乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
149 / 191
アルク・ティムシーというドエム

アルク・ティムシーというドエム22

しおりを挟む
 デイビッドの手の力が弱まった隙をついて、無事脱出する。

 ……良かった、私の耳、千切れても伸びてもいない……!

「――誰から聞いたんだ、その話」

 耳を擦りながら安堵に浸っていた私は、掛けられた声の冷たさに、思わずびくっと体を跳ねさせる。

 視線を向けたデイビッドの顔は、表情を一切消していた。

「……誰って、オージンがエンジェさんの手紙に書いてあったからって……」

「……ちっ、あの愚姉め…余計なことを」

 突然のデイビッドの変化に、正直戸惑う。

 さっきまではいつものデイビッドだったのに。何でいきなり、超シリアスな雰囲気垂れ流してんの?
 え、だって私、その……お父様が、デイビッドの村に来ていたのか、確かめたかっただけだよ。

 なんで、そんなに……まるで、それじゃ、村に来たその貴族と確執があるみたいじゃないか。


「え、と……デイビッドもその貴族のこと覚えているの? なんか、随分小さい頃の話見たいだけど……」

 自分の心臓の音が、聞こえる。
 まるで何かを警告するかのように。

 否定してくれ。忘れていてくれと、脳の片隅で叫ぶ自分がいる。

「――あぁ、覚えている」

 だけど、デイビッドはそんな私の願いを、嘲るような笑みと共に打ち砕いた。

「覚えているに決まってんだろう――だって、そいつの娘こそ、俺を弄んだ張本人なんだからな」



 その言葉を聞いた瞬間、頭の中で、ガラスが割れるような音がした。

『お前、きれいだな。……お前みたいな、きれいな奴、初めて見た』

『来月には、もう帰るのか? ……帰るな。帰らないでくれ。……ずっと、ここにいろよ』

『約束してくれ……今度、今度会った時は、きっと――……』


 洪水のようにどこからか現れ、脳内に溢れ出る、この記憶は。

 この言葉は。

 この声は。


『――嘘つき』

『嘘つき、嘘つき、嘘つき! ――最低だ、お前は……っ!』

『許さない--絶対に、許さないから……!』


 泣きながら、私を睨む、あの少年は。


「――ちょっと待ってよ、デイビッド」

 冷たい汗が全身を伝うのを感じながらも、私はあくまで平然を装って尋ねる。

「弄ばれたって……話を聞く限り、その貴族が来たのってかなり昔のようだけど?」

「ああ、そうだな――10年以上前のことだ」

「その……弄んだ相手って、かなり年上の人?」

「いや? 俺と同じくらいのはずだ」

 ちょっと待ってよ。

 そんなの、そんなのってさ

「弄んだって、5歳とかそこらの子供の言うことでしょ? ……そんなのただの子供の遊びみたいなもんじゃないの?」

 キエラは言った。デイビッドは非常にくだらない過去に囚われていると。
 そのあと、それが女性に弄ばれた過去だって聞いて、なんてひどいことをって、そう思ったけど。
 だけど、真実を知った今、キエラが言った意味がようやく分かる。

 たかが、幼児の戯れ言。くだらないことなんだ。そんなこと。

「――だけど、俺は本気だったんだ!」

 くだらないんだ。――当事者以外の人間にとって、は。

 私の言葉に、デイビッドは激高を露わにして吼えた。

「本気だったんだ……! 本気の初恋だったのに、あの女は村に滞在中散々折れに気がある素振りを見せていたのに、帰るとなった途端『庶民相手に私が恋するわけないじゃないの? 馬鹿じゃないの?』と、そうほざいたんだ……っ! ショックで呆然自失な俺を嘲笑いながら……っ!」

 ……うわい。なんて言う糞ガキ。親の顔が見てみたいもんだ……はははは……

 10年以上も前の幼い頃の記憶を、まるで昨日のことの様に語るデイビッドに、乾いた笑いが漏れる。

 そんな昔のこといつまでも引きずるなんて格好悪! ぷぷぷ! ……と笑ってやれたらどんなに良かっただろうか。

 だけど、さっきから次から次へと蘇ってくる過去の記憶が、それを許してくれない。

「だから、あの時俺は、誓ったんだ……! 絶対、いつかあの女より偉くなって、見返してやると……いつかあの女を、俺の前に這い蹲らせてやると、そう、な……っ!」


 拳を震わせてぎりと奥歯を鳴らすデイビッドの眼に宿る憎悪の炎は、それが最初に宿ってからゆうに10年経った今でも、なお弱まることなく激しく燃え上がっている。

 ――私は、この眼を知っている。

 その炎が最初に宿ったその瞬間を、私はこの眼で目撃した。

 向けられる眼の強さに脅えて、そこに宿る感情の強さに恐怖して、泣いて、震えて――そして、忘れた。
 前に進むために、その存在そのものを、共に過ごした時間自体を、なかったことにした。


 ……ああ、思い出したよ。全部、すっかり、思い出したよ。


 デイビッドを傷つけた糞ガキ――それ、間違いなく、6歳の頃の私だ。



しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...