Fairy Song

時雨青葉

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第5歩目 欠片

女王の動揺

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「―――本当に、あなた方は悠長ですね。」




 聞くのが久しい声。
 しかし、この場においては最も聞きたくない声。


 それが、空洞内に響いた。


「!?」
「おっと、動かないでください。」


 とっさに動こうとした瞬間、首筋に鋭い痛みが走る。


 まばたき一つの間に突きつけられた、冷たい感触。
 それが刃物であることを察するのは、簡単なことだった。


「あなたに暴れられると困るんですよ。。」


 たくさんの人々が駆けつけてくる音と、人々が持つ篝火かがりびで明るく照らされる空間内。


 ゆらゆらと揺れる灯りに照らされながら、槍を構えたヨルは冷たい目でシュルクを見下ろしていた。


「………っ」


 シュルクは険しい表情でヨルを睨み、さりげなくフィオリアを自分の背後にかばう。


「あらあら、随分と仲良くなったのね。」


 ヨルの背後から聞こえた別の声。
 それに、フィオリアが大きく肩を震わせたのが分かった。


「捜すのに苦労したわよ? 一度は、城の捜索隊を振り切ってみせたそうじゃない。可愛い坊やだと、甘く見ていたわ。」


 ヨルの隣に立ったリリアは、あやしい笑みを浮かべた。


 これは、本格的にまずい状況だ。


 少しでも動けるならいくらでも機転はくが、ヨルの警戒には隙がない。


 抵抗する素振りを見せようものなら、殺されるまではしなくとも、腕くらいは切り落とされるかもしれない。


 それほどまでのすごみと殺気が、彼にはあった。


「シュルク……」


 フィオリアが、泣きそうな声で名を呼んでくる。
 背中にしがみつくフィオリアに、シュルクは何も答えることができなかった。


 生憎あいにくと、こっちはこっちで背水の陣である。
 彼女の不安を取り去ってやる余裕はない。


「ふーん。なるほどね……」


 シュルクたちの様子をうかがっていたリリアが、くすりと笑みを深める。


「あなた、結構無理をしてるんじゃない?」
「………」


「そうよね。あなたにとっては、とんでもない迷惑だものねぇ?」
「………っ」


 こらえようと思ったのに、無意識に体が震えた。
 それは、リリアの指摘に否と言えない自分がいる証拠。


「うふふ、正直な子って好きよ。可愛い子。」


 甘い声で囁き、リリアはシュルクの前に腰を折る。


 もったいぶるように、ゆっくりと伸ばされた細い手。
 それがトリガーになって、脳裏に記憶がひらめく。


 狂気的な笑みをたたえ、ナイフを手に迫ってくるリリアの姿。
 そして、血にまみれた自分の姿。


「―――っ」


 リリアの手をぎ払っていたのは、無意識での行為だった。
 その拍子に、自分の右手が彼女の手に触れる。


「!!」


 リリアとシュルクは、大きく目を見開いた。


「あなた……何を持っているの?」


 弾かれた手を押さえることもせず、リリアは茫然とした様子でシュルクに問いかける。


(なんだ…?)


 シュルクは右手を見下ろす。


 右手が―――右手の中のものが、熱を持って震えている。


 リリアがあんな顔をするということは、彼女もこの欠片かけらに何か感じるものがあるのだろう。


 静かに手を開くと、欠片が先ほどよりも明るい光を放っていた。
 それを見たリリアが、ハッと息を飲む。


「それ……わ、渡しなさい!」
「!?」


 血相を変えたリリアがシュルクに飛びかかろうとし、それに驚いたヨルの槍がぶれてシュルクの首から離れる。


 これはチャンスだ。


 シュルクは一瞬で思考を切り替え、背後のフィオリアを抱いて地面を転がった。


「あなた、一体それをどこで!?」
「リリア様、落ち着いてください!!」


 すっかり取り乱した様子のリリアを、ヨルが槍を捨てて止めに入った。


「ヨル!」


「ご無礼をお許しください。ですが、今は時間がありません! 急がないと、邪魔者が―――」


「おーおー。邪魔者ってのは、オレたちのことかい?」


 聞き馴染んだ声が響いたのと同時に、湖の対岸方向で大きな爆発音がとどろいた。

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