乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
155 / 191
アルク・ティムシーというドエム

アルク・ティムシーというドエム28

しおりを挟む
 10日が、二週間になり、二週間が、一月になった。


 嫌なこと言うものは、先伸ばしにすればするほど、なお一層嫌になるものである。
 日を追えば追うほど、私は精霊と接するのが嫌で嫌で仕方なくなっていた。

 けれども、私の中に、精霊との主従契約を破棄する気なんかは毛頭なかった。

 5歳で、4体もの人型精霊を従えたという名声に、私は執着していた。そして、私が精霊達を従えた話は、貴族の間ではすっかり有名になってしまっていた。
 今更、精霊達が思い通りに動かないので、契約を破棄しましたなんて、言えやしない。そんなことは、私のプライドが許さない。
 それに、精霊達との契約破棄をすることは、前世のゲームの中のルクレアに私が負けたことに他ならない。
 私という魂が、無能だったということを証明してしまう。……そんなこと、許せるはずがない。

 何としてでも、精霊達を従順に調教しなければならない。……けれど、今の精霊達を思うとそんなことを実現できるとは、到底思えなくて。

 精霊達に対して葛藤を、焦躁を抱けば抱くほど、私のデイビッドに対する遊びを加速させた。
 そして遊びが盛り上がれば盛り上がるほど、デイビッドの私に対する想いは一層強いものになっていった。

『クレア。……お前と一緒だと一日がすげぇ早いんだ。……お前との別れの日がそれだけ早く来そうで、こわい』

『来月には、もう帰るのか? ……帰るな。帰らないでくれ。……ずっと、ここにいろよ』

『クレア。……俺はお前が……お前のことが……お前のことが、すごい好きだ。……離れたくない』


 日に日に真剣味を増していく、デイビッドの言葉にぞくぞくした。

 相手はたかが5歳児。いくらませたことを言っても、その台詞に篭った想いだって、私に向ける恋心だって遊びの延長戦上に過ぎないことは分かっている。
 所詮子どもの恋。一年も経てば忘れているような、その程度のこと。本気もなにもありがしない。

 冷めた胸の内でそう思う一方で、そんなデイビッドの恋心に、不安定な精神が安定する自分がいた。

 人を意のままに操れる能力があることを、証明したかった。

 誰かに、特別な存在だと、そう想わせることで、自分が特別な存在であると、そう思いたかった。

 デイビッドの想いは、そんな私の要求を満たしてくれていたのだ。


 当時の私は、ただひたすらに自分のことだけを考えていた。
 他者のことなんて、考えられないくらい、ただ自分のことだけでいっぱいいっぱいだった。


『――ルクレア。随分と長居をしてしまったけど、明日の夕方にはこの村を去ろう。いい加減、領地の仕事も溜まっている。……親しくしてくれたお友達に、明日お別れをしておいで』


 だから、父からそう告げられた時に私の頭を占めたのは、これで明日からは精霊達とまた向き合わなければならなくなるという、憂鬱感だけだった。


『クレア! ……今日、父さんに聞いたんだけど、お前、夕方には村を出るって本当か!?』

『……ええ。本当よ』

 息せき切って駆け付けて来たデイビッドに、私は力ない笑みを返した。

『もう、荷造りも馬車の手配も全てすんでいる。……あとはただ、乗り込むだけ』

 私の言葉に、デイビッドは泣きそうに顔を歪めた。

『そんな……だって昨日会った時には、まだ日付けまでは分からないって、お前……』

『私も、昨日の夜になって初めてお父様から聞いたのよ。……こんなに急になるなんて思ってなかったわ』

 そう言って首を横に振ると、私もまた泣きそうな表情を意識して作りながら、デイビッドに小さく笑いかけてみせた。

『……さよならよ。デイビッド。貴方のお蔭でこの一月、とても楽しかったわ。本当にありがとう』


 ――さぁ、最後の遊戯の時間のはじまりだ。

 貴族らしく、優雅に、デイビッドの初恋終わりの一幕を演じてあげるとしよう。
 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。 王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。 エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。 だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。 そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。 夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。 一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。 知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。 経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

処理中です...