混浴文化推進計画

辰巳京介

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混浴文化推進計画

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      混浴文化推進計画


登場人物

カミラ・シュナイダー(33)
桃源物産株式会社、ドイツ支社から日本の営業1課へ赴任してきた女性課長。

ブルーノ・ブルーノ(28)
カミラと一緒に日本に来たドイツ人男性。

森川優愛(24)
桃源物産営業1課社員。

山本みゆき(24)
優愛の同僚。

杉山仁貴(33)
優愛の先輩。優愛が思いを寄せている。

谷口正雄(33)
杉山の同僚。


1.
私の会社、桃源物産株式会社、営業1課の新しい課長として、ドイツ支社からカミラ・シュナイダーさんが赴任してきた。彼女は、33歳の金髪の美人だ。
もう一人、カミラさんと一緒にやってきたのは、ブルーノ・ブルーノさん28歳、青い瞳のイケメンだ。
ドイツ支社での彼女らたちの手腕を日本でも生かそうじゃないか、という人事だろう。

早速、カミラさんは私たち営業1課の社員の前で、話し出した。
彼女は日本語が堪能らかった。
「営業1課のみなさん、はじめまして。本日付でこちらに赴任してきました、カミラ・シュナイダーです。どうぞ、よろしく」
私たちは、新しい課長に拍手をした。
「みなさん、突然ですが、業績を上げる最大のポイントは何だと思いますか?」
私たちは黙って彼女の発言を待った。
「それは協調だ、と私は思います」
私たちはうなづいた。
「夫婦のように、家族のようにお互いがお互いを気遣う。そんな風に誰もが振舞える、そんな課が私の理想です」
一同から拍手が起こった。

「ところでみなさん、話は少し変わりますが、ドイツのサウナをご存じですか?」
みな、不思議そうな顔をして周りを見渡した。
「ドイツのサウナは、日本のものとは、少し違います。」
私たちは、ますます首をかしげた。
「えーと、ドイツのサウナは、男女混浴です」
「えー!」
私たちは、声を上げた。
「そこには、家族、友人同士だけではなく、会社の同僚とも男女で行きます。裸同士で仕事の話をするんです」
私たちはみんな驚いたが、彼女の次の一言にさらに驚かされた。
「私は、営業1課にも、このドイツの文化を浸透させたいと考えています。名付けて、『混浴文化推進計画』です。とりあえず有志を募って、混浴の温泉に行きましょう。みなさん、特に女子の方、奮ってご参加くださいね」
そういうと、彼女はニコッと笑った。

2.
「どうする? 優愛、カミラさんあんなこと言ってたけど、計画に参加してみる?」
「ムリムリムリムリ。ここの男子社員に裸見られるなんて、ゼッタイ無理」
「でも、杉山さん乗り気だったよね」
「えっ、そうなの?」
「あの後、カミラさんにしきりになんか話しかけてたもん」
「そーなんだあ」
「優愛、杉山さんとなんとかして距離縮めたいって言ってたよね」
「・・・うん」
「一緒にお風呂入れば、間違いなく距離、縮まるんじゃない?」
私は、黙り込んでしまった。

3.
会社のハイエースで、うちの会社の箱根の保養所に向かったのは、カミラさん、ブルーノさん、それから杉山さん、谷口さんと私たち二人。男女3名3名だ。
「みなさん、混浴は初めてですか?」
ブルーノさんが言った。
「当たり前です。日本では7歳を越えたら夫婦、恋人以外の男女は別々に風呂に入るんです!」
谷口さんが向きになった。
「ドイツでは本当に男女混浴が一般的なんですか?」
杉山さんが聞いた。
「はい、ドイツ中にそういうサウナ、いっぱいありますね。すごい人気です」
「あの、カミラさん?」
私はずっと聞きたかったことを聞いてみることにした。
「あのぉ、男性と一緒で、その、はずかしくないんですか? 裸を見られるわけですし・・・」
すると、カミラさんはすかさず、
「逆に私は日本の女性にお聞きしたいです。何で、そんなに裸を見られるのをはずかしがるんですか?」
「何ではずかしいのかって言われても・・・」
私は口ごもった。

4.
箱根の保養所はなかなか豪華だった。
「わあ! きれいな露天風呂!」
部屋に入ると、みゆきがガラス戸に駆け寄った。
「じゃあ、早速入りましょうか」
カミラさんはそう言うと、私たちや男性たちの前で、さっさと服を脱ぎ始めた。
ブルーノさんも裸になり、そそくさと湯船につかった。
「さて、僕らも入るか」
「そうだな」
日本人男性陣もドイツの二人に続いた。
「さあ、優愛、勇気を出して、私たちも入るのよ・・・」
「う、うん」
そうは言っても、やっぱり、はずかしい。

私たちがタオルを巻いて中に入ると、杉山さんと谷口さんがすかさず反応した。
すると、カミラさんが言った。
「そうやって、反応するから、女性がはずかしがるんですよ。ブルーノを見てください」
みると、ブルーノさんは私たちには全く無関心に景色に見入っている。
「女性を恥ずかしがらせるのは、男性の視線なんです」
「そうなのか」
杉山さんは納得したようだ。
「谷口さん、女性の裸を見て、いちいち興奮しないでください」
「無理言わないでください! 興奮しますよ」
谷口さんが言い、みんな笑った。

5.
風呂上がりのビールがとてもおいしかった。
食事中も、みんな、楽しそうに笑っていた。
「これで、僕たち6人は、もう、家族ですね」
杉山さんが言うと、
「恋人や夫婦じゃなくても、一緒にお風呂に入ると、何かが変わります。これは、間違いありません」
カミラさんはそう言った。
私は、何ていうか、相手への警戒心がなくなり、安心感が増したような気がした。



混浴文化推進計画 終わり


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