Fairy Song

時雨青葉

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第1歩目 出会い

五つの種族

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「……はぁ。あの人も、よく飽きないな。」


 彼らの声が十分に遠退とおのくまで待ち、シュルクは溜め息をついて肩を落とした。


「ほんとよね。でも、さっきのシュルクかっこよかったわよ。さらっと話の主導権を持ってって、その上あんな面白いもの見せてくれるなんて。」


「そうでもしないと、今頃お前とエルトが取っ組み合ってただろうが。」


「あははー…」


 ルルンは空笑いを浮かべて、明後日の方向に視線を逸らす。


 エルトもルルンも、手だけは人一倍早い。


 取っ組み合いの喧嘩で済めばまだ可愛いげがあるが、この二人はそのうち霊神召喚まで使いかねないから厄介だ。


 互いに手を焼く猛獣を管理しているという共通点から、実のところニールとはよく食事に行く仲だったりする。


 いやはや。


 ルルンとは幼馴染みなのでこうなるのも自然の流れなのかもしれないが、自分としては猛獣使いの名を手にするつもりなどなかったのに。


「そ、それよりさ!」


 気まずくなったのか、ルルンがいやにトーンの高い声で身を乗り出してきた。


「シュルク。ロアヌ語なんて、いつの間にそんなペラペラになったの?」


 とにかく話を変えたいという魂胆が丸見えだが、突っかかる理由もないので、素直に乗っかってやることにしよう。


「最近、父さんや母さんがロアヌ族の人ばっか家に連れてくるんだよ。違和感なく話せるようになったのは、そのせいだな。」


「そうだったんだ。おじ様もおば様も、今はロアヌ担当なの?」


「らしいな。」


 シュルクは頷く。


 この世界に住む人々は操る言語の違いから、自分たちティーン族の他、ロアヌ族、ガガール族、ペチカ族、ナナリア族の五種族に大別されている。


 そして、それぞれの言語圏を一つの国として王家が取り仕切っている。


 とはいっても、運命石が皆の人生を左右する世界だ。
 下手に争いを起こさないため、それぞれの王家は強い協力関係を維持している。


 五つの国が独立しているというよりは、五つの種族を代表する王家が協力して、一つの世界をまとめているという表現がより正確だろう。


 そんな背景を持った世界で、自分の両親は通訳という大変重宝される職に就いている。


 運命の相手を捜すために、集会所や町の案内所にはたくさんの人々が集まる。
 もちろん、扱う言語も様々だ。


 旅人の全員が全ての言語に堪能たんのうというわけではないので、三種族以上の言語をマスターしている人材はとにかく頼られる。


 どこの集会所や案内所でも、通訳が喉から手が出るほど欲しいという状況なのだ。


 自分の両親は、二人揃って全言語マスターの超優秀通訳。
 おかげで毎日、様々な集会所や案内所を飛び回っている。


 一応今はロアヌを主に担当しているようだが、全言語マスターに担当もくそもないだろう。


 そんな両親を持った自分は、物心ついた頃には全ての言語を聞き取れるようになっていた。


 そして、仲良くなった人をほいほいと泊める両親のおかげで、最近は自然と会話の方もマスターしつつある。


 グレーが自分を集会所に繋ぎ止めておきたい理由の一つがこれだ。


 集会所を経営しているだけあって、グレーもルルンも語学には堪能たんのうなのだが、さすがに全言語とまではいかないらしい。


 そんな二人のフォローをできるのは、今のところ自分だけである。


 集会所の金銭管理に、通訳のフォロー。
 この二つを担っているせいで、グレーもルルンも自分には頭が上がらない。


 そして、こういう評価がまた余計な反感を買うわけだ。


 あんな両親を持てば、嫌でも言語は頭に入ってくる。
 集会所の金銭管理も、ほとんど感覚で覚えたに過ぎない。
 こんな毎日を過ごしていれば、頭の回転だって自然と早くなるものだ。


 それをコネだなんだと理由をつけてののしられても、こちらとしては馬鹿らしくて言い返す気力も起こらない。


 生まれた環境をうらやんでいる暇があるなら、それを羨まずに済むくらいの何かを得る努力をすればいいのだ。


 環境がいくら恵まれていたとしても、だからといって心が満たされるわけではないというのに……


「………」
「シュルク……」


 黙ったシュルクを見つめ、ルルンが眉を下げる。


「気にしちゃだめよ、あんな馬鹿が言ったことなんて。シュルクの努力は、あたしもパパも知ってるんだから。」


 ルルンがなぐさめるように肩を叩いてくる。
 そんなルルンの気遣いを感じながらも、シュルクは黙り込むことしかできなかった。


〝分かっている〟


 その言葉は、音にならなかった。


 分かっている。
 仕方ないのだ。


 自分が落ち零れなのも。
 ルルンやグレーが自分をかばってくれるのも。
 エルトが八つ当たりのように絡んでくるのも。


 仕方ない。
 仕方ないのだ。




 ―――




「ありがとな。俺のために怒ってくれて。」


 今は、そう言うことでやっとだった。

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