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第14歩目 ぶつかり合う感情
まさかのヤキモチ
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銅像が笑っている。
それが、あの銅像たちを観察した時に抱いた一番の違和感だった。
ミシェリアはこちらが言いたいことを察しようと一生懸命なのか、コツコツとペンでノートをつつきながら、じっくりと考えている。
まあ、ああいう美術品に抱く所感は人それぞれ。
彼女と自分の所感が簡単に一致するわけがないだろう。
シュルクはもったいぶらずに、自分の思うところを記すことにした。
〈南側と北側の銅像の顔は、それぞれ喜怒哀楽を表してるようでした。迷夢に引き込まれて悲しんだり怒ったりするのは分かるんですけど、なんで喜んだり楽しんだりするのか…。その理由を考えたら、なんだか複雑な気分になりましたね。〉
記したとおり、その顔に複雑そうな笑みを浮かべるシュルク。
〈迷夢に囚われた方が、幸せな人もいる。そういうことなんじゃないですかね。おそらく、ドリオンがよく見られた頃は、自分からドリオンに襲われる人もいたんでしょう。もしくは、あの銅像を作った本人が、迷夢に憧れでも持っていたのかもしれません。〉
迷夢に囚われた者は、二度と現実に戻れない。
だが、迷夢が地獄だと、誰が断言できるだろうか。
誰も知らないが故に、迷夢の世界は天国にも地獄にもなりえる。
現実に疲れている者にほど、迷夢の存在は蠱惑的に見えたことだろう。
……皮肉なことだ。
羽をはためかせて自由に飛び回るよりも、羽を失って夢から目覚めない方が幸せとは。
(まあ……夢の中の方が自由でいられるってことも、あるのかもな。)
自分には完全に理解できないが、きっとそんな人がいるのも事実で。
そしてそんな人がいたからこそ、あんな作品が出来上がったのだろうと思う。
「………」
シュルクは、文字を書くことをやめて何かをじっと考え込んでいるミシェリアを見つめる。
現実よりも、一生抜け出せない夢の方がマシだなんて……
(好きなら、この人にそんな悲しいことを思わせるんじゃねぇぞ。ヒンスさんよ。)
フィオリアは尊敬できるほどに我慢強いが、限界が来たら喚いてくれるから、まだ救いようがある。
だが、ミシェリアはどうだろう。
身分をコンプレックスとしている彼女は、屋敷の誰にも自分の心を吐き出せずにいる。
かといって、屋敷の外に逃げることは、ヒンスの立場を慮ってできないのだろう。
そんな彼女が限界を越えたら、どうなってしまうのか。
願わくは、それが彼女の命を脅かすような事態にならなければいいけど……
ガタン、と。
椅子を引く音が聞こえたのは、その時のことだった。
「フィオリア?」
突然立ち上がったフィオリアに、シュルクは不思議そうに首を傾げる。
「私、自分の部屋に戻る。」
そう言うや否や、フィオリアはすたすたとドアへと向かっていってしまう。
「お、おい! 何怒ってんだよ!?」
彼女の口調からそれだけを感じ取り、シュルクは離れていくその背に声をかける。
フィオリアは、半身だけをこちらに向けて……
「別に、怒ってないもん。私がここにいてもお邪魔みたいだし、どうぞごゆっくり!」
つんと顔を背けて、部屋を出ていってしまった。
「え……は……ええ…?」
まるで聞く耳を持たないというような、彼女らしくもない態度。
ただ分かる。
今までの経験上、あの態度はどう見ても―――
「え、ちょっと待って。あれでヤキモチを焼くの…?」
そういうことだよな?
「えっ? ヤキモチって……あら大変!」
シュルクの言葉で事態を把握したミシェリアは慌てて立ち上がると、フィオリアを追いかけていこうと駆け出す。
「ああ、待った! それは、余計にややこしくなるから―――」
呼び止めるも時すでに遅く、開閉するドアの音が虚しく耳朶を打つだけ。
「マジか……めんどくせぇ……」
シュルクは頭を抱えた。
ミシェリアには懐かれ、ヒンスには敵意を向けられ、その上フィオリアにはヤキモチを焼かれ……
これだから、この屋敷に長くいたくなかったのだ。
いいことなんてありやしない。
しかし、一刻も早くここを離れたい気持ちとは裏腹に、肝心の運命石が見つからないときた。
頼むから、これ以上事がややこしくならないでほしい。
深くうなだれ、切に願うシュルクだった。
それが、あの銅像たちを観察した時に抱いた一番の違和感だった。
ミシェリアはこちらが言いたいことを察しようと一生懸命なのか、コツコツとペンでノートをつつきながら、じっくりと考えている。
まあ、ああいう美術品に抱く所感は人それぞれ。
彼女と自分の所感が簡単に一致するわけがないだろう。
シュルクはもったいぶらずに、自分の思うところを記すことにした。
〈南側と北側の銅像の顔は、それぞれ喜怒哀楽を表してるようでした。迷夢に引き込まれて悲しんだり怒ったりするのは分かるんですけど、なんで喜んだり楽しんだりするのか…。その理由を考えたら、なんだか複雑な気分になりましたね。〉
記したとおり、その顔に複雑そうな笑みを浮かべるシュルク。
〈迷夢に囚われた方が、幸せな人もいる。そういうことなんじゃないですかね。おそらく、ドリオンがよく見られた頃は、自分からドリオンに襲われる人もいたんでしょう。もしくは、あの銅像を作った本人が、迷夢に憧れでも持っていたのかもしれません。〉
迷夢に囚われた者は、二度と現実に戻れない。
だが、迷夢が地獄だと、誰が断言できるだろうか。
誰も知らないが故に、迷夢の世界は天国にも地獄にもなりえる。
現実に疲れている者にほど、迷夢の存在は蠱惑的に見えたことだろう。
……皮肉なことだ。
羽をはためかせて自由に飛び回るよりも、羽を失って夢から目覚めない方が幸せとは。
(まあ……夢の中の方が自由でいられるってことも、あるのかもな。)
自分には完全に理解できないが、きっとそんな人がいるのも事実で。
そしてそんな人がいたからこそ、あんな作品が出来上がったのだろうと思う。
「………」
シュルクは、文字を書くことをやめて何かをじっと考え込んでいるミシェリアを見つめる。
現実よりも、一生抜け出せない夢の方がマシだなんて……
(好きなら、この人にそんな悲しいことを思わせるんじゃねぇぞ。ヒンスさんよ。)
フィオリアは尊敬できるほどに我慢強いが、限界が来たら喚いてくれるから、まだ救いようがある。
だが、ミシェリアはどうだろう。
身分をコンプレックスとしている彼女は、屋敷の誰にも自分の心を吐き出せずにいる。
かといって、屋敷の外に逃げることは、ヒンスの立場を慮ってできないのだろう。
そんな彼女が限界を越えたら、どうなってしまうのか。
願わくは、それが彼女の命を脅かすような事態にならなければいいけど……
ガタン、と。
椅子を引く音が聞こえたのは、その時のことだった。
「フィオリア?」
突然立ち上がったフィオリアに、シュルクは不思議そうに首を傾げる。
「私、自分の部屋に戻る。」
そう言うや否や、フィオリアはすたすたとドアへと向かっていってしまう。
「お、おい! 何怒ってんだよ!?」
彼女の口調からそれだけを感じ取り、シュルクは離れていくその背に声をかける。
フィオリアは、半身だけをこちらに向けて……
「別に、怒ってないもん。私がここにいてもお邪魔みたいだし、どうぞごゆっくり!」
つんと顔を背けて、部屋を出ていってしまった。
「え……は……ええ…?」
まるで聞く耳を持たないというような、彼女らしくもない態度。
ただ分かる。
今までの経験上、あの態度はどう見ても―――
「え、ちょっと待って。あれでヤキモチを焼くの…?」
そういうことだよな?
「えっ? ヤキモチって……あら大変!」
シュルクの言葉で事態を把握したミシェリアは慌てて立ち上がると、フィオリアを追いかけていこうと駆け出す。
「ああ、待った! それは、余計にややこしくなるから―――」
呼び止めるも時すでに遅く、開閉するドアの音が虚しく耳朶を打つだけ。
「マジか……めんどくせぇ……」
シュルクは頭を抱えた。
ミシェリアには懐かれ、ヒンスには敵意を向けられ、その上フィオリアにはヤキモチを焼かれ……
これだから、この屋敷に長くいたくなかったのだ。
いいことなんてありやしない。
しかし、一刻も早くここを離れたい気持ちとは裏腹に、肝心の運命石が見つからないときた。
頼むから、これ以上事がややこしくならないでほしい。
深くうなだれ、切に願うシュルクだった。
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