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第5歩目 欠片
不思議な人
しおりを挟む『お前はなんにも悪いことしてないんだ。堂々としてろ、この馬鹿!!』
彼の言葉が、まだ昨日のことのように耳にこびりついている。
柔らかい日差しが差し込む窓辺で微睡んでいたフィオリアは、ぼんやりと目を開いた。
小屋の中には、自分以外の気配はない。
どうやら、シュルクはまた外に出かけてしまっているようだ。
それに、ちょっとだけほっとした。
シュルクに怒られたあの日から、ずっと考えてしまう。
―――自分という存在について。
ルルーシェの過ちはルルーシェの責任であって、フィオリアにはなんの責任もない。
痛いくらいにまっすぐな眼差しで、シュルクはそう言った。
そんなこと、考えたこともなかった。
気付いた時には自分とは違う色んな記憶があって、母であるリリアから憎しみの目を向けられてきた。
そして自分は、それが当然のことだと思って疑ったこともなかった。
過ちを犯したのは自分だから。
これはその報い。
逃げることは許されない。
それが自分の気持ち。
でも、シュルクはそんな自分に向かって〝それは違う〟とはっきり言った。
お前はフィオリアとして生まれたのに、ルルーシェとして生きているんだと。
そう言って、今までの自分には全くなかった価値観をくれた。
本当に、そんな風に考えてもいいのだろうか。
ルルーシェとしての記憶は、もはや自分の一部だ。
だから、当然のように罪の意識を背負ってここまで生きてきた。
でも……本当は、それが全ての間違い?
自分はフィオリアだ。
ルルーシェの記憶を持っていても、決してルルーシェ本人ではない。
だから、自分が罪の意識を感じる必要も謝る必要もない。
きっと、シュルクはそう言いたかったのだろう。
本当に、そんな風に生きることが許されるのだろうか。
ルルーシェとしての記憶とは過去のものとして、自分は自分として生きていいのだろうか。
それは、自分の罪から逃げることにはならないのだろうか。
思考の泥沼から抜け出せない。
こんな風に悩んでいる姿を見られたら、またシュルクを怒らせてしまうだろう。
「………」
なんだか、不思議な人。
いつもちょっと不機嫌そうで、自分には厳しいことしか言ってこない。
態度もどこかよそよそしいし、実際に避けられていることは分かっている。
彼は、自分のことなんて嫌いなのだろう。
でも、優しい人だ。
そして、とてもまっすぐな人。
自分と同じように生まれ持ったものに苦しめられながら生きてきたのに、彼は自身を責める道も他人を責める道も選ばなかった。
彼が選んだ第三の道は逃げ道がなくて、つらくて葛藤ばかりの道だと思う。
でも、彼はそれを乗り越えて今ここにいる。
だからきっと、あんなにも強くてまぶしく見えるのだろう。
フィオリアはそっと吐息をつき、静かに椅子から立ち上がった。
小屋を出て、そよ風が心地よい森の中をのんびりと歩く。
特に何も考えず、ただ感じたままに木々の間を進んだ。
ほどなくして、捜していた姿を見つける。
何故だろう。
なんとなく思った方向に歩いていくと、不思議なことにシュルクの元に辿り着くのだ。
彼を捜そうとして迷ったことは一度もない。
いつもこうして、最短時間で彼を見つけることができる。
まるで、導かれているかのように。
これも、運命石の力なのだろうか……
フィオリアは服の胸元を握り、ゆっくりと頭上を見上げた。
空中に浮かんで目を閉じているシュルク。
あれで本当に眠っていると言うのだから、かなり器用だなと思う。
気を抜いて眠っているらしい。
宙に浮かぶシュルクの周りには、霊子が集まってきていた。
霊子が木々の隙間から差す日の光に反射している様は、キラキラと雪の結晶が舞っているよう。
とても綺麗で、神秘的な光景だ。
(これが、恵み子ってことなのかしら……)
フィオリアは、表情を緩めてシュルクの姿を見つめる。
恵み子が霊子に祝福された存在だと言い伝えられている理由が分かる。
こんな風に霊子をまとっている姿には、確かに祝福という言葉がピッタリだ。
シュルク本人からしたら、皮肉に他ならないだろうけど。
―――ガサッ
微かな音が聞こえたのは、その時のこと。
野生動物か何かが近くを通りがかったのかと思った。
だが、すぐに違うと思い直す。
下草を掻き分ける音がいくつも聞こえてくる。
そんな音に紛れて、微かな話し声も。
その瞬間。
「―――っ」
フィオリアはとっさに飛び上がって空中で漂うシュルクの服の袖を掴むと、彼を地面に向かって引き寄せた。
「うっわ!?」
素っ頓狂な声をあげるシュルクを地面まで引きずり下ろし、フィオリアはシュルクの上に覆いかぶさって身を低くする。
「な、なんだよ!?」
「静かに!」
フィオリアは慌ててシュルクの口を塞いだ。
「誰か来たみたい。もしかしたら、城の人かも。」
フィオリアの言葉に、大きく目を見開くシュルク。
その瞳が冷静さを取り戻していくのは、あっという間のことだった。
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