
周りに聞こえたのかはわからないがさらに笑い声が広がる。
「お前なんかに殺されるかよ!」
ドガーーーーン!!!!
それが筋肉ダルマ男の最後の言葉だった。誰もがその一瞬が見えなかった。
接触する音も何もかも、誰も見えなかったし聞こえなかった。
ただシュオナは冷たい眼差しで鉄の壁に丸まっている倒された男を見ていた。
「さんざん馬鹿にしてくれたが僕はちゃんと成人しているし、まだ成長期だっての。お前はもっとどんな相手でも警戒を持つことを鍛錬したらどうだ?また僕みたいなのに出会って死にかけるぞ?」
『しょ、勝者…えーと、どなたですか?』
「あー、そう言えば言ってなかったな。僕はシュオナ。今年の兵士志願者の合格者だ」
『『はぁぁあああ?!?!お前がぁあ?!?』』
「ここにいる全員失礼にも程があるだろーが!!!新人の僕でも流石にさっきから腹が立つ!!」
「流石シュオナだな!まさかジュガナを倒すとは思わなかった」
ルディルとヨハンが降りてきてこちらに近づく。
「ジュガナって言うのかあのダルマ。失礼なダルマ先輩だった。まず頭専門の医者を呼んでみてもらったらどうだ?僕よりも言葉遣いと態度が悪いぞ?」
「ジュガナをダルマって…たしかに今は壁に突っ込んで気を失って丸まっているが…そう言うな。ここではそれが当たり前だ。まぁ、いわゆる愛情表現のようなものだ」
「そんな愛情表現などいらん」
「そう言うな。男だろ?広い心持てよ!」
肩を思いきり叩かれる。なんでこいつは誤魔化そうとしたりする時に叩くんだ…
「さっきから勘違いしているみたいだがな?僕は男じゃなくて女だぞ?」
その発言で周りは一瞬で固まる。
ロボットのようにギシギシとでも言いそうな動きを見せながらこの場にいる全員シュオナを見る。
「お、おい。なんの冗談だ?お前が女?やばいぞヨハン。幻聴が聞こえる。しかもはっきりと」
それを聞いたヨハンは首を横に振る。
「ルディル、きっとシュオナ君…いやシュオナちゃんは本当のことを言っている。そうか…女の子だったか。済まない、気づけなかった」
「別に構わない。師匠には男として育てられたし、自分も今更女の格好にするつもりもない。それに言葉遣いもコレだしな。気にしないでくれ」
諦めている部分は別に不快ではない。女の姿の自分など寒気がする。動きにくい格好なんてゴメンだからな。
「そうか。ありがとう」
「気にするな。なんかこれ1回で精神的疲れた。もう部屋に戻るとするよ。またここに連れてきてくれ。それと『ちゃん』付けはやめてくれ気持ち悪い」
「わかったよ。これからよろしくシュオナ」
「おう!」
飛び上がり鉄の壁を登り観客席の後ろまで跳躍する。
手をルディルとヨハンに向けて微笑みながら振り部屋から出ていく。
シュオナはそのまま部屋に戻り風呂に入って寝た。








シュオナが去った頃の訓練場は…

「ジュガナ?大丈夫だったら何か言え」
「…なんだよ。あのガキ」
「お前を倒した名前はシュオナ。今年の新兵の逸材だ。しかもシュオナの師匠は異常と言っていいほどヤバい奴だ。そいつの技術を受け継いだ。根はいい奴だ。それに俺もあいつに負けてるしな。だから気にするな俺たちはまだまだ未熟ってこった」
「おいおい!ルディルさん!Sランクのアンタが負けるって…!?」
「あぁ、負けた。あいつの手加減した一撃の攻撃に唖然としてた一瞬で背後を取られてな」
笑っているように見えるがジュガナには実力の一端も見せてくれなかった悔しさがあるように見えた。そんな姿をジュガナは初めてみた。
「マジかよ…」
「そういうことだ。良い奴だしあんまり怒らせるなよ?あいつ怒るとそこら辺のやつなんて相手にもならないだろうしな」
そんな重い空気の中その空気を壊すようにヨハンが言う。
「そう言えば最後に私たちに笑って手を振ってたね。あれを見た時やっぱり女の子なんだなって思ったよ。可愛かった」
その言葉はそれを見ていた者達は無言で頷くのだった。
この時初めてシュオナが女の子と言われた日でもあった。本人はその事を知ることは無い。
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