鬼の炎帝、妖の異界を統べる

くりねこ

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ポップタウン

傷跡の冒険者

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 朝になり目を覚ますと、隣で目をこすっているミレの目元に泣いた痕があった
 何か悪夢でも見たんだろうか

宝『ミレ、目元が赤いが、どうしたんだ?』
ミレ「あ、ご主人」
 
ミレ心「まさか、顔に出てたのにゃ?」

 それに対して、ミレは無理やり人懐っこいような笑顔を浮かべてこう言った
  
ミレ「な、なんでもないのにゃ」
 
 本人はそう言って元気に振る舞っているが、泣いていたということは恐らく何かがあったのだろう 
 だが、ここで深く聞くのはミレの心の傷をさらに抉ることになってしまう

宝『分かった、だがもし辛くなったら我慢せずに言うんだぞ』
宝『お前は、俺の大切な仲間だからな』

ミレ「ありがとうございますにゃ……」

 俺はミレと共にチェックアウトを済まし、その足でポップタウンの中心区に向かった

――――ホップタウン・商業区――――

 日が昇るホップタウンは、人々の賑わいと活気に満ち溢れていた
 おにぎり屋の看板娘の集客の声や、朝食を取る冒険者たちの声で街の商業区が喧騒に包まれる

宝『ミレ、何か食べたいものはあるか?』
ミレ「私にゃ?、ん~」

 ミレは少し考える仕草をした後、耳をぴこんと立て、目を輝かせながらこう言った

ミレ「川魚の塩焼きが食べたいのにゃ!」
宝『了解だ』

宝『魚屋は……』

 俺が周囲を見渡していると、肉屋の隣に大きな魚の看板を掲げた特徴的な出店が目に入った

宝『多分あれだな』

宝『俺が買ってくるから、ミレは噴水近くで待っててくれ』
ミレ「分かったのにゃ!」 

 ミレがパタパタと噴水の方に走っていくのを見届けた俺は、魚屋の方に向かった

 魚屋の店前には、アジやサバなどの青魚の塩焼きが並べられていて、川魚特有の野性味のある脂の匂いに加えて、香ばしい焦げの香りもしてきた

宝『美味しそうだな』

 俺が口を開こうとした、その瞬間だった。

柳一「川魚の塩焼き、三つ頼む」
 
 隣から重なるように声がして、視線を向ける
 
 詰襟姿の男、右頬に古い刀傷が一筋、年齢は俺より二つ三つ上か。風体といい、背負っている無骨な武具といい、只者じゃない 
 落ち着いた声に、妙に通る目をした男だった

柳一「アンタも、魚好きなのか?」
 
 少し間を置いて、男が話しかけると、俺は軽く顎を引いた

宝『あぁ、パーティメンバーに“この商業区の魚は焼きが絶品だ”と教えられてな』

 店主が会話に割り込むように、顔を上げて言った

店主「はいはい、川魚塩焼き、五つでいいね?」
宝『あぁ、頼む』
 
 俺が応じると、店主はすぐに会計をはじいた。

店主「じゃあ、650銭だよ」
 
 俺たちは目配せし合い、無言で財布を出す。自然と、半分ずつの325銭を差し出していた

店主「まいどあり~ほい、五匹分、焼き立てだよ」

 割り箸に突き通された塩焼きが香ばしい煙とともに手渡される
 塩がはじけた皮の匂いが鼻をくすぐり、腹の虫がひときわ大きく鳴いた

 二人で話しながら噴水広場の方へと向かう、どうやら行先はお互い同じようだ

宝『それじゃあ、一緒に食うか?』

 俺がそう聞くと、目元に傷のある男は目を細めながら答える
 
柳一「あぁ、アンタからは今まで感じたことの無い猛者の気配を感じる」
柳一「とても興味深い」

 噴水広場が見えてきた時、"おーい"と、男のことを呼ぶ男の声が聞こえてきた
 
 声のした方を見てみると、鉱夫のような服装の筋骨隆々の男が俺の隣の男を呼んでいた
 その隣には年は二つ上くらいであろう真面目な顔立ちの軍服を身に纏う女子がいた

ミレ「ご主人やっと帰ってきたにゃ!」
宝『少し面白そうなやつに出会ってな、遅くなってしまった』

 俺の言葉を聞くと、ミレは俺の後ろにいる男に気付き、少し身構えながらも俺の隣に座った
 その時、筋骨隆々の男が俺に話しかけてくる

野助「アンタが柳一が面白そうって言ってた奴か」
野助「オレは野助!こっちの傷の男は柳一で、真面目そうな軍服の女が玲だ!よろしくな!」

 野助の声は明るく、ミレも警戒心を解いたのか少し安堵したような表情になっている
 
宝『あぁ、俺は宝で、こっちはミレだ、よろしく』
柳一「よろしく頼む、宝、ミレ」
玲「よろしく、」
 
 そして挨拶もそこそこに、俺たちは買ってきた川魚の塩焼きにかぶりつく

ミレ「ん~、美味しいにゃ!」
野助「うめぇ!やっぱこれだよな」 
 
 食べるのが好きなのか、野助とミレはウマがあったらしく直ぐに仲良くなった

玲「あんまり急いで食べたら、喉に詰まるよ」
玲「はい、二人とも水」

 玲が竹筒の水筒に入っている水を渡す 

野助「おー!サンキューな!玲」 
ミレ「ありがとうございますにゃ!」

 俺たちは川魚の塩焼きをあっという間に平らげ、油の香ばしさと満腹感を腹に残したまま、冒険者ギルドへと足を向けた

 そしてギルドの談話室、仲間の玲と野助を交えて、ようやく本題に入る

柳一「上妖による襲撃、か?」
宝『あぁ、噂では冒険者が上妖と思われる陰を見たと、近いうちに発生すると断言している』

 その言葉に、柳一たちは顔を見合わせた、やはりといった表情
 驚きではなく、むしろ疑惑が確信に変わったような目だった

柳一「やっぱりか、俺たちもその件を追ってる」
玲「数日前、森の外れで“上妖と思しき影”を見たの、異様な気配だったわ」

 玲の報告を受け、柳一と野助が他の冒険者たちにも声をかけ、襲撃に備えて準備を始めていたという

宝『俺たちも、この街を守りたいと思っている』

 その静かな言葉に、野助が腕を組み直しながらうなずいた
 そして、柳一の方へちらりと目をやる

野助「なるほどな……つまりは、同士ってわけだ」

 柳一はわずかに口角を上げ、すっと手を差し出す

柳一「目的は同じだ。ここは共闘と行こう」
宝『あぁ、短い間だがよろしく頼むぞ、柳一』
柳一「こちらこそ、任せてくれ」

 静かに手と手が重なった瞬間、言葉以上の信頼が通じ合ったような感触があった

 こうして、柳一の一行と俺とミレは、迫る上妖の襲撃に備え、共同戦線を張ることになった
 
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