乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
46 / 191
オージン・メトオグという王子

オージン・メトオグという王子14

しおりを挟む
「……会いに行けばよろしいのではなくって」

 私は小さく肩を竦める。無駄にシリアスぶっているのが理解できない。

「殿下が私の大切な友人を偽物だというのならば、また彼女の家に行って存在を確かめればいいだけだと思いますわ。殿下は、その場所をご存知でいらっしゃるのだから、また訪ねるのなんて簡単でしょう」

 実際そんなことやられたら、デイビッドも本物のエンジェも困るが、どう考えてもそれが最善の、誰にでも思いつく方法だ。
 別に私が指摘しようとしなかろーと、どうせオージンの頭に既にあって却下した選択だろうから敢えて口にさせて頂く。
 ……悪魔様どっかでみてねーだろうな。頼むよ。もし見ててもその辺理解してくれよ。お願いだから。

「出来るものなら、とうにやっているさ」

 オージンは自嘲気味に笑った。こういう顔ですらイケメンなのだから腹が立つね。

「彼女の家は、ここから馬で一月は旅をしないと行けないような辺境だよ。転移魔法を使おうにも、式を狂わせる特殊な花粉を放つ木が生い茂った山にに囲まれているから、途中で不時着して遭難するのが目に見えている。そんな場所だからこそ、私はあの時死にかけていたのだよ。光魔法すら使えずに。……そう簡単には行けないさ」

 ……うっほい。ゲームじゃ出なかったぞ。んな裏設定。もともと何でそんなとこに行ったし……って、あぁ、そういや他国の罠に嵌ったんだ。ショムテと裏でつながった、隣国の罠に。確かそんな設定だわ。

 ……しかし悪魔様の出身地がそこまで魔境だとは……。うん、なんてか本当人間離れしているよね。
 エンジェちゃんがそんな魔境出身ていうのはしっくり来ないけれど、悪魔様ならしっくりくるよ。私は悪魔様が、背中に羽根が生えて魔境の山飛んでたとしても驚かないもん。

「別に殿下が行かなくても、人をやって様子を見させれば……」

「そして私の最愛を、そして最大の弱点を、誰かに晒せというのかい? 残念ながら、まだ若輩者の私には、そこまで信頼できる家臣を育成出来ていないんだ。父の代からの信頼できる召使はいるものの、彼らは私の私的感情に由来する命令にはけして言うことを聞かない。逆に、王族の私を惑わそうとしている彼女を排除しようとさえするかもしれないね。……なんせ彼女は一般庶民だ。何の後ろ盾もない。きっと彼らは私に彼女は相応しくないと判断するだろう」

 そしてオージンは、真っ直ぐに私の目を見つめた。

「――だから、君、なんだ」

 おもわず息を飲んでしまうくらい、真剣な表情だった。きっと、今の彼は、演技じゃない。直感的にそう思った。


「出世欲が薄く、よく回る頭を持ち、私が偽物と疑っているエンジェと急速に接近している君だからこそ、私は協力を仰ぎたい。君ならば、私の恋心を知っても、それを利用しようなぞと考えはしないだろうと確信をしていたから」

「……随分と私のことを熟知しているかのように語られますこと。私と殿下は今まで接点が無かったように思うのですが、私の思い違いかしら」

 ちゃんと面と向かって話すのは初めてだと、そう言ったのはオージンだ。

「確かに接点は無かった。……だけど、私は君を見てた」

 オージンが発する言葉は会いも変わらず口説き文句のように甘い。

「社交の場で、学園で、見掛ける度に、華やかな君は思わず目を引き付けられずにはいられなかったからね。分かるよ」

 本当にこいつは、人間を見りゃ口説かずにいられんのか。心底呆れる。
 思わず鼻で笑ってしまった。

「――そんな甘ったるい言葉で誤魔化さずに、ちゃんとおっしゃったら。要注意人物として、目をつけていたと」

 なんせこちとらボレア家の一人娘だ。王族を転覆させる力を持った大貴族だ。それくらい意識してもらわないと舐められているようで逆に苛立たしい。

 美しさに惹きつけられた何ぞと言う言葉よりも、そっちの方が100倍嬉しい言葉だ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

処理中です...