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教室に舞い降りた天使
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「おはよう。ウィルソン。思ったよりも、堪えてなさそうだな」
「……有象無象の戯言なんか、気にしてられっかよ」
「言っておくけど、彼らの陰口の原因は、今までの君の態度が悪かったせいだぞ。自業自得だ」
「わかってるっつーの」
顔色も悪くないし、激昂している様子もない。……ふむ。どうやらウィルソンは、完全に過去を乗り越えたようだな。
「まあ、でも、嫌がらせが行き過ぎるようなら、相談してくれたまえ。伯爵令嬢兼第三王子の婚約者という権力を使って、黙らせてあげよう」
「要らねぇよ。……お前が言ったんだろう。俺なら、これくらい乗り越えられるって」
「ははっ! そうだな。何せ君は、魔法も物理攻撃も効かない大蜘蛛を、一矢で倒した英雄だからな」
「嫌味かよ。それでも結局伝説の剣の主に選ばれたのはお前なのに」
ウィルソンに陰口を言っていた生徒たちが、私の言葉を遠巻きに聞いてギョッとしている。……少しは、牽制になったかな。まあウィルソンの自業自得だと思っているのも本当だから、必要以上に擁護する気もないけど。
「だって、別にアラネイスを倒した人を主に認めるわけじゃないもの」
「倒し方で、シエルやシエルの主に似ているか見ていただけだもの」
「その人、血も魔力も魂も見た目も性格も、全然ライオネルに似てないもの」
「血も魔力も魂も見た目も性格も、シエルに似てない人なんてどうでもいいもの」
「……これっばかりは精霊の好みの問題だから、仕方ないよ。私がピンポイントで、好みに当てはまっただけで」
「けっ……いつだってお前は、そうやっていい所をかっ攫っていくんだ」
舌打ちを漏らしながらも、ウィルソンの氷を思わせる水浅葱の瞳は、凪いでいた。
「ずっとずっと俺はお前が妬ましかったよ。ナサニエル。女の癖に俺よりも強くて、立派な後ろ盾もあって、人を惹きつけるお前が」
「知ってたよ」
「でも……俺が侯爵令息という立場を笠に着ている時も、それがハリボテだと判明してからも、お前は何も変わらない。いつだって俺を対等な目で見てくれるお前に、救われてもいた」
……それも知ってたよ、と。言うのは多分、野暮だろうなあ。
知っていたからこそ、どれだけウィルソンが鬱陶しい態度を取っても、見捨てられなかったんだけどさ。
「責任とれよ。ナサニエル。お前がおだてあげて、その気にさせたんだ。俺がちゃんと立派な騎士になれるか、ちゃんと最後まで目ぇかっぽじって見てろ」
「君と私が、両方ともきちんと王宮騎士団に採用されたなら、構わないよ。同期の成長を見ながら、切磋琢磨していくことは良いことだ。もっともすぐに私の方が出世して、君が私の部下になるかもしれないけどね」
「抜かせ……絶対俺の方が先に出世してやる」
さてさて、伯爵家とはいえ珍しい女騎士である私と、元侯爵家になるウィルソン。どっちが、出世は早いものかな。意外と同じくらいかもしれないね。私は軍務卿に嫌われてるし。
思わず笑みを浮かべる私に釣られるように、ウィルソンもまた笑っていた。
その笑みがあんまり柔らかかったから、思わず揶揄いたくなってしまった。
「その笑みも、なかなか愛らしいんじゃないか? ウィルソン」
「な⁉ だからお前は男にかわいいとか……」
「ははは、顔が真っ赤……」
「――ナサニエルーーーーっっっ!!!!!」
……こ、この愛らしい、天上の調べのようなお声は⁉
ぱあっと顔を輝かせて教室の入口を見ると、そこには顔を真っ赤に染めてこちらを睨みつける天使の姿があった。
「とんでもないことを仕出かして、停学処分になったというのに、停学明けの初日から元凶である男といちゃつくだなんて、お前は何を考えているんだ!!! 第三王子である、私の婚約者だという、自覚はあるのか⁉」
え……アレス殿下。私と会う為だけに、朝から騎士科の教室まで来てくださったんですか? 私の為に?
「……有象無象の戯言なんか、気にしてられっかよ」
「言っておくけど、彼らの陰口の原因は、今までの君の態度が悪かったせいだぞ。自業自得だ」
「わかってるっつーの」
顔色も悪くないし、激昂している様子もない。……ふむ。どうやらウィルソンは、完全に過去を乗り越えたようだな。
「まあ、でも、嫌がらせが行き過ぎるようなら、相談してくれたまえ。伯爵令嬢兼第三王子の婚約者という権力を使って、黙らせてあげよう」
「要らねぇよ。……お前が言ったんだろう。俺なら、これくらい乗り越えられるって」
「ははっ! そうだな。何せ君は、魔法も物理攻撃も効かない大蜘蛛を、一矢で倒した英雄だからな」
「嫌味かよ。それでも結局伝説の剣の主に選ばれたのはお前なのに」
ウィルソンに陰口を言っていた生徒たちが、私の言葉を遠巻きに聞いてギョッとしている。……少しは、牽制になったかな。まあウィルソンの自業自得だと思っているのも本当だから、必要以上に擁護する気もないけど。
「だって、別にアラネイスを倒した人を主に認めるわけじゃないもの」
「倒し方で、シエルやシエルの主に似ているか見ていただけだもの」
「その人、血も魔力も魂も見た目も性格も、全然ライオネルに似てないもの」
「血も魔力も魂も見た目も性格も、シエルに似てない人なんてどうでもいいもの」
「……これっばかりは精霊の好みの問題だから、仕方ないよ。私がピンポイントで、好みに当てはまっただけで」
「けっ……いつだってお前は、そうやっていい所をかっ攫っていくんだ」
舌打ちを漏らしながらも、ウィルソンの氷を思わせる水浅葱の瞳は、凪いでいた。
「ずっとずっと俺はお前が妬ましかったよ。ナサニエル。女の癖に俺よりも強くて、立派な後ろ盾もあって、人を惹きつけるお前が」
「知ってたよ」
「でも……俺が侯爵令息という立場を笠に着ている時も、それがハリボテだと判明してからも、お前は何も変わらない。いつだって俺を対等な目で見てくれるお前に、救われてもいた」
……それも知ってたよ、と。言うのは多分、野暮だろうなあ。
知っていたからこそ、どれだけウィルソンが鬱陶しい態度を取っても、見捨てられなかったんだけどさ。
「責任とれよ。ナサニエル。お前がおだてあげて、その気にさせたんだ。俺がちゃんと立派な騎士になれるか、ちゃんと最後まで目ぇかっぽじって見てろ」
「君と私が、両方ともきちんと王宮騎士団に採用されたなら、構わないよ。同期の成長を見ながら、切磋琢磨していくことは良いことだ。もっともすぐに私の方が出世して、君が私の部下になるかもしれないけどね」
「抜かせ……絶対俺の方が先に出世してやる」
さてさて、伯爵家とはいえ珍しい女騎士である私と、元侯爵家になるウィルソン。どっちが、出世は早いものかな。意外と同じくらいかもしれないね。私は軍務卿に嫌われてるし。
思わず笑みを浮かべる私に釣られるように、ウィルソンもまた笑っていた。
その笑みがあんまり柔らかかったから、思わず揶揄いたくなってしまった。
「その笑みも、なかなか愛らしいんじゃないか? ウィルソン」
「な⁉ だからお前は男にかわいいとか……」
「ははは、顔が真っ赤……」
「――ナサニエルーーーーっっっ!!!!!」
……こ、この愛らしい、天上の調べのようなお声は⁉
ぱあっと顔を輝かせて教室の入口を見ると、そこには顔を真っ赤に染めてこちらを睨みつける天使の姿があった。
「とんでもないことを仕出かして、停学処分になったというのに、停学明けの初日から元凶である男といちゃつくだなんて、お前は何を考えているんだ!!! 第三王子である、私の婚約者だという、自覚はあるのか⁉」
え……アレス殿下。私と会う為だけに、朝から騎士科の教室まで来てくださったんですか? 私の為に?
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