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第13歩目 こじれた絆
夢に誘う獣
しおりを挟む「夜明けか……」
後ろを振り向くと、東屋の遥か向こうに見える水平線から、まぶしい朝日が顔を出し始めていた。
シュルクはフィオリアを連れて数歩移動し、日の光が進む先を邪魔しないようにする。
低く射し込んだ光は、狙いすましたように橙水晶を照らす。
橙水晶は光を受けてキラキラと輝き、そこから反射した光が橋の上へオレンジ色に揺れる水面のような模様を映し出した。
「―――っ!!」
その瞬間、場の空気が刹那にして変わった。
「シュルク、どうしたの?」
顔を青くして口元を覆うシュルクに気付いたフィオリアが、その腕を小さく引く。
しかし、シュルクが口を開くよりも前に、大きな地震がその場を襲った。
あまりの揺れの大きさに、全員が地に手をつくことになる。
それと同時に、地面の上で揺れていたオレンジ色の光から、さらにまぶしい光が湧き出してきた。
「………っ。すごい量の霊子だ。」
シュルクは呻く。
地面に映ったオレンジ色の水面から、霊子が湧き水のように湧いてくる。
一体、何が起こったというのだ。
未だに収まらない地震のせいで動くこともままならず、ただ目の前の異常な光景に圧倒されるだけの時間が流れる。
地面に片膝をついて揺れをやり過ごしていると、銅像の手に収まっていたはずの橙水晶が、その手からぽろりと落ちた。
「あっ…」
転がってきた橙水晶の一番近くにいたフィオリアが、条件反射でそれに手を伸ばす。
「拾うな!!」
本能的な危機感からとっさにそう叫ぶも、橙水晶はすでにフィオリアの手の中。
それがきっかけとなり、フィオリアの後ろで、霊子が驚くべきスピードで凝縮していくのが見えた。
完全には間に合わない。
そう感じながらも、シュルクはフィオリアを抱いて前方へと跳ぶ。
―――――――ッ
背後から響くのは、けたたましい獣の咆哮。
その雄叫びが鼓膜を貫いたかと思うと、フィオリアをかばった左腕で鋭い痛みを伴った灼熱が爆発した。
「きゃっ…」
シュルクと共に地面に倒れたフィオリアの手から、橙水晶が転がっていく。
「つっ…」
「シュルク!!」
フィオリアは顔を青くする。
痛みに顔を歪めるシュルクの二の腕から、赤い色が広がっていくことに気付いたのだ。
「シュルク! ねえ、シュルク!!」
「だい、じょうぶだから……下手に、動くな。」
取り乱すフィオリアを背にかばい、シュルクは後ろに目を向ける。
そこには、射し込む暁と同じ色をした一匹の獅子がいた。
獅子の周りに漂うのは、おびただしい量の霊子。
「こいつがドリオンか……」
さすがに、この展開は予想外。
先ほど初めて存在を知ったような霊神に対抗する術など、こちらは持ち合わせていないぞ。
ならば、どうやってこの窮地を切り抜けるべきか。
痛む左腕を押さえ、シュルクはドリオンに厳しい目を向ける。
「………?」
ドリオンと目を合わせ、最初に抱いたのは違和感だった。
こちらを見やるドリオンの目には、一切の敵意がなかった。
ドリオンはただそこに佇むだけで、これ以上の危害を加えようとする様子もない。
「………」
シュルクは思わず、自分の胸の辺りを握り締める。
なんだろう。
さっきから、心臓がばくばくとうるさい。
どうしようもなく引き込まれるような、抗いようもないあの感覚が全身を支配する。
ドリオンはしばらくシュルクを見つめ、ふと朝日の方を一瞥すると、その場から踵を返した。
「待て!!」
その後ろ姿を追いかけようと、一歩前に踏み出す。
しかし、その一歩を踏み出した瞬間、大きく視界が揺れた。
「!?」
平衡感覚が保てなくなるような眩暈の中、シュルクは自分の膝に手をつき、もう片方の手で片目を押さえた。
今度は、何が起こっているのだろう。
今自分が立っているのは、周囲を池に囲まれた橋の風景のはず。
それなのに、その橋に重なるようにして、別の橋が見えるのだ。
周囲に広がる池も、眩暈で視界が歪む度に、奈落のような暗闇に染まる。
まるで、二つの風景を高速で交互に見せられているような。
そんな気持ち悪い感覚。
目まぐるしく切り替わる景色の向こうで、ドリオンが静かに自分を見つめている。
―――ドリオンは、自分が橋を渡ってくるのを待っているのだ。
そんな気がして、身も心も引き寄せられてしまう。
「シュルク!!」
また一歩踏み出そうとしたシュルクを、その腕にしがみついたフィオリアが必死の形相で止めた。
「動いちゃだめ! すっごい血が出てる!!」
「大丈夫、だって……」
「だめだって!! ふらふらじゃない! ドリオンもいなくなったし、今日は早く戻ろう! ニコラさん、お医者様って呼んでもらえますか!?」
「はい、すぐに!!」
ニコラが何度も頷いて、屋敷の方へと走っていく。
フィオリアたちの忙しない会話を聞きながら、シュルクはより一層顔を歪めた。
ドリオンがいなくなった…?
そんな馬鹿な。
それなら、今自分の目に見えているドリオンはなんだというのだ。
重なる二つの世界で、悠然と佇むドリオンの姿が見えてはかすれて、かすれては見えてを繰り返す。
ああ……
気持ち悪くて仕方ない……
「……くっ…」
「シュルク!!」
世界がゆらゆらと揺れる中、フィオリアの泣きそうな声だけが木霊していた。
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