鬼の炎帝、妖の異界を統べる

くりねこ

文字の大きさ
10 / 10
ポップタウン

一反木綿

しおりを挟む
 謎の白い布のようなものが玲の首に巻き付き、そのか細い首を絞め上げる

玲「が……ぁ……!」
ミレ「玲さん!」

 ミレが咄嗟に薄紫色のダガーナイフを引き抜き、白い布のような何かを切り付ける
 しかし、白い布のようなものはひらりと暖簾のように身を躱し、斬撃が当たらない

ミレ「躱されたのにゃ!?」

 俺は咄嗟に近くにあった石ころを拾い、炎で包み込んで赤熱化させた
 
宝『そろそろ離れとけよ』
 
 さらに締めあげようとする謎の存在に対し、俺は赤に染った石ころを投げつけて弾き剥がす
 引き剥がされ、ひらりと翻った白い布がミレにも襲いかかる

ミレ「やばいにゃ……!」
玲「させないわよ」

 玲がそう言いながら、懐から南蛮銃を取り出す

ミレ「ビクッ」

 しかし、それを見て顔色が明らかに変わったのはミレの方だった
 ほんの少し目元が暗くなり、荒い呼吸を繰り返しながら、"私は大丈夫"と繰り返している

玲「っ……大丈夫?ミレちゃん」
ミレ「なんでも、ありませんにゃ」

 その言葉の震えと表情の硬さから、玲がミレの現状を分析する

玲心「私が南蛮銃を取り出してから、明らかに呼吸が荒くなった」
玲心「なんでかは分からないけど、銃に対してトラウマがあるみたいね」

 布のような何かは俺たちの前で、漂いながら滞空飛行を続けている

 〔『上妖』 一反木綿いったんもめん

玲「あの特徴、恐らく一反木綿ね」
宝『一反木綿か?』

 玲が軍刀を抜きながら説明を続ける

玲「一反の長さを持つ布の妖怪よ」
玲「人の周りに纏わりついては、その首を絞めて殺害することを悦としている妖怪」

 その時、一反木綿のしっぽに当たる布の部分が超高速で伸び始める

一反木綿[水妖術 布の籠シルクプリズン

 直後、十数本の布が俺たちを取り囲むように、一斉に伸びて襲いかかってくる

玲「やぁ!」
ミレ「にゃあ!」

 玲とミレの二人が各々の武器で襲いかかってきた布を1本ずつ切り裂く

宝『範囲拘束技か』

 地上に急接近した布のほとんどが、俺目掛けて一斉に襲いかかってくる

玲「宝殿!」
ミレ「ご主人様!」

宝『安心しろ、俺を誰だと思っている』

 俺の周囲を取り囲むように炎の陣を出現させる

宝『焼却させてもらうぞ』

 その言葉と同時に、陣を形成する炎が激しく燃え上がる

宝[火妖術  炎陣えんじん

 激しい炎を上げた陣が、襲いかかる布を一本も残さず燃やし尽くす

玲「あの技を、一撃で消し炭にしたのか……」
 
ミレ「あれ、強度だけなら純鉄の刀すら真正面から叩き折れるのにゃ……」
ミレ「何処まで規格外なのにゃ……」

 一撃で燃え上がる自身の布を前に戸惑う一反木綿に向けて、俺は炎の陣から飛び出す

宝『戦闘中に布の心配か?』
一反木綿「……!?!?」

 俺は、腕に灼熱の炎を纏わせて、拳を固める

ミレ「ご主人!そいつに物理攻撃は効かないのにゃ!」
宝『畝るから、だろ?』

 ミレの言葉に、俺は確信を得た声色で答える

宝『しなるから効かないなら、しなる暇を与えずに消し飛ばしてしまえばいい』
一反木綿「!!!」

 一反木綿が自らの布を燃やされた事で激昂し、先程まで繰り出していた布を一つにまとめ始めた

宝『最終奥義らしいな』
宝『だが、その程度が俺に通じるか?』

一反木綿「!!!!」
一反木綿[水妖術  鋭布刺槍えいふしそう

 直後、先端が槍のように鋭利になった布の束が俺目掛けて光速で飛んでくる

宝『なるほど、確かに岩熊とは比較にならないほどの出力だな』

 そう言いながらも、俺は近くに落ちていた棒状の石の塊を拾う

ミレ「何をするつもりなの……?」
玲「まさか、あの石の塊で一反木綿の奥義を打ち消そうというのか……!?」

 俺は飛んできた布の塊の側面に石の塊を滑らせ、刀に劣らない切れ味の刃物を作り出す

玲「あの速度の刺突を見切った上に、それを武器の研ぎに使ったのか?」
一反木綿「……キィィィィ!!」

 その光景を見た玲が絶句する奥で、一反木綿は怒りのあまり奇声を上げた
 そして、布の槍が直角に曲がって俺に襲いかかる

ミレ「ご主人!」
宝『一度見切った技を二連続で使用するとは』

 俺は研いだ石の塊を振り向き、布の槍を真正面から縦に引き裂く

玲「な……あそこまで正確に」

 光速で突っ込んでくる布の槍を、俺は一歩も動かずに真っ縦にかち割った

一反木綿「……!!!!」

 奥義を破られた一反木綿に、驚愕と絶望による致命的な隙が生まれる

宝『今回はあくまで偵察だが、敵は少ない方がいいからな』

 その致命的な隙を、俺が見逃すはずが無い
 その場の俺以外の全員が反応する出来ない速度で、一反木綿の懐を侵略した

宝『さらばだ、岩熊よりは退屈しなかったぞ』

 そのまま、一反木綿を鋭利に研いだ石の塊で縦に引き裂き、間髪をいれずに微塵切りにしてその息の根を断絶した

玲「な、なんと言うことだ、上妖クラスが勝負にもならなかった、だと」
ミレ「知っていたけど、何処まで無慈悲な強さなのにゃ」

 一方的としか表現のしようがない抹殺劇に、二人は目を見開いている

宝『他の上妖が居るかもしれない』
宝『追手も始末したし、ポップタウンに帰るぞ』

 俺が声をかけると、呆然としていた二人はハッとして、俺に着いてくる

宝心『あの一反木綿という妖怪、決して弱くはなかった、そして山童からはアイツ一反木綿以上の妖力を感じた』
宝『街に被害を出さずに襲撃してくるあいつらクラス四体を殲滅か、難しい戦いになりそうだな』

 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...