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第8歩目 山中にて待つ者
思わぬ共通点
しおりを挟む「リューリュー山ってのは、基本的に資格を取った奴しか入れないくらい危ない山なんだけどさ。誰の手も入ってないからこそ、かなり貴重な素材や原風景があるってのは、有名な話じゃん?」
研究者としてのルーウェルの話は、そんな出だしから始まった。
「ああ、そうだな。」
これはセニアでリューリュー山を調べた結果と一致しているので、シュルクも一つ頷いてルーウェルを肯定する。
「実はリューリュー山の中でも、ガガール方面はガスの濃度が他に比べて極端に薄いんだよね。だからこの辺には、ティーンとかロアヌからの調査団もよく来るわけ。それでガガールの内部では、どうにかしてこっち側を観光者向けに広く解放できないかって計画があがってるんだ。」
「へぇ…」
「でもさ!」
そこで突然ルーウェルが机を叩いたので、シュルクは思わず目を丸くしてしまう。
「オレが所属してる研究室の室長が、その計画の専門家チームにいてさ。この間こっそりと調査報告書と計画書を見たんだよ。そしたら、内容がほんっとにひどくてさ!!」
「お、おう……」
ルーウェルの言葉にこもる熱量が、一気に高まる。
「あんなんじゃ、観光地化するまでに軽く十年はかかっちまうよ。安全対策も全然練られてないし、気象予測体制もガバガバ。それ以前に、この山のことを全然理解してないんだ!! みんな、観光地化された後の収益のことばっか考えて、今ってものをちっとも考えてないわけ。どうよ! 腹が立つったらないだろう!?」
「あ、ああ…。そ、そうだな。」
ここはとりあえず、こいつに合わせておけ。
これまでの経験からそう判断。
こういった研究者気質の相手をする極意は、とにかく異を唱えずに、相手が満足するまで聞きに徹すること。
とっさにでも〝違う〟とか〝分からない〟とか言おうものなら、その瞬間に話の長さが倍になってしまう。
「だからもう、オレがやってやろうと思って。実は、頂上への安全ルートの道筋は九割くらい構想ができててさ。どのポイントにどんな施設を置けばいいかも大方見当がついた。どのタイミングならどこへ行けるかも図表化できると思う。」
自信満々に告げたルーウェルは、そこで悩ましげに唸る。
「ただ、やっぱ自然が相手だからなぁ…。想定外ってのはどうしてもついて回るし、どんな条件下なら緊急事態が起こる可能性が高いのか、いざ緊急事態が起こった時にどう対処するのかっていうところの詰めが甘いな。この辺りはさすがに地質学だけじゃカバーできないから、他の知識を勉強中なんだよね。前に読んだ論文の見よう見まねで定点観測点は置いたから、しばらくはデータとのにらめっこだと思うんだけど、もっと効率のいい方法はないもんかと―――」
「待った。お前、それ一人でやってたのか?」
聞いているだけで眠くなりそうなことをつらつらと並べるルーウェルに、思わずそう訊ねる。
「うん。だって、他の奴がいても邪魔なだけだし。」
答えは、なんともシンプルだった。
これが、俗に言う天才というやつか。
きっとこういう奴が、本来なら百年かかる進化を数年で実現させてしまったりするのだろう。
それにしても、こうもはっきりと他人を邪魔だと切り捨てるとは……
「お前ってさ……構ってもらいたがるくせに、根っこはぼっち属性なんだな。」
すっきり納得だ。
今までルーウェルが一人だったのは、単に性格がひどかっただけではなくて、こういう一面もあってのことだったのだろう。
きっと彼も自分と同じで、見えている世界も物事を見据える角度も、他とは一線を画しているのだ。
「なんだかなぁ……」
思わぬところで自分とルーウェルに共通点を見つけてしまい、胸中はますます複雑になる。
おそらく、ルーウェルの周囲にいる奴らは、彼と話すことで自分が彼より劣っていると痛感するのが嫌だったのだろう。
能力を比べる以前に、ルーウェルの様子を見る限りでは、同じ研究者の中に彼の理論についていける者がいたとも思えない。
色んな意味で、ルーウェルは手のつけられないタイプだったということか。
「そ、そんなに何度も、オレが一人だって強調するなよ! 傷つくだろー。」
「だったら、少しは言葉を選んで話せ。お前の無意識は、他人を遠ざけるんだよ。」
「………?」
「まあ、ようやく謝るってことを覚えたお前には、過ぎた要求だ。これ以上は言わないでおく。で? お前なら、ここを解放するまでに何年かかる目算なんだ?」
突っ込まれる前に、話を元の方向へと修正する。
「ただ解放するだけなら一年。きちんと収入を得られるようにするなら二年かな。」
他の研究者が聞いたら卒倒しそうなことを素で言ってのけ、ルーウェルはにこにこと笑った。
「楽しみだよなぁ。山の景色を知ってるのって一部の奴だけだったから、もったいなくてさ。他の奴にも、早くこの綺麗な景色を見せてやりたいよ。」
そういえば、ルーウェルは何かを発見すると、とにかくそれを誰かと共有したがる傾向が強かった。
自分もそうだが、セルカやランディアもルーウェルの発見物語をよく聞かされるはめになっているのを思い返す。
普通、特別というものほど自分の内に隠して優越感に浸るものだと思うが、彼の思考はそうではないらしい。
「ほんと、理想だけはすっごく善人なのに、なんで性格があそこまでクズだったんだ?」
素朴な疑問を一言。
素朴故に攻撃力がものすごかったのか、それを聞いたルーウェルは顔を歪めて胸を押さえた。
「だ、だって……みんな何も言ってこないし、オレの言うとおりに動いてくれるから……あれでいいんだと思ってたんだよ!」
「あれだけ煙たがられてるのに気付かないって……」
「あの時は、それが嫌われてるって意味だなんて分かんなかったんだよ! ムカつきはしたけどさ!」
「でも、お前は周りが嫌いじゃなかったわけだ?」
「だって、一人は寂しいじゃん。みんなオレの言うことは聞くけど、オレの話は聞いてくれないから……それもあって、この研究を始めたんだよね。早く山を解放してこの街がもっと賑やかになれば、みんなオレのことをもっと褒めてくれるんじゃないかって。」
「結局、お前の行動は全部そこから始まるのか。」
シュルクは肩を落とす。
最初こそどうしようもない横柄野郎だと思ったが、ひっくり返してみれば、中身はただの構ってちゃんだったというわけだ。
自分がこってりと絞った後は別人のように大人しいと聞くし、最近は感謝されることに気分をよくしてか、善行がいきすぎているらしい。
別の意味で、頭が痛くなってくる。
この間、ランディアもぼそりと零していたが……
「お前……変に持ち上げられて、騙されたりすんなよ?」
新たな問題点はそれだろう。
「どういう意味だ?」
「親にでも訊け。俺はそろそろ出る。」
話してもすぐに理解してもらえるとも思えなかったので、シュルクは早々に話を切り上げ、小屋を出ることにした。
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