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アルク・ティムシーというドエム
アルク・ティムシーというドエム49
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月明かりの下のテラスでの二人きりの舞踏会。
うっとりするほどロマンチックなシチュエーションのはずなのに、残念ながらそんなムードはすぐに霧散してしまう。
「あたっ! また、足踏んだ!」
「……悪ぃ」
「……下手くそ」
「…………………」
「あたたたた! それ、わざと! 今ぐりぐりしてるのは、絶対わざと!」
いくら音楽に合わせて私が上手に踊っても、すぐにデイビッドが足を踏んでしまってダンスが中断してしまうのだ。
……これ一体何度目だ?
うう……足の甲が悲惨なことに……。
「……しょうがないだろ」
デイビッドがどこか決まり悪そうに唇を尖らした。
「ほとんどダンスなんかしたことねぇし……授業で習ったのも女のパートだったし……」
視線を剃らして言い訳するデイビッドの姿が、まるで悪戯をした小さな男の子のようで、思わず吹き出してしまった。
「……しょうがないなぁ」
わざとらしく肩をすくませて、デイビッドの手を強く握る。
「私が教えてあげるよ、デイビッド。一から一でマンツーマンで」
……そんなデイビッドをかわいいと思ってしまうのだから、しょうがない。
貴族になるべく、完璧を目指しているデイビッドの、不完全な部分がいとおしい。
デイビッドは私の言葉に一瞬身を強張らせてから、わざとらしく溜め息を吐いた。
「……お前に教わるとか、屈辱的だな」
何それひどい! ここで、ツン出してくるか!?
「……だけど、そうだな」
あからさまにむくれる私に、小さく笑ってデイビットは握った手を、持ち上げた。
「――せっかくなので、ご教授お願いしマス。ルクレア・ボレア嬢?」
芝居がかった口調でそう言って、デイビッドはそっと私の手の甲に口付けた。
唇が触れた部分から、熱が全身に広がっていくのが分かった。
「……うん、いいよ。ルクレア・ボレアの名にかけて、私が完璧なダンスをデイビットに叩きこんであげマショウ」
――ああ、夜で良かった。どうしようもなく赤く染まった顔が、デイビッドにバレない。
「それじゃあ、まず基礎からおさらいしましょうか――ご主人サマ」
それでもきっと体中を広がるこの熱は、触れた部分から伝わってしまうだろうけど。
月夜のテラスでの、二人きりのダンス教室。
それは密かに夢見ていた状況ほど、美しくはない。
不器用で、どこか荒っぽいデイビッドのダンス。ダンスの技量なら、オージンの方がずっと上手だし、恐らく学園のほとんどの生徒がデイビットよりはましなダンスをするだろう。
だけど、そんなみっともないダンスが、踏まれて痛む足の甲が、それでもどうしようもなく、嬉しくて。
どうしようもなく、幸せで。
今まで数えきれないほどの数のダンスを、数えきれないほどの人達と踊ってきたけど、これほど楽しいダンスを、私は知らない。
思わず、締まりのない笑みが口元に浮かぶ。
「……なんだ、急に間抜けな面をして」
「いや……なんか楽しいなと思って」
私の言葉に、デイビッドは少し思案するように黙りこんだ。
「……ああ、そうだな。悪くねぇ」
ぶっきらぼうに言い放ちながら、デイビットは表情を隠すように月を見上げる。
「悪くねぇ、時間だ」
私もまた、デイビッドの視線を追うように、月を見上げた。
夜空に高く浮かぶ、まん丸の月が、どうしようもないくらいに綺麗だった。
――もう、否定できないな。
勘違いだなんて、ただのストックホルム症候群だなんて、そうやって自分を誤魔化すのはもう、限界だ。
「――月が、綺麗だね。デイビッド」
デイビッドが、好きだ。
どうしようもないほど、好きだ。
どうしようもないくらいに――恋をしている。
「? ああ、そうだな」
私の言葉の意味も知らず同意するデイビッドに、小さく笑いかけて、目を伏せる。
――だからこそ、ちゃんと向き合わないと、いけない。
私に月が綺麗だと言ってくれた、あの人と。
うっとりするほどロマンチックなシチュエーションのはずなのに、残念ながらそんなムードはすぐに霧散してしまう。
「あたっ! また、足踏んだ!」
「……悪ぃ」
「……下手くそ」
「…………………」
「あたたたた! それ、わざと! 今ぐりぐりしてるのは、絶対わざと!」
いくら音楽に合わせて私が上手に踊っても、すぐにデイビッドが足を踏んでしまってダンスが中断してしまうのだ。
……これ一体何度目だ?
うう……足の甲が悲惨なことに……。
「……しょうがないだろ」
デイビッドがどこか決まり悪そうに唇を尖らした。
「ほとんどダンスなんかしたことねぇし……授業で習ったのも女のパートだったし……」
視線を剃らして言い訳するデイビッドの姿が、まるで悪戯をした小さな男の子のようで、思わず吹き出してしまった。
「……しょうがないなぁ」
わざとらしく肩をすくませて、デイビッドの手を強く握る。
「私が教えてあげるよ、デイビッド。一から一でマンツーマンで」
……そんなデイビッドをかわいいと思ってしまうのだから、しょうがない。
貴族になるべく、完璧を目指しているデイビッドの、不完全な部分がいとおしい。
デイビッドは私の言葉に一瞬身を強張らせてから、わざとらしく溜め息を吐いた。
「……お前に教わるとか、屈辱的だな」
何それひどい! ここで、ツン出してくるか!?
「……だけど、そうだな」
あからさまにむくれる私に、小さく笑ってデイビットは握った手を、持ち上げた。
「――せっかくなので、ご教授お願いしマス。ルクレア・ボレア嬢?」
芝居がかった口調でそう言って、デイビッドはそっと私の手の甲に口付けた。
唇が触れた部分から、熱が全身に広がっていくのが分かった。
「……うん、いいよ。ルクレア・ボレアの名にかけて、私が完璧なダンスをデイビットに叩きこんであげマショウ」
――ああ、夜で良かった。どうしようもなく赤く染まった顔が、デイビッドにバレない。
「それじゃあ、まず基礎からおさらいしましょうか――ご主人サマ」
それでもきっと体中を広がるこの熱は、触れた部分から伝わってしまうだろうけど。
月夜のテラスでの、二人きりのダンス教室。
それは密かに夢見ていた状況ほど、美しくはない。
不器用で、どこか荒っぽいデイビッドのダンス。ダンスの技量なら、オージンの方がずっと上手だし、恐らく学園のほとんどの生徒がデイビットよりはましなダンスをするだろう。
だけど、そんなみっともないダンスが、踏まれて痛む足の甲が、それでもどうしようもなく、嬉しくて。
どうしようもなく、幸せで。
今まで数えきれないほどの数のダンスを、数えきれないほどの人達と踊ってきたけど、これほど楽しいダンスを、私は知らない。
思わず、締まりのない笑みが口元に浮かぶ。
「……なんだ、急に間抜けな面をして」
「いや……なんか楽しいなと思って」
私の言葉に、デイビッドは少し思案するように黙りこんだ。
「……ああ、そうだな。悪くねぇ」
ぶっきらぼうに言い放ちながら、デイビットは表情を隠すように月を見上げる。
「悪くねぇ、時間だ」
私もまた、デイビッドの視線を追うように、月を見上げた。
夜空に高く浮かぶ、まん丸の月が、どうしようもないくらいに綺麗だった。
――もう、否定できないな。
勘違いだなんて、ただのストックホルム症候群だなんて、そうやって自分を誤魔化すのはもう、限界だ。
「――月が、綺麗だね。デイビッド」
デイビッドが、好きだ。
どうしようもないほど、好きだ。
どうしようもないくらいに――恋をしている。
「? ああ、そうだな」
私の言葉の意味も知らず同意するデイビッドに、小さく笑いかけて、目を伏せる。
――だからこそ、ちゃんと向き合わないと、いけない。
私に月が綺麗だと言ってくれた、あの人と。
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